時代は太平洋戦争。戦時下における若者たちの青春を主題にした物語です。
戦争について基礎知識の無かった私でも、問題なく物語の中に入り込むことができましたので、戦争モノだといって敬遠する必要はまったくございません。
大勢の民間人を巻き込んだ無差別な絨毯爆撃、爆薬を抱えて敵艦に突撃する特攻作戦、そして核兵器である原子爆弾の投下。日本も、アメリカも、みんな戦争という熱病に狂っていたのかもしれません。
そんな狂気が漂う空気の中、若者たちは青春を謳歌します。時に友と笑い合い、時に恋にのぼせ、時に戦争に踏み躙られ…… しかし、確かにそこには輝くものがあったのです。それを知ることは、戦争を実体験していない我々にとって、とても重要なことのように思います。
終戦からもうすぐ八十年。令和の時代になり、また戦争の脅威が身近なものになってきました。平和を望む気持ちは皆同じであり、日本から仕掛けるようなことはないと思いますが、現在の世界情勢を無視することはできません。その上で、本作をお読みいただくことで、戦火に散っていった多くの若者や、命を落とした大勢の民間人に思いを馳せながら、日本が今後どう進んでいくべきなのかを考えるきっかけにしていただければと思います。
無慈悲な戦争の現実と、戦時下の若者たちの青春、儚くも強いその輝きをぜひ本作で感じ取ってください。
時は昭和初期。第二次世界大戦の火蓋が切って落とされる頃。
日本軍と米軍との凄惨を極める戦闘。日本軍の慢心が招く状況の分析軽視と、その戦力の歴然たる差異とが引き起こす惨状とが、史実に基づいた精力的かつ卓越した筆致で繰り広げられます。
生活物資の搾取に喘ぐ国民。その非情たる日常の描写に、胸が苦しくなるほど締め付けられます。
克明な日付とともに描かれる日々の営みの変化に、その写実的かつ現実的な精緻の至りに、瞠目します。
家族の元へ届けられる訃報と遺留品。
息を呑むような悲嘆に暮れる心情と、涙を乗り越えてもなお、未来へと向かう滲む眼差しとが、今も心を打ちます。
とても涙なしでは読めません。
傑出です。