第3話 頭のおかしい転生者

「大きな町だなぁ」


僕が潜伏先に選んだのはドーデ王国の首都モーイだ。

異世界転生に必須ともいえる機関の全てがここに存在している。


とはいえ、僕が利用することは殆ど無いだろう。

僕は冒険者になるつもりもないし、職人になるつもりもない。


僕の目的は小さなアジトを構えて義肢の研究を進める事だけ。

お金は野生動物や猛獣モンスターを狩猟し素材を売って獲得するつもり。

それで得たお金で生活費を賄う。


それ以外は研究に没頭したい。


「取り敢えずは住処……いや、服かな」


現在、僕が着ているのはボロボロの布の服である。

そこに鋼鉄の義肢を装着しているのだから、姿がちぐはぐなことになっている。

これでは乞食なのか、騎士なのか、はたまた冒険者なのか判断に困るであろう。


町に入る際の衛兵も困惑していたくらいだし。


ビルドキャリアーは取り敢えず近くの森の中に待機してもらっている。

アジトを用意してから中に収納しようか、と思っているのだ。


いや、それにしてもこの義肢は日常生活に向かないな。

特に足が逞し過ぎる。

うっかりホバー移動したら仰天されてしまったし。


早急に細身の腕と足を用意しないといけないな。


「ん? 古着屋か……覗いてみるかな」


それは大通りの脇に並ぶ露店だ。

結構な量の古着が雑に積み上げられている。


現在の所持金は奴隷商から奪った十万カネー。

これで全てを賄うことはできないだろうから、服も最小限の購入に留める。


現段階では能力を用いて服を作るのは難しく断念した。

いずれは作れるようになりたい。

それまでは店を利用するより他にないだろう。


「いらっしゃい……金は持ってんだろうな? 貧乏人? いや、騎士様!? どっち!?」

「あぁ、うん。持ってるよ、十万程」

「あっはい、どうぞご自由にご覧下さい」


頭部が光り輝くおっさん店主は、僕の出で立ちに混乱したもよう。

それでも所持金を聞くと何とか立ち直ったようだ。


取り敢えず身体に古着を合わせる。

現在は義肢のお陰で身長が高いが、肉体年齢が十歳と考えると服もそれに合わせるべきであろうか。


いや、普通に義肢を付けて生活するのだから、それに合わせるべきか。

肉体が成長しても微々たるものだろうし。


「緑色のワンピースか……これでいいや」


僕は服に無頓着なので、これだけ着れば外出可能となるワンピースを購入することにした。

デザイン、色はバラバラではあるが全てワンピースで統一する。


「毎度ありがとうございましたー」


店主に笑顔で見送られる。

同時に嫌らしさも感じられた。

恐らくは僕を獲物として定めたのだろう。


暫し歩くと尾行されていることに気付く。

僕は戦闘のプロではないが、こんな僕にも気づかれるのはどうかと思う。


どうせ、連中は逃がす気が無いと思うので、適当な場所で殲滅しておきたい。

数は三、大人の男たちだ。

チラリと見た感じ、身体の大きいごろつき、という感じだ。


冒険者崩れの可能性も否定できないが、どちらにせよ僕には勝てないだろうと予想する。


現在の僕の装備はDパーツセット。

奴隷商を始末した際の装備のままだ。

ただし、街中ということでヒートソードとバズーカ砲はビルドキャリアーに格納してある。


唯一の武器は懐に隠してあるハンドガン。

これも実弾ではなく魔法弾を射出する。

属性は魔属性。

魔力を硬質化して射出する、というシンプルなものだ。


実はどういう原理で銃から弾が発射されるかは僕でも分からない。

取り敢えず、銃の形でスクラッチして完成したらなんらかの機能を発揮する、というのが僕の力の一つなのだ。


かなりふんわりとした能力なので、時折想定外の機能を示す場合がある。

なので自分の能力とはいえ油断ならない。


とはいえ、だいたいは想像通りに機能してくれるので不自由はしていないのだが。


僕は裏路地へと入る。

予想通り男たちが仕掛けてきた。


驚いたことに裏路地には三人の男が控えており、僕のゆく手を遮っている。


「ようこそ、お嬢さん」

「早速だけど、身に着けている物、全部置いていきな」

「まぁ、おまえ自身ももらい受けるけどな」


既に勝利したかのようにゲラゲラと下品に笑う男たち。

人はそれを勘違いという。


では見せてやろう、頭がおかしくなった転生者の応対というものを。


僕は重々しい足音を立てながら追いはぎの一人に近付く。

そいつは僕を過小評価しているのだろう。


まぁ、武器を持っていなさそうな姿だから仕方がない。


僕は男の腹部をビルドアームで貫いた。

そして、【もつ】を引きずり出す。


「あ?」


自分のもつを目の当たりにした男は目を白黒させる。

何が起こったか分からないのだろう。

だから、顔面を掴んでそのまま握り潰してあげました。


ぐちゃり、と音を立てて人間だった物が地面に転がる。

呆然とする追いはぎたち。

仲間の凄惨な最期を見届ければこうもなろう。


だが、そんなことは僕には関係のない事。

連中が呆けている隙を突いてもう一人、血祭りにあげる。


流石に二人目がずたずたに引き裂かれたことによって正気に戻ったのか、叫び声を上げる。


こちらに向かってくる者、脇目を振らずに逃げ出す者。

僕が仕留めに掛かったのは後者。


誰一人として逃がさない。


「行けっ、鉄拳。テレキネシスパンチっ!」


左ビルドアームを解除。

それをテレキネシスで操り対象にぶつける。

ようは【ロ〇ットパンチ】である。


ただし、推進力を用いた兵器ではなく超能力で操る質量兵器だ。

だが、威力は十分。

生身の人間程度なら容易に破壊できるだろう。


ほら、背を向けた追いはぎが胴体に大きな穴をあけて倒れた。


もちろん、テレキネシスで操作しているので、僕の元へ戻すことも余裕だ。

そのまま左腕に接続し戦闘を続行する。


「ひぃっ!? な、なんなんだっ! おめぇはっ!!」


僕はにっこりと微笑むだけで答えを返さない。

これから死ぬやつらに語ったところで意味など無い。

無駄な労力だ。


残りは三人。

こちらは僕と正面から殺り合うらしい。


上等。


「得体の知れねぇ武器……恐らくは【アーティファクト】だ! 油断するな!」

「おう!」


出た、ファンタジーお得意の、よく分からない物は全部アーティファクトで片付ける理論。


「俺たちをくたばった連中と一緒にするなよ!」

「三位一体の攻撃!」

「防げるものなら防いでみやがれ!」


「「「ジェットストリ――――――――」」」

「言わせないよ」


はい、三人が一列になったところでロケットキックならぬテレキネシスキックをお見舞いしてあげました。


彼らは腕ばかりを気にしていたので、脚が跳んで来るとは微塵も予測していなかったのです。


哀れ、彼らは仲良く、どてっ腹に大穴を開けて絶命しましたとさ。


「まぁ、足が飛ぶとか考えないよね」


飛ばした足を回収し、戦利品を頂戴する。

それを先ほどの露店に売りに行く。


「やぁ、店主。こいつを買ってくれないかな?」


思いっ切り笑顔で。


「ひ……こ、これを、どちらでっ!?」

「いやなに、厳つい顔のお兄さんたちからもらったんだよ。彼らはお腹が痛くなったんで、不明の場所に旅立っていったんだけどね~」

「……!」


店主は追いはぎとグルだったことを見破られ観念したようだ。

震える手で有り金を全部差し出すと店を残して走り去っていった。


「真面目に商売をしていればいいものを」


今回の件で十三万カネーの稼ぎになった。

でも、これじゃあ家を買うには程遠い。

やはり、狩りをしてお金を貯める必要がある。


当分は宿を借りて、コツコツと貯金するしかないな。


「さて、宿でも探すか」


僕は店主のいなくなった露店を後にし、できるだけ安い宿屋を探すことにした。

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