第4話 仮拠点

暫く歩き回り宿屋を探すも、ここという場所を決めかねる。

情報が圧倒的に足りないのだ。

それに気付いた僕は情報を求め、酒場を訪れることにした。


こういった情報はやはり人の集まる場所で収集するに限る。


モーイの町の酒場【デローン】。

よくあるファンタジーの酒場で無駄に活気があり過ぎる印象だ。

店内は薄暗く、店内に吊るされたランプが雑に店内を照らしている。


結構な歴史を感じさせる古めかしさ。

しかし、客層が客層なので【おんぼろ】という表現で事足りるか。


「いらっしゃい! あら、見ない顔ね」

「あぁ、今日、ここに来たんだ」

「そうなのね? ここは良い町よ! ゆっくりしていって!」


ブラウンのお下げウェイトレスが愛想よく応対してきた。

爆乳が零れ落ちそうなほど胸元が開いたドレスを着こんで接客をしている。

スカートの丈が短い上に尻も大きのでパンツも見られ放題だ。


ここはそういう店なのだろうか。

いずれにしても僕には関係ない。

ここには情報を集めに来たのだから。


まずは店主に話を聞こう。

彼なら客の噂話を耳にしているだろうし。


カウンター席に向かう。

テーブル席で酒を飲みながら騒いでいるのは身形からして冒険者、といったところか。


「血の臭いがするなぁ。しかも、人間の」


黒髪のツンツン頭がわざとらしく聞こえるように独り言を言った。


「新鮮だよ」


なので僕も彼を真似た。


「ガキ、おまえ、殺人鬼か?」

「嫌だなぁ、【人間】を殺した覚えはないよ?」


盗賊、強盗は人間には含まれません。


「……裏路地の連中をやったのは、おまえだな?」

「そうだ、と言ったら?」


ツンツン頭が剣の柄に手を伸ばす。


だが、戦いは既に始まっているのだよ。


僕は既に君の剣を鞘から抜けないようにテレキネシスで押さえ込んでいるのだ。

君が剣を抜こうとした瞬間、僕のテレキネシスパンチが火を噴くぞ。


一方的に殴られる怖さを教えてやる。


「やめろ! カーン!」

「だけど、おやっさん! こいつは冒険者をっ!」

「死んだ連中はな、裏家業をやってた連中だ。返り討ちにあった、それだけの事」

「……ちっ」


ツンツン頭は剣の柄から手を放し、面白くなさそうな顔で椅子に腰を下ろした。


「嬢ちゃん、済まねぇな」


おやっさんと呼ばれた男は酒場の店主のようだ。

薄くなった頭部に比例して豊かなブラウンの髭が特徴的。

元冒険者なのだろうか、筋肉モリモリの巨漢だ。

黒のタキシードを着こんでいるが死ぬほど似合わない。


「済まないで済んだら衛兵はいらない。謝礼をちょうだい」

「おまえなぁ……もう少し目上の者に対する……」


店主の目付きが呆れたものに変わる。

蒼い瞳は僕を見極めんと忙しなく動いていた。


「僕にそういうものを期待しないで。これでもかなり譲歩しているんだから」


僕の返答に彼は肩を竦めた。


「あー、あー、分かった、分かった。で、何が欲しいんだ? 金か?」

「それも欲しいけど、今回は別件だよ。程よい宿屋を探しているんだ」

「宿屋か……」


店主は豊かな髭を撫でた。

よく手入れをされているそれは驚くほどにキューティクル。


「なら、うちで良いんじゃないの? パパ」


店主との会話に爆乳ウェイトレスが介入してきた。

どうやら、この二人は親子であるもよう。


「だが断る」


この間、僅か0,2秒。


「「早過ぎるっ!」」


親子の驚愕のツッコミが炸裂した。


宿矢に泊まっている間も研究は続けるのだ。

こんな賑やかなところで研究などしていられるわけがない。


「僕の理想は【安くて】【人目が少なくて】【客を放っておいてくれる】ところだ」

「それなら、うちはダメだな。真逆だ」

「えー? 賑やかな方が良いじゃない」


爆乳ウェイトレスはご立腹のもよう。

だが、知ったところではない。


僕の技術は外部に漏らしたくないのだ。

外部に漏れたなら厄介なことになるのが目に見えている。

そうなった場合、僕はそれを完全に破壊し尽くすだろう。


「なら、街はずれの貧民街近くに一件、潰れかけの宿がある。そこなら、おまえさんの望みが叶うだろうぜ」

「ありがとう。行ってみる」

「まぁ、待て。折角来たんだから、何か飲んでいけよ」

「十歳です」

「はぁ?」


僕は「じゃ」と手を上げて酒場を後にした。

この世界では十五歳で成人、飲酒が可能らしい。


でもまぁ、お酒を飲んだら後は寝るだけになってしまうので、飲むことは殆ど無いだろうな。

飲むとしたら地球に帰還出来たら、だろう。






酒場デローンの店主から聞いた宿はここで合っているはず。

だが、それはどう見ても廃墟にしか見えなかった。

既に潰れて久しいのだろうか。


取り敢えずは入り口のドアは開いているので入ってみる。


「いらっしゃい」

「うわっ、びっくりした」


恐ろしいほどに気配が無かった。

しかし、入り口の横にカウンターがあり、そこに老婆の姿があったのだ。


彼女は黒いローブに身を包み煙管を燻らせている。

まったく接客する気など無いらしい。

婆さんは、いらっしゃい、と言った後は天井を眺めていた。


「何してるの?」

「天井の染みを数えているんさ」

「そう、一部屋お願い。一ヶ月」

「一泊五百カネー。部屋は好きなの選びな」

「了」


僕は一万五千カネーをカウンターに置いて部屋を見る。

一階に五部屋、二階に七部屋。

全て同じ大きさで六畳一間といった感じだ。


部屋の内容はおんぼろのベッド、くたびれた机、椅子、そしてランプ。

ランプの油は切れている、という徹底ぶりだ。

そして、窓が各部屋に一つ。

もちろん、カーテンなどは存在しない。


宿の設備は共同トイレのみ。


調理場などは無く、また井戸も離れた位置に存在している。

したがって宿屋に必須ともいえる食堂施設はない。


まさに寝るだけの宿だ。


「客の姿は無し。まさに理想的」


僕の要求した条件が全て揃っている優秀な宿だった。

ただ、不衛生なのはいただけない。

ここは自分で掃除をして病気にならないようにしなくては。


部屋は二階の奥の一室を使用することにした。

窓を開けて清掃の仕度をする。

部屋に溜まったゴミや埃を窓から放り投げる。


町の衛生面など知ったところではない。

そんなものより僕の健康が大事だ。


「このベッドもダメだな。机も酷い、椅子も最悪だ」


当然、ランプもダメ。


一時的な仮住まいとはいえ、これはいただけない。

であるなら【スクラッチビルド】だ。

素材は、このおんぼろたちと外にあるゴミを利用しよう。


まずは能力でおんぼろを【リサイクル】。

一旦、粒子状にして素材ごとに板にする。


おんぼろだけでは足りないので外へ出て素材を集める。

ベッドは木製にするので枯れ枝や木っ端などをリサイクルしてかさ増し。


ある程度、板にできたなら次は【ランナー加工】。

パーツをイメージして板を加工する。


バシュッ、と音がして板がパーツ付のランナーに早変わり。

この際は素材が痛まないように常時テレキネシスで宙に浮かせている。


それらを【イメージングニッパー】で切り出す。

イメージングニッパーは能力で生み出す自由に大きさを変えれる工具だ。

こいつを例えるなら物質化できる幽霊みたいなもので、普段は僕の体の中に収納されている。


各パーツを切り出したら組み立て。

不要なバリをニッパーでカットし、仕上げに【イメージングヤスリ】で綺麗にやする。

これも原理はニッパーと同じ。


仕上げをしっかりとやることで、出来上がる道具たちの性能は大きく向上する。


そして、最後に塗装。

これも【イメージングペイント】という特殊な道具を使用する。

塗装次第では、想定外の能力が付与される場合も。


まぁ、雑に言えば、これらは全て【プラモデル作り】である。

机やベッドもプラモデルに見立てて組み上げる、というのが僕の能力なのだ。


なので、素材さえあれば毛布やマットレスも作ることが出来る。


難点としては、必ず素材は必要以上に揃える必要がある、ということか。

プラモデルの性質上、パーツ以外にもランナー分の素材が必要になるからだ。


もちろん、余ったランナーは使い道がない。

これらもリサイクルして板にできるけど、拠点がまだないので保管する気は無い。

バラしてゴミとして出すより他にないだろう。


それか、開いている部屋に放り込んでおくか、だが。


「なんにせよ、ひとまずは快適に寝泊まりできる部屋、完成っ」


家具以外は簡単に清掃しただけだが、取り敢えずは問題ない程度には綺麗になった。

カーテンも布切れを集めてシンプルなものを作って、日差しと外からの視線を防ぐことに成功。


ベッドは寝返りを打ってもギシギシしない作りに。

頑張ってマットレスを作り、薄くて暖かい毛布を作成。

もちろん、快眠枕も作りましたとも。


机と椅子もガタガタだったものを新品同様に。

ランプもオイル式から魔力式に変更。

魔力を注いだ分だけ部屋を灯す便利道具に生まれ変わりました。


取り敢えずは、こんなところだろうか。

後は物取り用に防犯設備をしっかり用意して全ての作業は完了。

仮の拠点が出来上がった形だ。


「すっかり日が落ちちゃったな。何か食べに行くかな」


この宿屋には食堂が無い。

したがって、腹を満たすならどこかに食べに行かなくてはならない。

僕は腹を満たすため夜の町へ向かう。

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