第5話 食事

仮拠点のある宿屋は貧民街の境目、というかその入り口に存在する。

したがって、ガラの悪い連中が絡んでくるのは致し方が無いと言えよう。


そんなわけで現在、僕はチンピラどもに絡まれているわけで。


「おいおい、お嬢ちゃん。こんな夜中に一人歩きは感心しねぇなぁ」


The・チンピラ、としか言いようのない頭の悪そうな男どもが五人ほど、僕を囲って威圧してきた。

正直な話、この人数で僕をどうこうできるわけもなく。


「さぁて、それじゃあ、置く物、置いて行ってもらおうかい」

「ていっ」

「あわびゅっ!?」


顔を近づけてきたチンピラの顎を鋼鉄の拳で打ち抜いた。


効果、相手の頭部ははじけ飛ぶ。


正直、チンピラでは相手にならないので戦闘の詳細は省く。

結果だけ言うと、ミンチが五つほど地面に転がった。

放っておけばカラスっぽい鳥たちが綺麗に片付けてくれるだろう。






町の中心部までやって来た。

ここら辺までくれば衛兵が巡回しているとあってチンピラどもも活動を自粛している。

もっとも、ひと目が無い場所はその限りではない。


「この格好じゃ店内は無理かな。露店で済ませちゃおう」


Dパーツは腕はともかく、膝から下が太過ぎる。

したがって、どうしても店内での移動が困難になる予想が付いた。

なので僕は外で食べ物を提供している店で夕食を済ませようと考えた。


料理を提供している露店は数が多く、中には立ち飲み居酒屋のような形態をとる場所も。

生憎と僕はお酒はいらないので、普通の食べ物屋を探す。


すると黒パンに沢山の具材を挟んで売る、という店を発見した。


脂ぎった豚肉を甘辛いソースで和えた物、それをレタスっぽい葉野菜で包んでパンで挟んだ物を【ブラッパ】と呼ぶらしい。

この町の住人が好んで食べる携帯食だそうだ。


価格は二百五十カネーとボリュームの割には安い価格設定。

美味しそうなので一つ購入し、その場で、がぶりゅっ、と頬張る。


甘辛いソースに豚の肉汁が加わり、脳を貫く快感が勅に伝わる。

豚肉は赤身の部分がしっかりとした噛み応えで歯を楽しませてくれるだろう。


葉野菜は思った以上に苦みが強いらしい。

それ単体であるなら苦くて食べるのを断念するかもしれない。


しかし、その苦みは甘辛いソースと、甘い脂身が合わさって、さっぱりとした味に変化するのだ。


極めてシンプルな構成だがまったく飽きが来ない味に、僕は初めてこの世界に転生してよかった、と思ってしまった。


ぶっちゃけ、これは屈辱である。


この世界で良い事があってはいけないのだ。

地球に帰る、という決心が鈍ってしまうから。


「これで勝ったと思うなよっ!」

「えぇっ!?」


もごもご、と口いっぱいにして僕は負け惜しみを言った。

もちろん、ブラッパを売っていた店主は困惑しましたとさ。


お腹がいっぱいになった僕は帰路に。

その途中、次の日の朝食について考える。


仮拠点はとにかく研究と寝るだけの設備しかない。

食事をするためだけに、ここまで来るのは億劫だな、と思った次第だ。


でも、ご飯くらいは美味しい物を温かい状態で口に入れたいと思うのは人情だろう。


「そうか、町の中心に楽していけるようにすればいい」


それは、移動手段の確保。

自転車、バイク、車、流石にビルドキャリアーは使えないが、候補は幾つかある。

それを仮拠点で制作し、早速、明日にでも実戦投入してみようと思う。


このDパーツのホバークラフトも使えるが、とにかく脚部の太さが移動の阻害に繋がる。

平地での長距離移動に関しては、この脚部ほど有用な物は無いが、障害物が多い場所では性能を発揮することは難しいのだ。

もっとスマートで使い勝手が良い脚部が必要だ。


既にプランは脳裏に浮かんでいる。

後は実際に製造するだけだ。


あぁ、材料も必要だな。

必要な材料を取りに、ビルドキャリアーに向かわなくては。






「……あれ? もう朝?」


気付けば夜は過ぎ去り、新しい朝を告げる太陽が顔を覗かせていた。

だが、夢中になっていた甲斐もあり、僕が望んだ義肢は完成に至っている。


本来なら頭部と胴体も作っておきたかったが素材が不足していたため断念。

これらは追々、制作することにする。


現段階では欠損している部位を補えればそれでいいのだ。

本格的な資金稼ぎの段階に移行できれば、その時こそが制作に踏み切る時であろう。


Dパーツを解除し新パーツである【Sパーツ】を接続する。

これらのパーツは基本カラーがグリーン。

そして、装着すると硝煙の臭いが漂う感じがし、無性に苦いコーヒーが飲みたくなる。


「ふぅ……咽る」


思わずそう言わずにはいられない。

昨日買った緑のワンピースを着こめば更に親和性が増すであろう。


「これで今日から僕も【最低野郎】だな」


もちろん、参考にしたロボットはス〇ープドッグだ。

このロボットの脚部に搭載されたローラーダッシュ機構が使いたかったのだ。

急旋回用のターンピックは後日、実装とする。


まずはローラーダッシュに慣れないといけない。

早速、僕はSパーツの慣らし運転に取り掛かる。


「うわわっ!? 姿勢が安定しないっ!?」


Dパーツのホバークラフトの安定感と比べてローラーダッシュは全くと言っていいほどに安定感が無かった。

それはきっと、タイヤによる平地移動が関係しているのだろう。


タイヤが直接、地面と接地しているので、地面の凹凸による影響が出ているためだと思われる。


「フル装備にして重量を増せば安定するのかな」


機械と違って僕は生身なのでオートバランサーは搭載していない。

自分の経験と勘だけがローラーダッシュを制御できるのであろう。

つまりは数をこなして慣れろ、ということだ。


難しいからといって直ぐに諦めるのはプライドが許さない。

したがって、このまま強引に朝の町へと赴く。


なんとか町の中心に辿り着いた時にはSパーツはベッコベコの哀れな姿に。

ス〇ープドッグの設定通り、装甲をペラペラにしたのが仇となったか。


とほほ。


それでも苦労して食べた朝食は驚くほどに美味しかったです。


またブラッパだけどね。

ほんと、美味しいのよ。これ。

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