第9話 勝者と敗者

「……あれ? 終わった?」

『終わりましたね。思ったよりもあっさりと』


狩りは拍子抜けするほどにあっさりと終った。

ミラージュバタフライの胴体ははじけ飛び、しかし翅は無傷で回収できる、という万々歳な結果に。


「う~ん」

『どうしました?』

「いやね、こう上手く行き過ぎている時って、大抵、反動が起こるもんだって」

『なるほど……未確認機、接近』

「未確認……機?」

『はい、アースのビルドアーマーに酷似しております」

「なんだって?」


それは真っ赤な機体だった。

この世界における全身鎧に無理矢理スラスターを付けたかのようなそれは、僕から5メートルほど離れた位置で停止。


武装はロングソードにラージシールド。

この世界の騎士の一般的な装備だ。


でも、頭部のヘルメット、その左右に開いている穴が気になる。

もしかしなくとも、それはバルカン砲に違いない。


「貴様、いったい何者だ?」


赤い騎士が問うてきた。

それはこっちのセリフだ。


「あんたこそ、いきなりなんだ。失礼なやつだな」

「女……いや、子供か?」

「だったらなんだ」

「その足……貴様、ロストだな?」


もしかして、こいつ奴隷商の手先かなんかか?


『アース、彼はロークデモ教の騎士のようです』

『なんだって?』


アルとテレパシーで会話。

なので赤い騎士には僕たちの会話は聞き取れないはず。


『盾の三つ首の獅子はロークデモ教のシンボルです。間違いありません』

『一番遭遇したくない奴と出会っちゃってるじゃん』

『面倒なことになりましたね』


僕たちがテレパシーでやり取りしている間に、赤い騎士は突然、抜刀した。


「ロストは人間にあらず! 捕らえ罪を償わせるのが教義である!」

「勝手なことを」

奴隷つぐないものとなり、神に許しを請うのだ! 娘よ!」

「やなこった」

「愚か者めっ! ならば、更なる過酷な罰が待っていると知れ!」


赤い騎士が仕掛けてきた。

スラスターを吹かして猛スピードで突っ込んでくる。

マントなどは装着しておらず、代わりにランドセルユニットを装着しているもよう。


「なんのっ!」


後退しながらバズーカ砲で迎撃。

本当は横に回避したかったけど、今は四輪形態なので無理。

こういう時に瞬時に変形できるのは便利なのだけど。


「っ!? 先ほどの魔法かっ!」


バズーカ砲の砲弾を盾で受け止められた。


結構な威力を誇るバズーカ砲の爆発を耐えきる盾か。

厄介な事この上ない。


『かなり強固な盾ですね』

『だね。盾をなんとかしたいな』

『でしたら、まずは足を止めさせましょう。マシンガンの出番ですよ』

『なるほど……こうかな?』


赤い騎士はバズーカの砲弾を盾で受け止めたため、バランスを崩して地面に足を付けている。

この隙に彼を中心として旋回しながらマシンガンを叩き込んでやる。


狙いは脚部。

特に関節部分。


身動きが取れなくなれば、あとは焼くなり煮るなり自由だ。

もちろん、スラスター部分も積極的に狙う。


「ぐっ! おのれっ! 飛び道具とは卑怯なりっ! 騎士なら正々堂々と正面から戦え!」

「何言ってんだ、こいつ。馬鹿なの? 僕、騎士じゃないし」


はい、スラスター沈黙。

脚部装甲もボロボロだ。

もう一押しで完全に破壊できるだろう。


「それっ、部位破壊っ」


赤い騎士は「ぎゃっ」と悲鳴を上げる。

赤い鎧を自身のドス黒い血で染め上げた。


奴の膝は使い物にならなくなっただろう。

その場に崩れ落ちる。


こうなってしまっては大きな盾は使い難い。

後は背後からバズーカ砲を叩き込んでお終いだ。


「さて、どうしようか。面倒だし……殺しておくかな」

「や、やめろっ!? 私はロークデモ教の騎士であるぞ!」

「ふーん。それで?」

「なっ……!?」

「おまえは単なる略奪者だ。そして敗者でもある。そして、僕は勝者だ」

「こ、後悔するぞっ! 神に愛されし我らに楯突く事がどういうことか……」


バズーカ砲を叩き込む。

哀れ、赤い騎士は爆発四散。

どうやら背中が弱点であったもよう。


「汚い花火だ」

『完全に悪役のセリフですね』

「否定はしない」


何にせよ、敵は撃破した。

後は確認というか、気になった点を調べる。


もげた頭部を拾い上げて兜の穴を調べてみる。

やはり、そこは魔法弾を発射できる仕組みになっていた。


「アル、どう思う?」

『この世界の技術で作られたとは思えませんね。アースとは多少異なりますが同系統の技術かと』

「僕もそう思う。となると厄介だね」


うん、思い当たる節があります。

僕と同時期に転生したあいつの仕業。

十中八九、間違いないと思う。


ただ、僕とあいつとでは力の源流が異なっている感じがする。

そこがきっと、勝負の分かれ目になるに違いない。


「でも、ビルドが甘々だ。たぶん、これを作った奴は試行錯誤の真っ最中だね」

『では、早い段階で叩くのが得策ですね』

「そうしたいのは山々だけど……多分、無理」


だって、そいつは勇者として召喚されたチート能力持ちだろうから。


個としての能力は規格外だろうし。

それに、これは仲間を強化する実験に違いない。

であれば、これに手こずっている現状で勝負を挑んでも手も足も出ないで終わるだろう。


「参ったなぁ……もっとのんびりと事を進めたかったんだけど」

『いっそ、開き直ってのんびり事を進める、というのはどうでしょう?』

「まぁ、僕の性格的に急いでいても、そうなる可能性は十分にあるかな」


うん、開き直ろう。

急いでも結果が良くなるかどうかは分からないのだから。


だけど、そんな僕らの下に次なる珍客が訪れる。


「ぎっぎっぎっ、見ていた! 見ていた! おまえ、騎士を殺した! ロークデモ教の騎士、殺した!」


背後から小汚い声。

慌てて後ろを振り向く、とそこには一匹のゴブリンが立っていた。

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