第8話 欠損(ロスト)

早速、完成した四輪脚部用のユニットを装着してみる。


うん、二脚状態だとかなり上半身がマッシブ。

完全に逆三角形だ。


それでは外に出てっと。


「おはようさん」

「おはよう、女将さん。ちょっと変形実験して来る」

「ひっひっひっ、あんたも変人だねぇ」

「それほどでも」


置物のお婆ちゃんに挨拶を受けて応対。

彼女はこういった珍客に慣れているのだろう、どんなことがあっても通常運転であった。


では、四輪状態に変形。

脚部がゆっくりと展開し下半身が幅広の形体に。


そうそう、脚部ユニットには簡易的にだけど装甲を付けてみた。

といっても骨組みに簡単な形状の鉄板を張り付けただけ。

無いよりかはマシ、といったところだ。


戦闘データを蓄積して行けば、四輪脚部に適した形状が判明するだろう。

だから今はこれで様子見とする。


バズーカ砲は背中のランドセルユニットに縦に装着している。

横に装着するとドアを潜る際に引っ掛かりそうだったので。


「うん、装甲もタイヤ展開の際に干渉しないな。取り敢えずはこれで良し」

『どうやら、問題無さそうですね』

「わっ、びっくりした」


いつの間にか右肩にクモ・アルがくっ付いていた。

昨日、アルにせがまれて、もう一機製造したのである。


今度はダークグリーンを基調としたカラーリングで、武装は無いが背中に索敵用のレドームを背負っている。


編み笠を被った蜘蛛みたいで可愛い。


『この子でアースの狩りの手助けをしましょう』

「情報収集の方はいいの?」

『それも同時に行います。私たちは身を分けても情報の並列処理が可能なので』

「それは凄い。それじゃあ、百体くらいに分裂しようよ」

『限度というものがあります』

「だよねー」


そんなわけでアルのクモ・アルを伴い狩りに赴くことに。

その前に朝食。


もちろん、四輪形態でバビューンと露店前に到着。

店主のおっちゃんが身構えるも、今度は露店に突っ込む真似はしない。


Sパーツとは違うのだよ、Sパーツとはっ。


「ブラッパちょうだい」

「うわっ、どんな化物かと思ったら、おまえかっ!? ほらよ!」

「ありがとう。はい、お金」

「毎度あり! それにしても何だいそりゃ?」

「僕の狩り用の鎧みたいなもの」

「鎧って……完全に足がおかしなことになってんじゃねぇか」

「あぁ、大丈夫。僕の足は元々無いから」


そう告げる、とおっちゃんは渋い顔を見せた。


「おめぇさん、【欠損ロスト】なのか」

「ロスト?」

「あぁ、身体のどこかが欠損している奴の事をロストって言って侮蔑する悪習があるのさ。しかも、そういったやつは高確率で奴隷商に捕らえられる」

「それは犯罪じゃないの?」


おっちゃんは憤慨したかの様子で地面に唾を吐きかけた。


「普通はそうだ。だが、ロストは人間ではないって【ロークデモ教】の経典に記されていてな。それを理由に連中はやりたい放題さ。人間の屑ってやつだ」

「反撃すればいいのに」

「身体の一部を失っている連中が、そんなことできるわけねぇだろ」

「僕は四肢がないよ?」

「おま……絶対に他の奴には言うな。そしてバレるな」

「考慮する。もぐもぐ」


このおっちゃんは、なんだかんだ言って良い人だ。

能天気な僕を見て苦笑いをしている。


「大丈夫、僕は戦う力を持っているから」

「だから心配なんだよ。ロストの中には戦える者もいた。でも、結局は健常者には敵わない。失った部位を執拗に狙われて不覚を取って、あとは奴隷……しかも最悪の【丸太】にされて売られるんだ」

「丸太って?」

「おめぇさんの状態の事だ」

「あぁ、四肢欠損。手も足も出ないってこと?」

「そういうこった。女だったのなら、なお悲惨なことになる」

「なんとなく理解した。じゃっ」

「店を壊さないのなら歓迎だ。また来な」


色々と情報を貰えた。

やはり、この世界は糞、という結論は変わらないようで。


ミラージュバタフライを求めて町の外へ。

道中、アルに愚痴をこぼす。


「酷い世の中だ」

『弱者に厳しいのはどこでも同じです。ですがロークデモ教は現時点では敵に回さない方が良いでしょう』

「叩き潰しちゃダメなの? 大したことなさそうに思えるけど」

『僧侶は大したことはありませんが、それを護る騎士を囲っているのです。あなたは完全武装した騎士十万人を一人で相手にすることが出来ますか?』


絶対に無理です。

ムリゲー。


「やだよ、面倒臭い。それに絶対に勝てないし」

『そうです。今の我々には、それだけの力がありません。ですから、ビルドスーツの完成は急務になるかと』

「だよね。一人じゃ出来る事にも限界があるし」

『はい、同胞たちも身体を長くして待ちわびていることでしょう』


ビルドスーツが完成すれば僕たちの戦力も大幅に向上するだろう。

なにより、人間と違ってスライムは僕を裏切る可能性が低い。


僕の目的はこの世界からの脱出。


スライムたちは神の排除だ。

あと、神を崇拝する人間の撃滅。

神を崇拝していない人間は見逃す方針のようだ。


スライムたちは理性があるので、何でもかんでも皆殺しというのは好ましくないと言っている。


『さて、お喋りはここまでです。いますよ』

「え?」

『ミラージュバタフライ。前方1キロメートル』

「結構、近いっ!」


慌てて背中のバズーカ砲を装備する。

ランドセルに簡単なサブアームを取り付けているので、肩越しにバズーカが顔を覗かせた。


それを受け取り肩に担ぐ。

バズーカ砲のターゲットスコープを覗き込む。

そこにはひらひらと舞う七色の蝶の姿。


「うーん、綺麗」

『バズーカ砲を使用の際は羽を狙わぬよう。素材が痛んでは安く買い叩かれますので』

「そうだった。じゃあ、狙うなら胴体だね」


でも、ピンポイントで狙えるかな?

ま、ダメだった場合は仕方がなかった、ということで。


「それじゃあ戦闘開始っ!」


バズーカ砲の引き金を引く。

砲弾が射出され、それはミラージュバタフライの胴体に直撃した。

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