第7話 狩りの準備

「ただいま」

『おかえりなさい。もう、試験は終ったので?』

「まぁね。良好だったよ」

『それは何より。クモ・アルも商人ギルドに潜入したところです』

「早いね」

『はい、途中で猫の背を借りましたので』

「なるほど」


僕は脚部パーツと腕部パーツを外す。

腕部パーツは、そのままSパーツの物を装着していた。


ちなみに、換装中は僕自身をテレキネシスで浮かせている。


軽作業の際は木製の義肢を装着することにしている。

そうじゃないと椅子やテーブルに大きな負荷がかかるからだ。


ベッドで寝る際は、そもそも義肢を外して寝る。

手足が無い分、僕の体重は凄く軽いのでベッドも負担が少なくて大喜びだろう。


「さて、試作四輪脚部に似合う武器は何かな」

『いきなり武器作りですか?』

「そうだよー。ロマンにはロマンでしょ」

『理解不能です』

「アルは男の子なのにロマンに理解が無いね」

『アースは女の子なのにロマンに理解があり過ぎるのです。あと、私に性別はありませんよ』


そういえばそうだった。

スライムだもんね。


「四輪だから走りながらの戦闘になるよね」

『それが一番有用かと』

「だったら弾をバラ撒きながら駆け抜けるのが格好良いかも」


うんうん、それなら両手にマシンガンだね。

駆け抜けながらの連射は絵になるもの。


「でも、一撃必殺の大火力も捨てがたい。バズーカ砲とか」

『一撃離脱戦法ですか? 玄人の戦法ですよ?』

「技術が追いついていないと?」

『はい』

「辛辣っ。でもその通りでございます」


実は僕、戦闘センスはあまり無いもよう。

大火力によるごり押しか、敵の射程範囲外からのせこい攻撃。

或いは意表を突く珍妙な攻撃くらいしか戦法が無い。


正面からの切り合いなどはご法度。

絶対に負けちゃう。

というか一回、盗賊相手にやられた。

頭部バルカンポッドが無ければ死んでた。


やはり、頭部にバルカン砲は正義。


「じゃあ、猛スピードで逃げて、安全な場所からスナイパーライフルで狙撃?」

『恐ろしく無様ですが、アースにはお似合いの戦法です』

「やだー! 格好悪いのやだー!」

『我儘言うんじゃありません。立派な戦術なのですよ』


理解は出来るけど、認めるわけにはいかない。

僕が戦闘ヘッポコ民族なのは認めるけど、これとそれとは別の話。


「もう開き直って武装ガン盛りのヘヴィウェポン仕様で」

『それじゃあ、いつまで経っても強くなれませんよ』

「アルがいじめるっ!」

『そんなことよりも有益な情報です』

「そんなこと言われた」

『どうやら【ゴブリン】のユニーク種に莫大な報奨金が掛けられているようです』

「ゴブリン?」


ゴブリンといえばビデオゲームでは雑魚敵として登場する小柄な亜人だ。

酷く醜い外見と尖った耳。

不揃いの歯と赤い目。

お粗末な武具を身に着けて集団で人を襲う、とされている。


そのユニーク……つまりは特別な個体が賞金首に指定されている、とアルは言うのだ。


「何をやらかしたんだろうね」

『奴隷解放』

「なんだって?」


ある意味、僕と同じことをやらかしてるんじゃないか。

僕と違う所は、誰かにそれを目撃されてしまった、ということ。


「単に奴隷を攫いたかった、って可能性は?」

『無きにしも非ず、です。ですが、それは奴隷を労わっていた、との情報もあります』

「う~ん? なんなんだろうか。取り敢えず関わらない方針で。面倒臭くなりそうだし」

『賞金額は100万カネー。魅力的ではありますがね』


うっ、それは確かに。


でも、確実に面倒なことに巻き込まれそうなので回避する方向で。


「他には?」

『そうですね……猛獣狩りではありませんがハイポーションの材料が高騰しているようです。今の内に収集して売りつければ一儲けできそうですね』

「ふ~ん、どんなの?」


サイコキネシスで櫛を操作し、もこもこフワフワの癖っ毛を梳く。

別に手入れしなくとも良さそうに見えるが、しっかりと手入れをしないと絡まって大変なことになるのだ。


尚、髪を短くすると【黄金のブロッコリー】になるので絶対に短くしてはいけない。


『まず主成分である【ハイプット草】、これが一枚二千五百カネー』

「おっ? 結構お高い」

『ですね。通常は一枚千カネーですので。ですが高騰しているということは手に入り難くなっているということです』

「あっ、そうかー」

『何かのついでに見つけたら採取でいいかと』

「だね」


そればかりを追い求めても時間の浪費になる可能性が高い。

それによく考えると誰かが独り占めをして価格を釣り上げている可能性だってあるのだ。

急に価格が暴落する可能性だってあるだろう。


「他は?」

『はい、たった今、情報を入手しましたよ。猛獣の素材です』

「来た、来た。どんなの?」


髪を梳き終えたので、今度は濡れタオルで身体を拭く。

水は井戸水を水筒に入れておいたものを使用する。


この世界、飲料水が博打に近い。

町にある井戸から汲んだ水にも低確率で寄生虫が紛れ込んでいるのだ。

なので水は煮沸して冷ましてから飲むのが好ましい。


しかし、薪も買えない貧乏人は直接飲むより他にないのだ。


僕はもちろん、煮沸して飲むけどね。

薪なんて森の中に入れば手に入れ放題だし。


尚、一般人は森に入る=猛獣に襲われてご臨終だからどうしようもない。

したがって、安全な水は超お高い。


あれ? ひょっとしたら安全な水で一儲けできるんじゃない?


と思ったそこのお方っ! 考えが甘いっ!


この世界では水詐欺なるものが横行しており、どんなに水の安全性を謳っても誰も信じてはくれないのですっ! 残念っ!


『【ミラージュバタフライ】の羽が十五万カネーですね』

「良い金額だこと。で、そのミラージュバタフライって?」

『幻覚の鱗粉をバラ撒く危険な蝶です。大人の人間ほどの大きさとか』

「キモイっ」


昆虫が人間サイズだと色々と見えなかった部分も見えるわけでして。

小さいから可愛らしい昆虫もデカくなるとキモさが勝っちゃうんです。


『いずれにしても、この猛獣は鱗粉さえどうにかできればアースの勝ちは確定です』

「鱗粉か……なら本格的に頭部パーツを作成するかな」

『胴体パーツもお忘れなく』

「うん、そうだね。本格的に狩りを行うなら、一式を用意しないとだね」


頭部パーツはフルフェイスヘルメットにして鱗粉を取り込まないようにすればいいだろう。

きっちりと作りこんでモノアイかツインアイの形状にすれば、なんとなくそれっぽい機能が付与する。


ここら辺は専門知識が無くてもなんとかなる曖昧な能力で大助かりだ。

でも、そうするにはディティールにこだわって、しっかりとした設定を盛り込まなくてはならない。

ここはモデラーの腕の見せ所である。


「折角だから四輪脚部でミラージュバタフライを狩ろうかな」

『作ったばかりでしょうに。慣らし運転をしないと酷い目に遭いますよ?』

「大丈夫。たかが蝶々でしょ?」

『一応は猛獣なのですから用心にこしたことはありません」

「アルは心配性だなぁ」


大丈夫、大丈夫。

今までもなんとかなってきたのだから。


そういうわけでビルド開始。


頭部は予定通りフルフェイスヘルメットの形で。

ただし、蝶は制空権を確保してくるだろうから、上を向かずに上空を視認できるように頭頂にもカメラアイを取り付ける。


続いて胴体部分。

ここはスコ〇プドッグの形状をアレンジして適当に組み上げる。

腰アーマーは可動性を重視して股関節を防御する装甲はオミットだ。


腕部は……今はちょっと素材不足なのでSパーツの物を流用する。


武器は結局、マシンガン二丁で行くことに。

そして、ロマンであるバズーカ砲をチョイス。

バズーカ砲といってもDパーツから拝借するだけ。

新規製造はマシンガンのみだ。


それではレッツ・スクラッチビルド。






『アース、アース。朝ですよ』

「……えっ!?」


なんということでしょう。

作るのに夢中になってたら徹夜をしてしまいました。


いやぁ、作るのが楽しくて時間が経つのも忘れてしまいましたよ。


まぁ、よくあることだよねっ? ねっ?

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