第2話 望むもの

さて、奴隷商を始末したはいいが、馬車内の奴隷はどうしようか。

正直な話、僕に奴隷は必要ない。

邪魔なだけである。


とはいえ、このまま置き去りにするのもなんだ。

一応、首輪を破壊して開放してやろう。


「君たち、解放してやろう」

「で、でもっ! 支配の首輪があるかぎり、私たちはっ」


僕は問答無用で少女の首輪を握り潰し引き裂いた。

その際に見た少女の身体には無数の傷跡、そして粘液がこびり付いているのを見て黒い殺意が湧き上がってくる。


やはり、この世界はくそだ。


「これでよし」

「えぇぇぇぇぇぇぇっ!?」

「じゃあ、次」


凄いよ、このビルドアーム!

流石はフルスクラッチしただけの事はある!


こいつを作るのは苦労した。

何せ、一から十まで全て自分で作り上げなければならなかったからだ。




僕が……そうだな、仮に【存在T】とでも呼ぼうか。

そら授かった力は【あらゆる物を薄い板にする能力】。

そして【あらゆる物を加工する能力】だ。


僕はこの二つの能力をどう使うのか、即座に理解した。


そう、これは【プラモデル作り】だ、と。


これらを自力で獲得した能力、【テレキネシス】と組み合わせ、【義肢】を生み出す。

この発想に至るまで、三分もかからなかったと思う。


もちろん、これらの能力は、あの腐れ外道どもにも秘密にしていた。

当時は余計な心配を掛けさせないように、と腐心していたが……蓋を開けてみれば、あのような鬼畜だったことに苛立ちを隠せない。


だがまぁ、今まで育ててくれた礼として殺すのは勘弁してやろう。

ただし、間違って再会して親面したら殺す。


話しが逸れたが、この義肢は鉄製だ。

砂鉄を板状にしてからプラモデルのランナーをイメージし加工する。

一気に全てのパーツをイメージするのは無理があるので、部位ごとに制作する。


まずは足、足首、ふくらはぎ、脛、接続部分、というように段階を踏む。


最初は上手くなど行かない。

ダボ穴の位置を間違える、など当たり前のように起こった。


パーツの精度もお粗末なものだったし、能力も使いこなせない。

それでも、諦めずに挑み続けた結果、しょぼい義肢が完成したのだ。


それは骨のような手足だったが、しっかりと手足の機能を行使できた。

その時、僕は思い出したのだ。

これらを基礎として【装甲を取り付ける】設計を。


人はそれを【ムー○ブル・フレーム】という。


これにより、改良すべき部分を限定化し、義肢研究は飛躍的に進展したのは言うまでもない。


装甲は飾り。

だから、好き勝手にデザインしてもよくなったのだ。

もちろん、機能的にすればするほどに良いものになる。


でも、僕はロマンを追い求めるビルダーなのだ。

ロマンを求めずして何がビルダーか。


あと、バズーカの弾は基本魔法弾です。

イメージとしては【ファイアーボール】を撃ち出す感じ。

つまり、バズーカ砲はただの飾りです。はい。


ヒートソードも同様の手口で起動させている。

こちらは少しややこしいのだけど……まぁ、結局のところ力技かな。


「ひえっ、支配の首輪が……」

「首を絞める力よりも強い力なのっ!?」


支配の首輪はどうやら、奴隷の首を絞める機能があるらしい。

それによって、逆らう事、逃げ出すことを防ぐようだ。

また、極めて硬く、魔法にも耐性があるらしい。

普通の人間であれば、生半可なことでは首輪の拘束から抜け出すことはできないだろう。


でも、僕の場合は【テレキネシス】、すなわち超能力なので魔法耐性は無効。

そして、尋常ではないくらいに鍛えこんでいるので力尽くで破壊することも可能だ。


そもそも、この義肢だってテレキネシスで動かしているからね。

基礎部分を脳の波長で自由自在に動かせるようになるのが最終目標。

本当の意味での手足を獲得したいのだ。


解放した奴隷は少年一名、少女三名だ。

彼らには馬車にあった積み荷を与え、これで各々何とかしろ、と告げて僕は単身でその場を後にする。


何人かが僕に付いて行きたいと申告するも、僕はそれを断った。

奴隷になってすすり泣いている時点で使い物にならない事は想像に難しくない。


僕は自分でも理解しているが、この世界に生きる者に冷たい。

それはきっと、自分が元々この世界の住人でなく、そして彼らは嫌いな神が作った世界の生命体だと認識しているからだろう。


彼らに罪はない。

だから僕も、彼らが僕に害をなさなければ何もしないだろう。

ただし、僕が彼らに深く関わることはない。


これからも、その先も。





「さて、これからどうしようか」


小高い丘にて休憩を挟む。

夜空には少し歪に欠けた月が浮かんでいた。

隕石でも衝突したのだろうか。


独りで生きてゆく、と言ってもやり方は様々。


一切、人に関わらず僻地で孤独に生きる方法もあれば、群れの中に紛れ孤独に生きる方法もある。


前者は煩わしさはないが、全て自分でやらなければならないため手間がかかるだろう。


後者は人間関係が煩わしいが、その分、自分の手間が省ける可能性がある。


僕が選んだのは【後者】。

義肢が十分に完成してない以上、義肢研究を推し進めたい。

前者を選択するのは、この後でも十分なのだから。


「義肢の研究を進めるなら設備が整った大きな町が良いな」


であるなら、陸路よりも空路が良い。


「来い、ビルドキャリアー」


輸送機を呼び寄せる。

こいつは常に上空にて僕を追尾するように設定してあるのだ。


ゆっくりと鋼鉄の輸送機が降りてきて補助足を展開、着陸した。

この世界のエネルギーは全てが【魔力】。

魔力さえあれば何でもできる、という無茶苦茶な設定なのだ。


ビルドキャリアーを浮かせる仕組みは心臓部の【魔力貯蓄機(マナタンク)】に魔力を充填し、スラスター部分より風を発生させて無理矢理浮かしている。


実は僕は風の魔法を使えない。

その代わりに魔力を籠めると風を発生させる【属性石】をスラスターに組み込んでいるのだ。

それと魔力貯蓄機を組み合わせてビルドキャリアーを浮かせている。


そして、制御AIの代わりになるのが軟体生物【スライム】だ。

こいつは魔法生物でもあり、他の生物の魔力を喰らい生きている。


スライムと言えば知能が低く、本能のみで行動する下等生物、との認識が先行しているが、実はその認識は的外れ。


実際は高度な知識と知性、物理攻撃が無効、その軟体ボディを活かしてありとあらゆる場所に潜り込める、というチート級の生命体だ。


発声器官が無いだけで下等生物扱いされてきた彼らは、人間に対して不信感を募らせている。

それは、いつしか神に対する不満に置き換わって行った。


人間が事あるごとにクソ禿げを讃えるのだから、そうもなろう。


僕はそこに付け込んだ。

彼らを説得し、打倒クソ禿げを約束する代わりに協力を取り付けたのである。


今はビルドキャリアーだけだが、いずれは【ビルドスーツ】なる人型戦闘兵器を量産し、彼らに操縦してもらう予定だ。


戦いは数だよ、アニキ!


ビルドキャリアーの船首、その隙間から、にゅるん、と液体が伸び出た。

彼こそ、協力者の一人、スライムの【アル】だ。


彼らとの意思疎通は超能力の一つ【テレパシー】を用いる。


これは説明不要の有名な超能力だろう。

言葉を介さず、意思を伝えあうことが出来る。

遠くに離れた存在とも意思伝達が出来るのが素晴らしい。


『ヒルダ、どうしたのー?』

「アル、その名は捨てた。今の僕はアースだ」

『えー?その名前、可愛くないよー』

「いいのっ! アルだって僕の元親の外道ぶりを見ただろ?」

『まーねー』


アルは小人の形を模り、やれやれ、と肩をすくめて見せた。


「これから僕は大きな町に潜んで義肢の研究を行おうと思うんだ」

『それって、ビルドスーツ計画を進めるってこと?』

「そういうことにもなるかな?」

『良いと思うよー。長も首を長くして待ってるもん。首ないけど」

「デスヨネー」


アルの賛同も受けて、僕はビルドキャリアーの背に乗って町を探すことに。

こいつは義肢や武器を運ぶだけのために作ったわけではない。

こうして、移動手段にも使えるのだ。


まぁ、手足の無い僕か、子供しか乗れないけどね。


「ビルドアーム、レッグ、パージ。アル、回収お願い」

『はーい』


ビルドキャリアーの背で各パーツを解除。

アルが小型アームを伸ばして、パーツをコンテナに収納する。


その間に僕は肘、膝から先の無い手足をビルドキャリアーの背にある接続部分にはめ込んだ。

体勢的には四つん這いになった感じである。

バイクを運転している感じにも似ているだろうか。


「接続完了。魔力の直接供給開始」

『供給を確認。いつでもどうぞ』

「ビルドキャリアー、離陸」


ゆっくりと垂直に上ってゆく鋼鉄の鳥。

十分に高度を得てから一部のスラスターの向きを変えて推進力とする。


「ビルドキャリアー、微速前進」

『ビルドキャリアー、微速前進』


ゆっくりとビルドキャリアーは空を行く。

額に当たる風が冷たい。


でも、僕の心はこれよりも、もっと冷たいのだ。


この世界に希望なんてない。

望む事もない。


僕が望むのは、そう……地球への帰還だけなのだから。


あ、クソ禿げはボコす。

これは絶対だ。

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