異世界フルスクラッチビルド

ねっとり

第1話 ビルダー・アース

異世界転生。


そんなものが実際にあるのであれば、それは実に困る展開である。


僕はプラモデル作りに人生を捧げた人間だ。

プラモが作れないと発狂する自信がある。


そんな僕は、とある日、唐突に死んだ。

死因は大型トラックに撥ねられた何者かの直撃を受けたことによる脳挫傷。

それを引き起こした者が、そう言っているのだから、恐らくそうなのだろう。


「いや~、済まん済まん。まさか、ついでに死なせてしまうとは思わなんだ」


ヘラヘラ笑いながら、僕に謝っている禿げ爺は【神】らしい。

こいつは自分の世界に勇者を転生させるために地球で計画的な犯行を行ったもよう。


それは事故に見せかけた【魂の誘拐】。

地球の強い魂を拉致し、自分の世界に根付かせる。

その強い魂が世界に根付くと、世界はその強さに応じて活性化し、神としての格も上がるらしい。

そのようなカラクリもあって、こいつは私利私欲で地球の魂を攫い続けているもよう。


そう、この神を名乗る存在は自分の為に、地球で生きるはずだった魂を盗み続けている窃盗犯なのだ。

断じて許すわけにはいかない。


しかし悲しいかな、僕にはこいつを捕らえる力もないし、そもそも肉体もない。

現在は輝く光の玉となって、青一色の世界に浮いている状態だ。


一応は床の役割を持つ雲の上にいるが、手足もないのであってもなくても同じことだろう。


「まぁ、人間はいつか必ず死ぬ。なので、気にしないでくれ。それよりも今後の事じゃが……」


この外道め。

人の人生を何だと思っているんだ。


ようやく手に入れた【MG○ム】を抱いて、ルンルン気分だった僕を殺した罪は、Gプラ転売ヤーよりも重いぞ。


「おまえたちにはワシの世界に転生してもらう。そこで、困っている者たちの手助けをしてほしいのじゃ」

「困っている人たちの手助け、ですか?」


僕とは別の輝く球体から少年の声が発せられた。

結構、格好良い声だ。

アニメなら主人公タイプ。


ちなみに僕はモブタイプ。

特徴がないのが特徴、という声。


「そうじゃ。そのための特別な力を授けよう」

「だが断る」


ドドドドドドドドドドドドドド!


奇妙な緊迫感が僕と禿げ爺の間に生まれ出た。


「特別なんじゃぞ?」

「僕を殺した者の施しはいらない。これはプライドの問題だっ!」


現在は単なる輝く球なので奇妙なポーズはできないが、肉体があったなら必ずイカれたポージングを炸裂させていたであろう。


「神の施しを受けぬどころか、わしに対して敵対心を持つか」

「そうだ、覚えておくがいい。必ず力を付けて……おまえのその禿げ頭を【Gダムマーカー】で真っ黒に染め上げてやる」

「地味に嫌な復讐じゃな」

「何本いるかな?」

「先細は止めておくれよ? 痛そうじゃし」

「じゃあ、筆塗りにしておくか……」

「うむ……ではないっ! 止めんかっ!」


自分でノッてきたくせに。

やはりこいつは邪悪な神に違いない。


「ええい、おまえには不幸な目に遭ってもらう! わしの本命はこの者だけじゃし!」

「ならば、不幸度合いによって、おまえを強く呪ってやる! 絶対にタンスの角に足の小指をぶつける呪いをかけてやるから覚悟しろっ!」

「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉっ!?」


こうして、僕は神と喧嘩をしてヤツの世界へと強制転生させられたのだった。


その途中の事だ。

意識が遠のき、徐々に世界が黒く染まってゆく際に声が聞こえた。


それは、男の子の声にも聞こえるし、女のこの声にも聞こえた。

その声はとても懐かしく感じるものであり、薄れゆく意識の中でもハッキリと声が伝わってきた。


『あなたに困難に打ち克つ力を』


それはきっと、母なる者の力だった――――――――――。






僕が僕として意識を取り戻したのは転生して二年程経過してからの事。


場所は貧しい辺境の村【ヘーキョ】。

両親は農家で貧乏。

父親は黒の短髪、黒目のモブ。

母親は金髪癖っ毛ロング、青目のちょっぴり美人のモブ。


そして僕は……金髪癖っ毛、青目の四肢欠損モブ女児だ。


やってくれたな、くそ禿げ。

最初っから人生詰んでいる、【激烈ハードモード】にしやがった。

これでは何一つ自分で出来ないただの肉の塊だ。


だというのに両親は僕を甲斐甲斐しく世話をしてくれる。

きっと、彼らは清く正しく誠実な心を持ったモブなのだろう。


そのように思っていた時期がありました。


なんということでしょう、僕が十歳になった夕暮れ時。

彼らは僕を奴隷商人に売り払ってしまったではありませんか。


その際の僕の売値は30万カネー。

割と器量が良い、とのことで価値が上がったらしい。


どうやら両親は子供を作っては奴隷として売り払う外道だったもよう。

僕の前には三人ほど兄と姉がいたらしいが、彼らは全て奴隷として売られてしまったらしい。

僕の下に妹が二人いるが、彼女らも売却予定だそうな。


人生オワタ。


がしかし。

このような展開を予期していなかったわけではない。


四肢が無いことにより、僕は別の器官が発達していた。

それはズバリ【脳】だ。


困難に打ち克つために人は進化を遂げる。

僕の場合、まともに残されていた脳が独自の進化を遂げるに至った。


「良い買い物だったわい。おまえなら貴族好みの愛玩動物になるだろうて」


クソデブ奴隷商が下卑た顔を近づけて来る。


くっさ。

何食ってんだこいつ。

肥溜めを煮詰めて凝縮させたかのような臭いがする。


「色々と調教せねばならんからな……まぁ、まずは店に戻ってからだ」


そう言って、奴は僕を雑に馬車へと放り込んだ。

薄暗い中には首輪を付けられた奴隷の少年少女が膝を抱えてすすり泣いている。

その首輪からは嫌な気配が感じられた。

きっと、奴隷を逃がさないようにするための細工が施されているに違いない。


だけど、四肢が無い僕は首輪を付けられずに済んでいた。

きっと逃げられやしない、と高を括っているのだろう。


その認識は甘い。


ゴトゴト、と馬車が動き始めた。

事を起こすにはまだ早い。

もう少し村を離れてからだ。






村を出発して一時間ほど経っただろうか。

周囲は薄暗くなっている。

そろそろ事を起こすべきだろう。


「よし……【ビルドキャリアー】。Aパーツセット射出」


僕が困難に打ち克つための言葉を発する、と奴隷たちがキョトンとした表情を向けてきた。

奴隷商には聞こえていなかったのか、それとも、頭がおかしくなった、とでも思ったのか、こちらを振り向く事すらしない。

それは、致命的な判断ミスだ。


ゴウッ、と何かが馬車内に突っ込んできた。

それは困難に打ち克つための勝利の鍵。


ブッピガン!


ジャキーン!


ギギギギ……ギュイーン!


無駄に派手な演出音。

それらは寸分違わず僕の欠損している四肢へと装着された。


「ビルドアーム! ビルドレッグ! 装着完了! ここから、僕の物語は始まる!」


僕、大地に立つ!


馬車の中だけど、気にしてはいけない。


「うるさいぞ!? 何をして……はぁ?」

「奴隷商死すべし、慈悲はない」


ぐわしっ!


僕は奴隷商の顔を掴んで馬車から放り投げた。

結構な速度で走っていた馬車から放り投げられたらただでは済まないだろう。

それでも、死にはしない、と予想できた。


「ふっふっふっ……流石、【MGド○】を参考にした腕と足だ。物を掴む事など造作もない」


手綱を引いて馬を止める。

初めての試みだったが、なんとか馬は止まってくれた。


「歩行も問題無し。後は実戦か」


ズシュン、ズシュン、と重々しい足音を立てながら、僕は馬車内から大地へと降り立つ。


視線の先には先ほど放り投げた奴隷商の姿。

思った以上に損傷が軽微だ。


「ちぃっ! 速さを優先して護衛を付けなかったのが裏目に出たわ! 何者だ!? おまえは!」

「僕は……そうだな、ビルダー【アース】だ」

「そうではない! おまえは【ヒルダ】だろうが! おまえは愛玩動物でなくてはならない!」

「あの外道どもが付けた名前などいらん」

「ぐぬぬ……話にならん! 出来るなら傷つけたくはなかったが……調教は必要だ!」


奴隷商は腰から短刀を引き抜いた。

どうやら護身用の物らしい。


「抜刀したな? なら、ここからは生き死にの戦いだ!」


僕は上空を見上げる。

そこには巨大な鳥の姿。

ただし、空に浮かぶ原理は翼で羽ばたく事ではなく、無数のスラスターによるものだ。


「な、なんだ……アレはっ!? 大きな巣を掴んだ青い鳥だとっ!?」

「ビルドキャリアーさ。ウェポンセットD、投下!」


ビルドキャリアーの腹部に取り付けられたコンテナが開き、バズーカ砲とヒートソードが地上へ向けて投下された。


それは意思を持つかのように僕の下へと飛んで来る。

実際は僕がそれらを引き寄せているのだ。


「来たか……パワー!」


バズーカ砲を右手に。

ヒートソードは背中に背負う。


「さぁ、やろうか。言っておくが、僕が人を殺めるのは一度や二度じゃないぞ!」

「なっ!?」

「いや、盗賊は人ではないか。まぁ、どっちでもいいさ」


もちろん、これらの慣らし運転はしっかりとやっている。

その際に盗賊どもとの遭遇戦も経験した。


この世界に人権なんてものは存在しない。

やるか、やられるか、の世界なのだ。


だから、頭がおかしいくらいで丁度良い、と理解した。


そして、やるなら確実に仕留める、という心構えが大事。


「死ねよやぁぁぁぁぁぁぁっ!」


人間に向けてバズーカ砲をぶっ放す。


効果、相手は爆発四散する。


ボガァァァァァァァァァァァァァンッ!


着弾し大爆発が発生する。

しかし、気を緩めてはいけない。


ここは【剣と魔法の世界】なのだ。


「ぐっ!? げほっ! な、何がっ!?」


黒煙から声がした。

やはり、魔法でバリアーを展開していたらしい。


だが、確かな手ごたえはあった。

ならばヒートソードで決着だ。


背中からヒートソードを抜く。

起動、刀身が熱せられて白く輝く。


「ブースト!」


脚部はMG○ムを参考にしているのでホバークラフトが可能だ。

本来はスカートも装着して完璧にしたいが、今は都合上、無理。

したがって、この脚部機構のみで高速移動する。


とはいっても高速に至るには少しの距離と時間が必要。

そこでバズーカ砲を後方に打ち込んで、爆風でブーストする。


「おっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


猛スピードで黒煙に突入。

突っ立っていた奴隷商の腹部をすれ違いざまに焼き切る。


ドサッ、という音が二つ聞こえた。

つまりはそういうことだ。


「よし、問題無く稼働しているな……これなら」


あの腐れ禿げをボコれる日も、そう遠くないだろう。


だって、僕のこの能力は――――――――――。


僕は夜空の向こうにあるであろう故郷を想う。

無理矢理連れてこられた地で、最悪の人生を歩むかどうかは、僕と与えられた能力次第だ。

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