第15話 内乱
モーイの町に拠点を据えて数年過ぎた。
その間に起こった出来事を振り返ろうと思う。
まず、ドーデ王国に内乱が発生した。
王都で貴族たちが反旗を翻したのだ。
その首謀者はヒキターテ伯爵。
彼は国王に不満を持つ者を扇動して国王を殺害。
一時的ではあるがドーデ王国の支配者となった。
しかし、国王の遺児たちがヒキターテ伯爵を誅する。
すると今度はその遺児たちが跡目争いを始めた。
これによりドーデ王国は更なる混乱に陥る。
平和だったドーデ王国は今では隣人すらも信用できないほどの殺伐とした状態になり、僕も拠点を引き払う必要に迫られてしまった。
といっても、こういった事態は想定内。
こんな事もあろうか、と【陸上戦艦】を密かに製造していたり。
その外見は巨大な亀さん。
もちろん、普通に歩けるけど基本的にはホバー移動である。
亀の甲羅内には居住区と研究設備、そしてビルドスーツ格納庫を備えてある。
ビルドスーツは全てが試作機ではあるものの、5機ほど生産。
それぞれにスライム君を宛がっている。
アル君とサンちゃんは、引き続き小型蜘蛛偵察機を使用するつもりらしい。
それで、宿屋の女将さんはというと、行く当てがないので引き続き僕のお世話をしてもらっている。
僕は基本的にビルド以外の事は適当なので、掃除洗濯はほぼしない。
そして、自炊もせず露店で買い食いをして済ませるスタイルだった。
でも、町をあてにできなくなった今、これらを蔑ろにすることはできない。
食事が必要なのは基本的に僕だけ。
スライムたちは魔力さえ補充できていればいいのだ。
そんなわけで、お婆ちゃんは予想外の貴重な人材に。
食材は僕がせっせと集めて彼女に丸投げ。
そうすれば、それらを上手い事、調理して美味しいご飯にしてくれる。
彼女は基本的に十分に食事が出来れば満足なようで、あとどれくらい生きれるか分からないが、食を満たしてくれるならどこまでもついて来てくれるらしい。
大変に有り難い事だ。
でも、彼女は高齢であり、いつ死んでもおかしくはない。
なので、彼女は僕に料理と【女】としての最低限度の身支度。
そして【知恵】を伝えてくれている。
そう、僕の身体もしっかりと少女から女へと移行中なのだ。
まっ平らだった胸部も膨らみ始めている。
手足へ栄養を回さなくていい分、その他へと栄養を回しているようで、日に日に大きくなっていく様子が自分でも分かるのだ。
この分だと、肩こりが心配になるくらいに大きくなりそうで怖い。
今の内にインナーマッスルを鍛えておくべきであろうか。
さて、自分の事はこのくらいでいいか。
ヒキターテ伯爵を唆したのは実はロークデモ教であることが割れている。
アル君とサンちゃんに掛かれば、この程度情報は直ぐに手に入るのだ。
とはいっても、これを明るみにしても、だからなんだというのだ、で終わる。
結局は大きな力によって小さな力はすり潰され、真実は真実ではなくされるのである。
なので、この件は放置。
だって僕は困らないのだから。
もし、直接やつらが僕に危害を加えてくるのであれば、その時は徹底的に対処する。
既に僕らにはそれだけの力が備わりつつあるのだ。
『アース、前方に盗賊らしき人間の群れが待ち構えています』
「そう、それじゃあ……メガビーム砲で焼き払って」
『了解しました。前方甲羅装甲展開。砲を出せ』
陸上戦艦、名を【カメサーン】という、の甲羅が開き、そこから大砲がせり出してくる。
実はこのカメサーン、一見するとただの巨大な亀。
しかし、その甲羅の中にはおびただしい数の砲門が内蔵されているのだ。
これにより480度全ての方向に対処可能。
そして、その攻撃力たるや……まぁ、実際に見てもらうのがよろしかろう。
『メガビーム砲、放て』
ズビャビィィィィィィィィィィィ……ちゅどーん!
「うん、上手に焼けました~」
『まぁ、蒸発しているのですが』
メガビーム砲は火と光の属性を組み合わせた攻撃魔法を発射する。
そして、着弾時には爆発する仕組みだ。
爆発はロマンだからね、仕方がないね。
というわけで、盗賊団約30名が一瞬で全滅でございます。
戦艦が弱いなんて幻想だよ。
超高火力と圧倒的な防御力、そして航行力を兼ね備える最強兵器なのだから。
ただ、これを維持するコストの問題は未解決。
だって、これを動かすエネルギーは僕の魔力なのだ。
解決策としては、僕の成長を待つ、というとんでもなく雑なもの。
僕の身体が大きくなるにつれて、その魔力保有量と生産速度が飛躍的に上昇している。
それを見越して、カメサーンは建造された。
あ、大きさを伝えてなかった。
カメサーンの大きさは一般的なコンビニエンスストアを縦に重ねた程度の大きさ、と思ってくれればいい。
つまり、結構大きい。
甲羅からにょっきりと突き出している頭は実は砲門であり、艦橋は甲羅の中です。
あんな被弾し易い場所に艦橋を作る馬鹿はいないよねぇ?
「さて、予定地到着までに、どれくらいかかるかな?」
『予定では何も無ければ5年程かと』
「5年か」
つまり、僕が17歳になる頃、ということか。
「それまでに色々と集めておきたいね」
『そうですね。本格的な行動に移るのは現地に着いてからになるでしょうが』
僕らが向かっているのは【最果ての地】と呼ばれる渓谷だ。
そこは極めて過酷な環境であり、どの国の領土ではない、という特殊な場所。
これほど僕らにとって都合が良い場所はない。
「ま、のんびり行こうか」
『えぇ、急ぐ旅でもないですからね』
こうして、僕らはモーイの町を後にしたのだ。
あの露店のブラッパが食べられなくなったのは悲しい事ではあるが、あそこのおっちゃんも既にモーイの町を脱出しているから、結局は食べられないんだけどね。
異世界フルスクラッチビルド ねっとり @nettori
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