第13話 もこもこふわふわ

黄金羊の羊毛を売り払ったので、楽しい創造の時間です。

ぶっちゃけ、今回の稼ぎで殆ど稼ぎをしなくてもよくなったので、ここからは拠点探しを本格化させる予定。


ちなみに黄金羊毛は全部売っていない。

いきなり全部売り払うと価値が下がってしまうからだ。

それでも土地を購入できる程度の稼ぎになる。


あと、土地を買うには市民権が必要になるけど、これもお金で買える。

親がどうだの、年齢がどうだのと聞かれたが、そこは金の力で解決さ。


やはり、金しか勝たん。

人の世はそうなっているのだ。


「明日からは拠点探しかな」

『いっそ、ここを買い取ってしまえばいいのでは?』

「え? アルって、ここが気に入ったの?』

『いえ、アースが無茶な製造を行うのであれば、ここがよろしいかと』


うーん、確かに、ここであるなら色々と無茶は出来る。

貧民街の近くであることから貴族や上級国民の往来はほぼ皆無。

そして、仮に見られてはいけない研究を目撃されても、目撃者は貧民や不法滞在者なので容易に抹殺可能、か。


「問題は女将さんだね」

『お婆さんも買ってしまえばいいのです』

「無茶苦茶な発想来た、これ」

『この世界ではよくあることです。我々は言葉を発することが出来ません。したがって、いつかはアースの意思を伝える者が必要になる事でしょう』

「それが女将さんってこと?」

『老婆なら消すのも容易です』

「アル君、こっわ」

『お褒めに預かり光栄です』

「褒めてないよ」


だけど、アル君の提案は悪くない。

寧ろ、理想的だ。


「よし、それじゃあ、拠点はここにしようか」

『はい。それでは私は必要になるであろう情報を集めてきます』

「よろしく」

『つきましては、小型蜘蛛偵察機の増産を願います』

「え? どれくらい?」

『取り敢えずは百機ほど」


随分と多いなぁ。

いや、確かにアル君とサンちゃんの小型蜘蛛偵察機だけじゃ少ないけど。


「二人で百機は多くない?」

『いえ、里から同胞を呼びます。拠点が出来たのなら、ビルドスーツ製造の前段階として小型蜘蛛偵察機で操縦を慣れてもらった方が良いでしょう』

「積極的な殺意、嫌いじゃないよ」

『ありがとうございます。では、呼び寄せますね』


アル君はそういうとクモ・アルで出かけて行った。

どうやら、これからは賑やかになりそうだ。


「さて、僕は羊毛でビルドだ」


まずは完成形をイメージ。

本当は紙にイメージを描いて視認できるようにしたいのだけど、物がかさ張るのを嫌った僕は脳内だけでイメージを固めてきた。


ここを拠点にすると決定した今、設計図を描き起こすのもありかな。

寧ろ、書き起こすべきだね、うん。


でも今は、ふわっとしたイメージで。


作るのは【羊スーツ】。

防寒具と寝間着、そして普段着にもなる【着ぐるみ】のような物を作りたい。


この場合、僕の手足も付属したものになるだろう。

初めての試みなので上手くいくかどうか。


「イメージは固まった。取り敢えず、やってみるか」


羊毛をランナーに。


おっ? ボス羊の羊毛って白というよりは銀に近い色なんだ。


ランナー成型の際は不純物は取り除かれて、純粋な素材のみが使用されるので、こういった発見が少なくない。


「おー、思ったよりもふかふかになった」


ランナー生成された羊毛に触れてみる。

ふわふわもこもこで、触り心地もいい。

これは期待できるぞ。


これらをイメージングニッパーで切り出し、イメージングヤスリで切り口を処理。


羊毛をヤスリ掛けって変な感じだ。

でも、しっかりと処理しないと作品の出来栄えが悪くなって、結果、性能がガクッと落ちてしまうので、決して怠ってはいけないのである。


「組み立てて……取り敢えずは完成」


羊の着ぐるみっぽい物が完成した。


羊の角がチャームポイント。

全てを羊毛で製造したので硬い部分は殆どない。


「うーんっ、関節が気になるっ」


この着ぐるみ、僕の腕と足を組み込んでいるので関節部分が丸見えになっていた。

機械的構造の関節はファンシーな着ぐるみには似合わない。

これを、なんとかしないと僕は満足できないだろう。


それではどうするか。


「そうだ、羊毛は軟質素材としてとらえて、手足を内部に仕込めばどうだろうか?」


その際には、手足は硬くて軽い素材で良いかも。


それならば軽くて頑丈な木材で手足の骨を。

そして肉を羊毛として考えて作ればいいのか。


「イメージとしては全身可動のぬいぐるみ。よし、レッツ・ビルドっ」


再び素材を分子分解しランナーに。


今度は着ぐるみ部分を一体成型に。


そして腕と足は木製に。

シンプルな骨の形状。

もちろん、指の関節は全て動く仕様に。


あとは肉となるもこもこの羊毛を用意。


これらを組み立てる。


まずは骨から作成。

もちろん、見えない部分もしっかりと丁寧に作る。


これに肉となる羊毛を纏わせて一体成型した着ぐるみに入れる。


入れる。


……入れる。


「ふんがぁっ、入れ難いっ!」


なんということでしょう。

ものすんごく入れ難いではありませんか。


やっぱり、一体成型じゃなくて、モナカ割にすればよかったかしら。


あぁ、いや、ダメだ。

妥協しては作品のクオリティが下がる。


「あ、正面にファスナー付けないと僕が着れないじゃん」


致命的な欠陥を発見してしまいました。

やっぱり、設計図を描き起こすのは必要だなって思いましたね。


再びランナー生成からやり直し。

ファスナーパーツを取り付ける部分を追加し、今度こそ着ぐるみは完成となった。


この思考錯誤がフルスクラッチの醍醐味だね。

完成にまで漕ぎ着けた際の喜びは制作者だけの特権だ。


「できたーっ」


なんだかレベルが上がった感じがする。


ててててーん、アースはビルダーレベルが上がった! なんちゃって。


「早速、着てみよう」


すぽぽーん、と服を脱ぐ。


僕は下着を付けてないからワンピースを脱いだら全裸です。


まだ、お子様だからね。

全然問題ないよね。


ということで、ブッピガン、と着ぐるみ形態に。


「おぉ、なんだこれっ!? ふわふわもこもこで温かいっ! 超快適過ぎるっ!」


想像以上の仕上がりでした。

快適な温度、そして超軽量。

そして、稼働も問題無し、と来たもんだ。


「問題は見た目かな。これを着て町に出歩くには羞恥心を捨てなくてはならない」


羊スーツを着ると見た目が格好いい寄りから、可愛い系になってしまう。

僕は格好いいのは良いけど、可愛い系は苦手なのだ。

なので、これは部屋着になるかな。


「うん、取り敢えずは新しい発想も得られたし、良い経験になった」


軟質素材の着想はこれからのビルドに役立つことだろう。

それと骨と肉のブロック構造もだ。


もしかすると、本物の骨と肉を使えば義肢ではなく、腕と足を再生できる?


いやいや、それらよりも高性能なビルドパーツを知ってしまったら、今更、生の手足はいらない、ってなるなぁ。


まぁ、生パーツは今後の研究題材としておこう。

何かに使えるかもしれないし。


そんなわけで、僕は羊スーツの幸せな気心地に包まれながら一日を過ごしたのであった。

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