第12話 羊狩り

資金調達の方だけど、最初こそトラブルに見舞われたが、その後は順調そのもの。

高額素材をメインに据えての狩りは、やはり見返りが大きかった。


そかし、そのような事をしていれば目を付けられるのも当然の理か。

僕の狩りを真似る者、或いは妨害してくる者たちが現れ始めた。


なるべく争いごとを避けたい僕は狩場を町から離れた場所へと変更。

Dパーツのホバーであれば移動がそこまで苦にはならない。

時速300キロメートルは馬だって付いて来れないスピード領域だ。


まぁ、実際はその半分なんだけどね。

風圧と酸素供給が今後の課題かな。

速度を上げれば上げるほどに呼吸が困難になるんだよね。


全身完全武装にして頭部パーツに酸素供給機能を付与すれば解決するかな。

そのためのパーツをフルスクラッチする必要があるけど。


「早めに作っておこうかな。そのための素材とアイディアが必要だけど」


今のところ、僕は既成概念に囚われている。

この垣根を取り払うことが出来れば、更なる飛躍が出来そうなのだが、これがなかなかに難しい。


ナイフだから物が切断できる、という当たり前のことを当たり前に信じている限りはダメなのだ。


ナイフは【切断もできるし】、【接着もできる】、といった風に【信じる】ことが出来れば、僕は新たなる段階に突入したといえるだろう。


強く思い込む、疑わない、この思考の強化が急務なのかも。


さて、現在はモーイの町から南に40キロメートル付近の平原に立っております。

ここには高額素材の【黄金羊毛】を生やす羊が生息している、とのこと。

一キログラムあたり30万カネーもの値が付く。


黄金羊毛は見た目もさることながら、夏涼しく、冬暖かい、という高性能な羊毛でもあるらしい。


ただし、それを刈り取るには群れを護るボス羊をどうにかしないといけない。


ボス羊は見た目は通常の羊なのだが、異常な身体能力を持ったを持った個体となる。

熟練の冒険者でも油断すれば一撃で倒される攻撃力。

目を離した隙に背後に回られる瞬発力。

そして、知能も人間並みに賢い上に魔法を使いこなす、という強敵だ。


そういうこともあってか、黄金羊は大繁殖。

緑の草原が黄金に染まり上がっちゃっています。


こんな状況なのに冒険者の姿が見えないのは、これが群れの集合体であり、ボス羊が複数頭いるからだ。


つまり、狩りの脅威が一匹や二匹ではないということ。

それが連携して襲い掛かって来るというのだ。

そういうこともあって、割が合わない、という合理的な判断を下したのだろう。


そのような脅威に僕は挑もうとしている。


装備はDパーツで。

移動力と防御力を重視した形だ。

ただし、小回りは聞かないため、一度止まってしまえば僕に勝ち目は無くなる。


武装はマシンガン、バズーカ砲、ヒートソード。

メインに据えるのはマシンガンとなるだろう。

ボス羊はすばしっこいというので、バズーカ砲は牽制に使う程度となろうか。


本来は逆なんだよなぁ。


「ボス6か……多いな」


群れは、ボス一頭に黄金羊が七頭程度、といった感じだろう。


あ、ちなみに黄金羊は全て雌だそうだ。

雄は普通の子羊となるらしい。

そして、大人になると群れを追い出されるか、新しいボス羊に昇格するとのこと。


「さて、どうやって大人しくさせるかな」


考えるまでもない。

真正面から行って腕力で黙らせる。


なーんて、するわけない。

それはあくまで最終手段。


「アルが教えてくれた【睡眠草】で作った【睡眠砲弾】をバズーカ砲にセット……ファイアっ」


はい、眠らせて、その内に羊毛を刈り取る次第でございます。

強敵相手に真面にやり合うなんて、脳みそ戦闘民族くらいしかいないでしょ。


着弾すると水色の煙が黙々と立ち昇り周囲に拡散して行く。

このままでは僕も煙の影響を受けるので退避。


一応はマスクっぽいのも作ったけど、これは酸素マスクではない。

単なるマスクで酸素が送られてくる昨日は付いていないのだ。

なので風上に立って睡眠砲弾を撃ち込む必要があった。


暫し経つ、と羊たちは眠気に耐えることが出来なくなり、その場に蹲り始め、遂には眠り始める。

ボス羊も同様であり、その場で転がって寝てしまった。


「面白いくらいに有効じゃないか。なんで冒険者は魔法で眠らせなかったんだ?」

『ボス羊には魔法の効果が薄いのです。冒険者たちは魔法信仰者ですから魔法が効かなかったら他を試そうとはしないのでしょうね」

「馬鹿でしょ」

『えぇ、まったく以ってそうですね』


なまじ魔法があるせいで他が発達しなかった、ということなのだろう。


「でも、中には魔法が使えない者たちもいるだろうに、どうして薬品を用いるという発想に至らないんだろう?」

『それらはロークデモ教によって異端者認定されるので大っぴらには使えないのですよ』

「またそれ? ロークデモ教って本当にろくでもないね」

『えぇ、自分たちの理想とする人間以外は全て異端者。このような連中がのさばっているこの世界の神は滅ぼさねばなりません』


まったく以って、その通りだ。

でも、今はさっさと羊毛を刈り取っちゃおう。

今の季節は寒いというわけではないので、羊毛を刈り取っても風邪を引いたりはしないだろうから、ガッツリと刈り取らせてもらうよ。


羊毛はスクラッチビルドしたバリカンでバリバリとスピーディーにカット。


本来は羊毛用のバリカンを想像しないといけないのだろうけど、僕はなんでも綺麗に刈れる素敵な性能、という【ふわっ】とした想いを込めて制作。


結果、素敵なバリカンが完成しました。

見た目は普通のバリカンだけど、とても便利。


「そんなわけで、黄金羊毛ゲットだよっ!」

『実に容易い仕事でしたね』


これもアルの知識のお陰だ。

やはり、知識は武器なんだ、って思い知らされたね。


「結構、凄い量になったなぁ」

『そりゃあ、全部で210キログラムもの羊毛ですからね』


羊一頭から、だいたい5キログラムほどの羊毛が取れるようだ。

したがって、全部刈り取ってしまう、とこのような重量に。


「ビルドキャリアーに積めるかな?」

『可能です。ただし、アースが乗り込むことはできませんが』

「積載過多かぁ……仕方がない、黄金羊毛だけ運んで」

『了解です。ところで、ボス羊の羊毛も刈り取っていたようですが?』

「うん、それは別の用途で使おうと思ってね」


これから寒い時期を迎えた際に防寒具くらいは備えておきたい。

したがって、ボス羊毛で何か作れないか試してみるつもりである。


『それでは、一足先に帰還します』

「見つからないようにね」

『お任せを』


アルは一足先にモーイの町付近へとビルドキャリアーを帰還させる。

といっても、僕の左肩にはクモ・アルがしがみついてるので彼と連絡が取れなくなるということはない。


「さて、僕はボス羊の羊毛を持って帰るとするか」


帰ったら早速、これで何かを作ってみるつもりだ。

もちろん、僕が作る場合、素材はランナー生成されることに。


今回はちょっとプラモ的な観点から少しずれた物を作ろうかと思っている。

成功するかどうかは、やってみてからのお楽しみだ。

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