第11話 欠損狩り

キャプテン・ゴブリンとの邂逅より一か月ほど過ぎた。


その間、僕は研究と息抜きに街の散策を行っている。


研究は本当に根本的な物であり、僕の制作物と魔法の因果関係といった内容だ。

僕の能力で生み出された品々は本当に曖昧な物であり、良く言えば余裕がある、悪く言えば適当、いい加減。


なんとなくの設定の場合、そのブレ幅が非常に大きく、細かく設定した場合、性能は高性能化するものの応用が利かなくなる。


武器などは細かく設定するため、それが顕著である。

でも、作業に集中するとそこら辺が曖昧になってくる場合も。

なので、サクッと作ったハンドガンの方がバズーカ砲よりも威力が高くなる、などは頻繁に見受けられたり。


これはモデラ―としてのレベルアップが必要な案件だ。

決してハンドガンよりも低火力なバズーカ砲など生み出してはいけない。


そして、魔法の件。


魔法とは魔力を消費して精霊から力を引き出す、または奪う行為の事を示すそうだ。

アルから聞いた話なので間違いないと思われる。


魔力を供給し精霊に協力してもらう魔法を【正道魔法】。

魔力で精霊を拘束し無理矢理従わせるのが【外道魔法】。


魔法使いはこの二種類に分別できるらしい。


精霊は人間に対して好き嫌いがあるらしく、それが得意属性、不得意属性に繋がるもよう。


僕の場合【わた】の精霊が沢山纏わり付いているそうだ。

意味が分からない。


そして、このわたの精霊……使い道も分からない。

わたの魔法なんてあるのか、とアルに聞いてみたけど、分かりません、というストレートな回答をいただきました。


なので僕は外道魔法の達人になろうと思います。

ふははは、怖かろう。


尚、僕は精霊が見えませんが、スライムのアル君は見えるそうです。


外道魔法、といっても様々。

中には精霊を殺して核だけを抽出し魔法を発動するだけの道具にする魔法使いもいる。

これは外道中の外道で、同じ魔法使いからも嫌悪されるもよう。


僕の場合、木っ端精霊を武器や属性石に、ぎゅっ、と押し込んでビルドアーマーや武器類に組み込む方式をとっている。


この木っ端精霊たちは単体では本当に何もできないか弱い精霊だけど、集団になると中々侮れない力を持つもよう。

でも僕が着目したのは別の特性。


なんとこの子たち、大勢が一ヶ所に集合しても【重ならない】という特性がある。

やろうと思えば一ヶ所に一億匹重なっても一匹の木っ端精霊にしか見えない、が実現できてしまうのだ。


これを利用すれば属性石に一億匹の火の木端精霊を突っ込んで火炎放射器を作り出すことが可能となる。


ただ、この木っ端精霊君たちは基本フリーダム。

属性石に突っ込んでも気まぐれで出て行ってしまう子がいる。

その度に補充するのが手間。


やはり僕自身の魔力を直接【攻撃性エネルギー】に変換して撃ち出すのが結論となろうか。


この破壊性エネルギーに属性を付与する方向で、攻撃のバリエーションを増やす方向にシフトして行こうと思う。


あとはビルドアーマーに組み込む精霊石だけど、こっちの方は頑張って補充するしかない。

僕は攻撃性エネルギーは得意だけど、補助的な魔力変換は苦手なのだ。

どう頑張っても破壊性エネルギーにしかならない。

あとは単なるエネルギーとしての魔力を垂れ流すことくらいか。


テレキネシスで色々とカバーできているが、それだって限度というものがある。

超能力にも色々種類があるが、僕は全てを使えるわけではない。


物体を動かすサイコキネシス。

口を介さず意思を伝えあうことのできるテレパシー。


この二種類だけが発現している超能力だ。


これらは神から与えられる能力ではないらしく、そもそもが類似した能力が神より授けられて【特能ギフト】という形で行使できるそうな。


ちなみに僕の得能はありません。

ビルド能力はクソ禿げとは別の存在から授かったものだし。


魔法関係は今のところ、こんな感じだ。

続いて街の散策だけど、これは息抜きと情報収集の目的がある。


情報収集はアルにもやってもらっているけど、僕の方は危険人物の把握。

主に貴族や【転生者】の情報を集めて回っている。


特に【僕またなにかやっちゃいました系転生者】の情報は聞き逃せない。

絶対に関わってはいけない人物ぶっちぎりのナンバーワンであるからだ。


あ、散策の際は極普通の義肢を付けております。

最近はブラッパのおっちゃんが煩くて、折角作った試作四輪脚部もお蔵入り状態。

というのもここ最近【欠損狩り】が横行しており、まちがさわがしくなっているのだ。


僕などは一発アウトのくそイベントであり、おっちゃんが口煩くなるのも理解できる。

なので、おっちゃんのところには【馬】で通っております。


えぇ、もちろん、ビルドしましたとも。

ガンメタリックのロボットホース。

これがまた会心の出来で格好良い。


僕自身は乗馬経験が無いものの、そこはスライムですよ。

アル君の妹的存在【サン】ちゃんに操縦してもらっております。


アル君よりも声のトーンが高いのが特徴。

身体も彼よりも一回り小さいプリティーガールだ。


もちろん、ロボホースは武装とギミックてんこ盛り。

それらは見てからのお楽しみ、ということで一つ。


「今日も今日とて散策かな」

『アースは根を詰めすぎますからね。息抜きは必要でしょう』

『そうよね~。そういうお兄ちゃんも根を詰めるタイプでしょ』

『否定はしません』


かっぽかっぽとロボホースにまたがり町の中心付近まで移動。

流石にそのまま、とはいかないので途中でサンちゃんとは別れることに。


ただし、彼女はスライムなので分裂が可能。

そこで用意したのが、またまた蜘蛛型偵察機。

その名も【クモ・サン】。

もちろん、クモ・アルと同型機。


ただし、こちらは背にバズーカ砲を取り付けてあり、非常に攻撃性が強い。

これはサンちゃんのリクエストなので、実は彼女は狂暴な可能性が微粒子レベルで存在するのかも。


「今日も賑やかだなぁ」


バンバンと民家の扉を叩く騎士の姿。

ドアの向こうからは「帰れ」との怒号。

やがて騎士は扉を破り内部へ侵入、大騒動の末に片目が無い少女が引きずり出されてきた。

父親と思わしき人物も片腕を切り落とされた状態で騎士に連行されていった。


『人間は愚かですね』

『サンちゃんの言う通りだよ。ゴミカスが多くてね』

『滅ぼしちゃえ。あ、アースは別よ』

『ありがとう。でも、面倒だからしないよ。人間って無駄にしぶといし』


それにしても欠損狩りは強引さが目立つ。

ロークデモ教の力が強いせいか衛兵たちも見て見ぬふり。

ハッキリ言って秩序なんて無いに等しい。


だからこそ、腕の立つ冒険者や傭兵を雇える財力を持つ者は強い。


またロークデモ教の騎士が民家へと突入した。

しかし、結果は騎士の惨敗。


両腕を切りおとされて家から叩き出された騎士は、鬱憤の溜まっていた町民たちに取り囲まれて袋叩きに。


欠損した者に人権など無いのだ。

つまり、人間同士の戦いは欠損させた方の勝利となる。


僕の場合はそれは適用されないけどね。

やろうと思えば腕を六本にできるし。


『見るに耐えませんね。移動しましょう』

『アルの意見に賛成だ』

『えー? 私たちも加わろうよ。あいつ、ボコしたい』

『これっ、サンも低俗になってしまいますよ』


アルに窘められたサンちゃんはションボリした。


騒動の現場から離れた僕たちはウィンドウショッピングをしながら散策を継続。

服は相変わらず緑のワンピース。

そして、騎士か冒険者に見えるようショートソードを帯剣している。


町の外見は中世ヨーロッパ風なのだが、システムはほぼ地球の日本国と酷似している。


お金も紙幣が主であり銀行も存在している。

もちろん、金貨や銀貨、銅貨も存在しているが、こちらは重量がかさ張るので主流ではなくなっているもよう。


他にもデパートや映画館、銭湯やコンビニエンスストアまで存在している。

でも、古き良き時代の酒場や市場、城までも存在していて脳がバグるレベルだ。


きっと、これらは転生者たちが、やりたい放題やってしまった結果であろう。

でも、自動車やバイク等は見受けられない。


作れなかったのか、それとも自重したのかは不明だ。


確かに、これらの施設は便利といえば便利だが、何か違うなぁ、とも思っている。

それに、これらに慣れてしまうと、地球に帰る、という思いが薄れそうで怖い。

なので基本的には見るだけで利用は控えている。


利用するとすれば、古き良き時代の店。

つまり、露店、となろうか。

ここに来るのは本当に散策と情報収集のみだ。


あとは図書館などもあるので時折、立ち寄る。


『アース、貴族の馬車です』

『げっ、早く隠れよう』


貴族が道行く場合、平民は首を垂れる必要がある。

しなかった場合は不敬罪が適用される場合があるのだが、僕は媚び諂うのが嫌いなので逃げの一択だ。


急いで裏路地に入り込む。

そこはチンピラの溜まり場なのだが構ってはいられない。


「おうおう、騎士の嬢ちゃん、ここは……」

「しっ……貴族の馬車だよ」

「お、おう」


チンピラたちも貴族連中には良い感情を抱いていない。

息を殺して馬車が通り過ぎるのを見守った。


「行ったかな?」

「行ったな。で、続きだが……」

「僕、十歳」

「え? マジかよ……確かにぺたんこだな。行った行った、ガキに用はねぇよ」


大体はこれで事が済む。

まぁ、出るところが出てきたら使えない戦法だけども。


『あれは【ヒキターテ伯爵】家の馬車ですね』

『知ってるの? アル』

『はい。商人ギルドの後ろ盾であり、国に対して発言力を持っている貴族となります』

『ふーん。つまり、危険な貴族だね』

『その通りです。関わってはいけませんよ』

『はーい』


ここ最近は町が騒がしくて、のんびりと散策できない。

少し時間を置いて様子を見た方が良いかも。


「帰るか」


僕はため息をついて帰路に就いたのだった。

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