回復チート幼馴染に誘拐犯に仕立て上げられたチート持ち転生者『俺』

ノツノノ

第1話 ニュース

『日本能力者ランキング1位の高橋昂たかはしのぼるさんと、日本の聖女と呼ばれる須本祐美加すもとゆみかさんの婚約が発表されました。

1ヶ月後、結婚式を行う予定だそうです。』


そんなニュースが流れているのは、このニュースのとは全く合わない落ち着いた雰囲気の喫茶店。

店長とアルバイトの俺がお客さんの居ない店で話している。


「あの祐美加ゆみかちゃんがなぁ、良いのか?今ならまだ間に合うかもしれねぇぞ。」

「何言ってんだ店長。

超貴重な回復系の能力者とただのアルバイト青年、住む世界がもう違うんだよ。

それに何年会ってないと思ってるんだ、結婚式に異議あり!とか突っ込んでいっても玉砕する未来しか見えないわ。」

「それはそれで面白いからやってみろよ。」


夜中に外を出歩き職質されること200回こと誤解されやすい強面の店長、大学を卒業後なにもせずアルバイトをする青年である俺。


「だがな祐美加ゆみかちゃんはお前の事が好きだったんだぞ、この俺が言うんだ間違いない。」

「その時点で信用ねぇわ。」

「ったく、そんなんだから童貞なんだよ。」


話からもわかるように俺は須本祐美加すもとゆみかと知り合い、というか幼馴染だ。


「おら!賄いをくらえ!」

「危ないでしょうが!てか食べ物を投げるな!」


ボーッとニュースを見ていたら店長にサランラップに包まれたサンドイッチを投げてきた。

投げられたサンドイッチは俺の横を通り抜け、そうだったが不自然な挙動で俺の手へと収まった。


「やっぱり、お前能力者だろ…」


そんなサンドイッチの挙動あり得ねぇ、と言いながら疑う視線をぶつけてきた。


「何度も言ってるけど能力者の鑑定は中学を卒業する時にされるんだ、その結果無能力者だった俺が能力者な訳ないでしょう。」

「胡散くせぇ…」

「はは……」


店長には言われたくないが、嘘を言ってるのは間違いないから何も言えない。


「…わさびを入れましたね?」

「美味いだろ?」

「引っ叩くぞ。」


バカな話をして、わさびハムサンドを食べながら、他にも道があったんじゃないかと今世を振り返る。


俺が神様に出会ってチートを貰ったあの日から…



ーーーーー


『急で申し訳ないが、君には新しい世界に転生してもらう。

一応危険が存在する世界だしチートもあげrーー』

『最強にしてください!

武器は糸がいいです、仮面とか服装とか考えるだけで着替えられる物が欲しいです!』

『は?』


やっときたのだ、俺の時代が!

自分の人生に希望を見出せずにいた、卒業し就職して生きていく人生に。


刺激が欲しかった。

魔法とか異世界とかに憧れ、いつのまにか酷く渇望するようになっていた。


そんな俺がラノベのような展開に巻き込まれるなんて、夢なら絶対に覚めるな!


『えぇ…

まぁいいや、君の記憶を読み取って望みを完全に叶えるから少し眠ってて貰います、次に目覚めたときは5歳だ。

それとチートとは別のお詫びとしてアイテムBOXに使いきれないほどの金を入れておく、自由に使ってくれ。』


楽しみだぁぁぁ!


5歳の誕生日、その記憶が脳内に溢れ出した。

それから俺はチート人生を歩むため日々精進している。


隣の家に住む幼馴染と仲良くなったり、勉強し体を鍛え、中学での能力鑑定の日まで全力で日々を生きていた。


『もうやめてぇ…』


虐められていた子を助けたり、


『助け…!』

『お兄ちゃん!』


誘拐されかけた兄妹を助けたり、


『君は、いったい…』


偶然見つけた暴れている能力者を倒したりと様々なフラグの建築も忘れない。


俺の人生は約束された薔薇色だった。

あの日までは、


『能力はありませんね。』


どうやら神様に与えられた力は、この世界では能力としてカウントされていないらしかった。

表面上は物静かな青年として生活していたから暴れるような愚行はしなかったが、少なからずショックを受けたんだろう、今までの熱が一気に冷めたんだ。


『か、回復系?!?!』


そんな中、幼馴染が能力者の中でも珍しい回復の力に目覚めた。


恭助きょうすけ…』


スーツを着た大人が何人も現れ、幼馴染を連れて行った。

その時に手を伸ばしながら名前を呼ばれたが、俺は自分のことで精一杯で何もできなかった。


それから会うことは無く、お互いに別々の道を歩み始めたんだ。


幼馴染は日本で聖女と呼ばれるまで成長し、

俺は平凡に生きることにした。


ーーーーー



今思い返しても恥ずかしい半生だな、後悔も沢山残っている。

周りの生きる人達を俺はキャラとしか見ていなかった事に気づいたり、幼馴染の手を取れなかったのも…


今更すぎる後悔だ。


長い夢だった、でも夢から覚めることができた。

俺はこの世界を今を生きている。


「俺は時々お前が悟った老人みたいに見える時があるよ。」

「失礼な、まだ23だぞ。」


前世を合わせても39だ、仮に前世を含めた精神年齢でも店長の40には及ばない。


「もう来ねぇかな?」

「そもそもこんな店に客はいらんだろ。」

「だろうな、お前の給料もドンドン下がっちまうが、それは別にいいとして。」

「良くはねぇよ?」


流れ的に今日は午後7時で終わりっぽいな。

今日の来店人数は4人、ここ1週間では1位だ。


「それじゃ、気をつけて帰れよ。」


目にも止まらぬ速さで店を追い出された。


「お疲れ様です、また明日。」

「おう、待ってるぞ。」


暗い夜道を1人歩く。

大学生になった時から両親とは別々に暮らしていて、今は神様に貰った使いきれないお金で買ったマンションに住んでる。


今更だけど神様ってなんで俺を転生させたんだろうか、チートにお金にと色々くれてさ。

まぁ連絡取る手段なんて知らないし、どうしようもないんだけどな。


「〜〜♪」


鼻歌を歌う。


タッタッタッ


背後から誰かが走ってくる音が聞こえた。

帰り道に人とすれ違うのは珍しい、だけど0じゃないしそこまで気にしていなかった。


音が近づいてくる、もう5メートルも離れてない。


バチっ!


電気が走るような音が聞こえ、俺は意識を失った…





「やった、やった!

久しぶりの恭助きょうすけくんだ!」



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