第15話 新生活

その後、須本さんを抱き上げたまま日本の警察と外国の能力者から逃げた。


俺の住むマンションでウェディングドレスの須本さんには大きなサイズのパーカーに着替えて貰った。


そのままこれからの事を考えようとしたのだが、当たり前の様にマンションへ警察が突撃してきたため、自分の顔の上に糸でリアルな人の仮面を作り別人として値段そこそこのホテルに泊まっている。


あ、もちろん別々の部屋だからな?

須本さんが何をしているのかはわからないが、俺は──


「うおぉぉぉぉぉぉぉ!!」


枕に向かって叫び散らかしていた。


流石に同じ部屋に泊まるのはまずいと思っていたのか隣接した二つの部屋を借りて休む事になり、1人部屋で一息ついた瞬間、冷静になった。


途中、いや殆ど最初から変なテンションだった事は認めよう。

だけどな?


『世界でもトップクラスの能力者達と戦い、結婚式から須本祐美加様を誘拐した立神恭助容疑者は──』


顔を晒すのはダメだろ俺!

何やっとんねんマジ、俺のこれからの生活終わりやん、海外逃亡不可避!


ニュースは俺の人物像と解説、そして自称友人のクソみたいなインタビューばっかりだ。

俺からしたら誰やねんお前って奴等が、ストーカー気質だったとか好き勝手語ってる。


テレビを見ずにチャンネルだけ変え続けても、やっている内容が同じせいで意味がない。


『アルバイトとして雇っていたと?』


その最中に聞こえた言葉、とてつもなく嫌な予感がしてチャンネル操作を止めた。


『あぁ、アイツとは4年ぐらい一緒に仕事していた。』

『普段の様子などはどの様な感じでしたか?』


顔がモザイクで声も編集されているが俺にはわかる、これは店長だ。

あの野郎、愉快犯だとは思っていたがわざわざ取材を受けて何を言うつもりなんだ。


『そりゃ少しおかしかったな。』

『おかしい、とは?』

『なんか窓から外をボーッと眺めてたかと思えば、これが俺の罰か…ってなんの前触れもなく言うんだよ、あの時にコイツは重度の厨二病だと思ったな。』


そんなこと言ってたわ。

何回か言ってた気がするからいつかは定かではないけど、痛かった時を思い出してセンチな気分になってたときのやつだ。


『だけど、凄え童貞臭かったアイツが誘拐するほどの度胸があるとは思わなかったな!』

『はい?』

『見てんだろー?

頑張れよお前、男なら1発決めてこい!俺のことは気にすんなよ〜!』

『な、何言って!』

『お前はよくやったぞ!』

『CM!』


「……」


なんというか、後先考えない店長らしい最後だったな……

逮捕されないことを祈っておこう。


「あぁぁぁぁ〜、これからどうすっかなぁ。」


幸いな事に神様にもらったお金さえあれば何処でも暮らしていけはする。


問題は俺が日本だけでなく海外の能力者もボコってしまったことと、須本さんが回復系の能力者であること。

日本は須本さんの存在を諦めないだろうし、海外は俺を指名手配しそうだ。


今みたいに顔を変えて別人として過ごしていくしかないのか?

でも須本さんは両親に会いたいだろうし……


コンコン


扉のノック音に脳が一気に目覚める。

気配的に警察が突っ込んで来たわけでは無い、ホテルの従業員か須本さんだろう。


「どうぞ。」

「……」


俺の予想通り、ノックをしたのは須本さんで扉を開き無言で入ってきた。

何を喋るわけでもなく、近くに座って俯いている。


「「……」」


ちなみにベットに腰掛ける俺の真横だ、隙間なんて1cmも無い。


いや、近すぎだろ。


『皆さんが犯人と須本様の関係性ばかり注視する意味がわかりません、私は能力鑑定で能力を持っていない筈なのにランキングトップの能力者と戦えていた、その謎が知りたいんです!』


よく分からない専門家がニュース番組で熱く語っている音が部屋に響く。


『いえ、まずは誘拐した動機を……』

『馬鹿ですか?なんらかの圧力でも掛かっているんですか?何故そこばかり見るのです!今回の問題点は須本様の誘拐だけではない!

絶対の信頼を誇っていた能力鑑定が間違っている可能性、あれだけの強さを持つ能力者が犯罪を犯した理由、そこから導き出される社会の歪み!

我々が伝えなくちゃいけない事はそれなんですよ!』


「犯罪、か……」


白熱していく討論が流れる部屋で須本さんがつぶやいた。


「ふふ、恭助、本当に誘拐犯になっちゃったね。」


俺の心を揺さぶる君のせいだけどな?


「これからどうしよっか、誘拐犯らしく身代金とか要求する?

それとも私を飼う?」


怖っ。


「メイド服着ようか?」


どうしてなんだよ、俺が誘拐された頃から少し思考回路が理解できなかったけど今回もわからんわ。


「帰りたくはないですか?」

「誘拐されちゃった私に拒否権は無いもん、それに恭助ならいいかなって。」

「そうですか。」


ここ最近は本当に訳がわからない事ばっかりだ。


だけど、何故か心がスッキリした気がする。

ずっと大きなナニカが突っかかって苦しかったのが、綺麗さっぱり消え去った。


「2人きりで静かに暮らすか。」

「それいいね。」


海外の街から少し離れた山か、綺麗な海が見える場所か。

とにかく、これから始まるのは新しい生活だ。





「キテクレテ、アリガトウ。

恭助。」




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

はい、どうもノツノノです。


一区切りついたので、本編的にはほぼ完結になりますが、次回から須本祐美加 視点を3話程で予定しています。

どうして病んでいるのか、何を考えた行動だったのかを全て書く予定なのでもうしばらくお付き合いください。


応援、星★ありがとうございました。

読みにくい文章も多かったと思いますが、皆様の応援、とても励みになりました。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

回復チート幼馴染に誘拐犯に仕立て上げられたチート持ち転生者『俺』 ノツノノ @pannda1617491021

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ