第14話 誘拐

相手の能力の欠点、それは霧状になっている部分はお互いに攻撃が当たらなくなること、そしてどんなに威力の弱い攻撃でも霧状に変わってしまうことだ。

つまり、当たらないことを前提にしょうもない攻撃をし続けて霧状から戻れないようにすればいい。


「他に方法を探す時間もないのでね。」


女性の居る場所を糸で満たす。

薄皮が切れるぐらい小刻みに振動させることで、霧状から戻れない様にする。


『意識がある状態なのに無効化されたのは初めてだ。

貴方の能力は糸を操る、似た能力はあるけど貴方ほど繊細な操作はできないし、人を傷つける威力も出せない。

そこから考えても、少なくともランキング上位には……』

「すまないがまだやる事があるんだ。」


抵抗が無駄だとわかりその場で俺の事を考察している女性から視線を離す。


あれだけの戦いを見せたからか周囲の能力者のほとんどが戦意を喪失していた。

でも全員がそうなっている訳ではなさそうだ。


「君は日本人だよね?」


その筆頭がこいつ、高橋だ。


「どう見える?」

「何処からどう見ても日本人だ。

でも君の事を知らない、それだけ強ければランキングは上位のはずなんだけどな。」


何か裏を感じるとはいえ流石はランキング1位、構えていなくても俺の動きを観察して警戒している。


「予想だと何らかの方法で能力鑑定を回避した日本人じゃないかと思うんだけど、合っているかな?」

「いいや、私は能力鑑定を受けて無能力者だと言われた普通の人間だよ。」


「「「は?」」」


俺の言葉に日本人の能力者が驚いている。

だが来賓席に座っていた権力者の一部だけは全く動じていない、顔を晒して暫く経ったし俺の情報は回っているんだろうな。


「ハハ、そんな馬鹿な事がある訳ないだろう。

君は大勢の能力者を相手にしながら、全力を出した吸血姫を無力化している。仮に君が無能力者なら強い能力者がそこに倒れている訳がないだろう?

それにね──」


ペラペラと話している高橋だったが、俺は吸血姫というワードに厨二心が刺激されて話が入って来ない。


その二つ名カッコいいね!

全部終わったら名前とか調べてみよう。


「!」

「急にどうしたんだい?」


何処からかとてつもない殺気が飛んできた、目の前にいる高橋の敵意など気にならないぐらいの強大な殺気だ。


「あぁ、もしかして殺気が漏れてしまったかな?」

「お前では無いから安心しろ。」


今の今まで感じてた殺気と比べたら、お前の敵意なんて微風程度だ。あまり調子に乗るなよ。


「き、君は……

ふぅ、君も日本人であるなら僕の能力を知っているだろう?」


顔を真っ赤にながらも怒りで怒鳴り散らす事はせず、深呼吸などで表面上は冷静を保っている。


いくら超能力関係から距離をおいていたとはいえ、流石に日本ランキング1位の情報は知ってる。

高橋の能力は他者の超能力の無効化と自身の強化。

珍しい2つ持ちの超能力者で、無効化はもちろん自身の強化もかなりの高性能で日本ランキング1位の名に恥じない強力な能力だ。


「もちろん知っている。」

「ならどうして来たのかな?」


その理由は自分が1番わかっているはずなのにそれを聞く意味はないだろ。

一般的には何でも無効化できると言われている能力だが、本当にどんな能力でも無効化できるなら日本ランキング1位では止まらない、それこそ世界ランキング1位にもなれてしまう。


それなのに高橋は世界ランキング9位。

ギリギリ1桁ではあるものの最強には程遠い、つまりは無効化には条件がある。


っと、ここまで長々と考えていたが、そもそも俺は──


「負ける気がしないから。」


その言葉と同時に高橋の姿がブレ、俺の側頭部へ蹴りが繰り出された。

脚を糸で雁字搦めにしてギリギリの場所で停止させる。


「無効化!」


……何も起こらない。


「なっ?!無効化!

…なぜ何も起こらないんだ?!」


俺の能力が鑑定で識別されなかった事を考えれば、無効化の能力が糸に効かないのは別に不思議な事ではない。

だって俺の力はこの世界に広がっている超能力とは違うのだから。


「そのまま動かないで待っていてください。」


脚だけでなく身体を完全に拘束し、俺の勝利で終わった。

これならさっき戦った吸血姫の方が強かったな。


「このっ!なぜ僕の無効化が効かな──

んー?!んー!!!!」


糸で口を拘束、うるさいのは雰囲気に合わない。


誰も喋っていないボロボロの結婚式場を歩く。

向かう先は俯いて座り込んでいる須本さんの場所だ。


「……」


なんと言われるかな。

今更何をしに来た、って怒られるか?


「須本祐美加さん。」


片膝をつき手を差し出す。


「私に誘拐されてください。」

「……」


返事はなかったが暫く待っていると、再び須本さんの肩が小刻みに震え始めた。


「拒否権は無いのでしょう……?」

「えぇ、もちろんです。」


少し距離を感じる反応にほんの少しだけ悲しくなった。


そのまま抱え上げ、お姫様抱っこの形になる。


「それでは私はこれで。

今後あなた方は私を捕まえようと努力なさるでしょう、ですが今回のように被害が0で終わると思わないように、次からは片足は覚悟してもらいますから。」


本当はそこまでやるつもりはないただの脅しだ、顔を晒してしまったし少しでも牽制になればと思っただけだ。


「さようなら。」


俺が思い付くカッコいい去り方でこの場から離れる。





「ふふっ……」

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