第11話 一歩前へ

ガヤガヤ ガヤガヤ


大勢がとある建物にスマホを向けている。


「はい、現在結婚式場のすぐ近くまで来ております。」


カメラマンやアナウンサーなどのテレビ関係者も多数来ており、この結婚式に関心が集まっていることがわかる。


その中で俺は店長に発破を掛けられたのにも関わらず、いまだに何がしたいのかもわからず、覚悟もできていない状態で佇んでいた。

自分でも男らしくないとわかっているが、どうしても決めきれなかった。


「残念ながら中まで入ることは出来ませんが、日本の英雄とも言える新郎新婦を一眼見ようと大勢の人々が集まっています。」


結婚式が始まるまで残り1時間をきってる。

予定ではそろそろ車に乗った新郎新婦が来るはずだ、ここに集まっている人達はそのタイミングで一瞬でも顔を見れればと集まっているのだ。


ピロン


俺の持っているスマホが鳴った。


店長『略奪がんば★』


なんやねん。

しかも略奪って…俺が何かしらの能力を持ってる事を察してるというか、バレてね?


「来ました!」


テレビ関係者の1人の声で一気に視線が1箇所に集中する。


高級車が列を成していた。


「世界中からランキング上位の能力者も今回の結婚式の為に日本へと来たそうです。

奥に見える一際大きな車に新郎新婦が乗っているものと思われます。」


車の窓が開いてるのもあれば、完全にスモークで中が見えないようにしている車など様々だ。


「「「キャーーーー!!」」」


海外のイケメン能力者が手を振っているのを見て集まっている者、特に女性達がキャーキャー騒いでいる。

てか、ノリノリで手を振ってファンサーピースしてるけど、主役より目立とうとしてどうするんだ。


「ん?」


ゆっくりとパレードのように進んでいくのをボーッと眺めていたら、とある車の閉まった窓から強い視線を感じた。

中は見えなかったがどこか圧を感じる視線で、俺の周囲にいる者達は異変を感じていない。


俺を見ている?


最初の反応で見ている者にはバレただろうし、わざわざ隠す事なく車をじっと見て警戒してみる。

俺のそんな様子に気付いたのか視線が逸らされ圧もなくなった。


調べてみたいが、今はそんな事は優先度最下位。


そのまま高級車の行列を眺め、そのうち目的の大きな車が目の前を通過しようとした。

狙ってかはわからないが、俺の丁度目の前で窓が開いた。


「「「キャーーーー!!」」」

「「「うぉぉぉぉぉ!!」」」


バッチリ衣装を着て自信に満ち溢れた表情で微笑む高橋と、儚げな表情で控えめに手を振る須本さんが見えた。


歓声を上げている人達をゆっくり見ているのに、誰とも目が合ってないのに作為的なものを感じる。


「…!」


そんな中、視線が俺に向いて固定された。


「……」ニコ


「「「うぉぉぉぉぉ!!」」」


今日1番の笑顔、周りに居る男達を中心に大歓声が上がった。

須本さんの考えはわからない、だけど俺にはその笑顔が泣いているように見えた。



ーーーーー


あれから目を合わせていたが通り過ぎてしばらくすると車の窓が閉まり、そのうち式場の周囲に集まっていた人達の半分ほどが解散した。

そんな少し余裕ができた場所で俺は呆然と立っている。


何かしよう、そう思っていても動けない。


【へい!元気してる?】


そんな中、突如として男のうざい話声が頭に響いた。

幻聴かよ、こんな時に頭まで壊れ始めたか…


【おいおい、あの時に俺をドン引きさせた厨二具合はどこに行った。】


あまりにしつこい男の声にイラつく、ふと聞き覚えのある声だということに気づいた。


【魂が揺れて揺れてアラームが凄かったから俺がチートとやらをあげたのにピンチになったのかと思って見に来てやったのに、ただのチキン野郎だった俺の気持ちを考えろ。】


話の内容から思い出した、この声は神だ。


【やっとかい!

てか、どうしたん?あんなに主人公になるみたいに言ってたのに、ただの面白みのないチキン野郎になってバカちゃう?】


どうしたんはこっちのセリフや、キャラ変わりすぎだろ。


【俺も色々あったんだよ。

最後に話したの俺の感覚から言ったら2万、いや3万年ぐらい前だからな?】


生きる時間が違うみたいだ。


【んで、あまり時間ないから話進めるんだが。

世界を滅ぼしかねない変化をしそうになるとアラーム鳴るんだよ、つまりお前はヤバイ奴になりそうだってこと。】


滅ぼそうなんて思ってないし、今の俺はそんな変わりそうか?

ただのウジウジしてるヘタレだぞ?


【女の子の嫉妬っていいけど、男の嫉妬って少し醜いよな。】


どういうことだオメェ。


【でもお前も面倒な思考になってるよな。

生きてる人間をキャラクターとしか見てなくて、罪悪感で好きな子と離れようとしてんだろ?】


は?


【俺に気づいてないフリをしても無駄ですぅ〜。

向こうから告白されてるのにお前って奴は…】


……


【思ったんだが、キャラクター云々言ってるけど、それで悩むならお前もキャラクターでいいんじゃね?】


…え?


【だって俺からしたらお前の生きてるその世界はアニメとか漫画みたいなもんだぜ?

っと、アラーム止まった!じゃあな!】


は?!急すぎだろ待てや!


【世界が滅ばない程度に好き勝手したらいいよ、最期がどうなろうとお前がやりたい道を行け!

…一回言ってみたかったんだよね!バイバーイ。】


…自由すぎる神様だな。


「はぁ、バカらしw」


あんな自由な神が管理してる世界で、小さい事を悩んでたんだなぁ。

神様の話的に世界が滅びない限り、なんも言われなそうだ。


恨まれようと、憎まれようと…


「やるか。」



俺は神様のもらった装備に久しぶりに腕を通した。

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