第12話 乱入

とても神聖な雰囲気の結婚式場、そこには多くの者達が新たな門出を迎える夫婦を祝うために集まっていた。


「新婦入場。」


そのアナウンスと同時に式場の扉が開く。

純白のドレスを着た新婦が入ってきた。


コツ…コツ…


ゆっくりと一歩ずつ歩いている。

顔はベールで隠れており、どんな表情で歩いているのかわからないが、この婚約の事情を知らぬ者達は喜びに満ちていると思うだろう。


神父の前へと新郎新婦が揃う。

そして神父がよく通る声で言った。


「汝高橋昂は、この女須本祐美香を妻とし、

良き時も悪き時も、富める時も貧しき時も、病める時も健やかなる時も、共に歩み、他の者に依らず、

死が二人を分かつまで、愛を誓い、 妻を想い、妻のみに添うことを、誓いますか?」


「誓います。」「………」


誓うと言ったのは新郎だけ、新婦は俯いて黙っている。


「この婚約に異議のある者は?」


何も反応しなかった新婦の事を気にせず式は続いていく。

ドラマなどで良くあるセリフが式場に響き渡り、しばしの無言の状態が続いた。


「ではーー」


バン!


新婦が入場するときも2人がかりでゆっくりと開けていた扉、その1人では開けるのに時間が掛かる筈の扉が音を立て勢いよく開かれた。


「異議あり。」


そこには燕尾服を着て顔を仮面で隠した男が立っていた。



(怖ぇぇぇぇぇ!!)


昔の俺こんなに注目を浴びる事を計画してたのかよ、控えめに言ってヤベェな!


服を着替えてから俺は式場を盗聴していた、方法は糸電話と似たようなもので俺自身もどうやってるのかはよく分からん。


そして今の俺の状態は少し訳が分からない事になってる、冷静な俺と過去に封印した厨二な俺が2人いるかのような違和感だ。


ちなみに今この思考をしているのがその冷静な部分で、異議あり!と式場に乱入したのが厨二な部分。


「「「………」」」


てか、なんで誰も喋らないんだ。

普通ならあの不審者を叩き出せ!的な事を言う奴がいるじゃん、おらお前のことだよ新郎。


「……」


誰か先陣切って動いてくれないだろうか。

厨二な部分はお姫様抱っこで攫えと叫んでるが、後々の生活のことを考えれば指名手配されそうな事は避けたい。


というか、それはもう無理か。


「須本さん。」


ぐちぐち頭の中で考えてても意味ないんだ、好きにやるって決めただろう俺?


…俺って二重人格だったりするか?この正反対のことが脳内で再生されるの気持ち悪い。


攫え!攫え!


いやうるせぇ!少し黙っとれ!


「一度断った私が言うのは不愉快かもしれませんが言わせてください。

私と共に生きてくれませんか?」

「…!」


須本さんからされた告白の言葉を使い、こっちから告白をする。

今更なんだ、と殴られる覚悟は出来てるし殴られたとしても俺のやる事は変わらない。


手をグッと握りしめ小刻みに揺れ始めた。


「それ以上、私の婚約者に近づかないでもらおうか。」


そんな須本さんに近づこうとすれば横に立っていた新郎が間に入り込んできた。


「全く警備の方々は何をしているのでしょうか、明らかに不審者である者を通すなんて。

それに顔を隠すなど自分がやましい事をしていると言っているようなもの、自分の行いが悪い事だとわかっているのでしょう?」


俺にしか見えないように嗤っている。

入った時には気づかなかったが、一台だけ大きなカメラが設置されていた。おそらくテレビで放映しているものだ。


「あぁ、そうでしたね。」


顔に着けている仮面に手をかけると式場の中に居た数人の様子がおかしくなった。

何かを思い出したように驚き、震える手で何処かへと連絡していたのだ。


そんな事は無視して俺は仮面を投げ捨てた。


「初めまして、高橋さん?」

「あ、あぁ…」


まさか外すとは思っていなかったのだろう、高橋の顔には隠しきれない驚きの感情が滲み出ていた。


「さてと、では須本さんをーー」


ダン!


「っと、危ない。」


1人の能力者が鉄球を俺に向かって投げてきた。


危ね、この場にいる能力者と戦闘になることは考えていたけど1番初めに攻撃してくるのが高橋以外だとは…


『よくわからねぇが、お前は強そうだよなぁ!!』


ガタイのいい筋肉モリモリの外国人能力者、様子を見るに戦闘狂だ。

俺と鉄球男の間に不穏な雰囲気が流れて、その雰囲気に当てられた他の能力者達が立ち上がった。


『おらよ!』


何処から出したか右手にバスケットボール程の鉄球を持ち、思いっきり投げつけてくる。

とってもない速度で顔へと向かってくる鉄球をさっきとは違い俺は避けない。


『なに?!』

「「「!!!」」」


顔に当たる直前、鉄球は勢いよく跳ね返った。


やった事は単純、糸をネットのように広げて跳ね返しただけだ。


『はっ!やるじゃねぇかぁ!

グハッ』


鉄球男は力があるだけのバカだった、鉄球を避けただけで壁にぶつかる音も出ていないのに俺にだけ視線を集めて周囲を警戒しなかった。

そこを同じ原理で再び鉄球を男に向かって飛ばしたのだ。


男の脇腹に鉄球は当たり倒れた。


昔から居る能力者なら知ってるんだけど、若いせいでどれ程強い能力者なのかは分からない。

でも、なんか呆気なかったな。


「ふむ、予想外の事態に咄嗟に動けないように見える、わかりやすく言いましょう。」


式の参加者全員を見渡して演説をするように話す。



「花嫁は私がいただきます。」



視線の端で須本さんがビクッと体を震わせているのが見えた。

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