政府side 見つかるな

「何故いまだに須本の居場所がわからないのだ!」


俺の働いている日本能力者協会。その特別調査グループが使う1室。

調査対象は誘拐された須本祐美加の行方だ。


そこでランキング1位である高橋昂が、テレビでよく見るいつもの冷静な姿からは想像出来ないほど怒鳴り散らかしていた。


また癇癪だよ…そんな空気がグループメンバーに広がる。


ここに居るメンバーは高橋の本性を知っている者しか居ない、傲慢で強欲で気に入らない事があれば能力で解決する。

強力な力を持つ存在だが、あまりにも人格面での問題が目立っていた。


「まぁまぁ、落ち着いてください。

先程、お弁当が届いたので別室で食べませんか?」

「クソ!」


ガシャン!


お〜、怖っ。

悪態をつきながら副責任者と共に他の部屋へ行った。


「今回はヤッベェよな。」

「それな…」


外で見張っていた警備員が高橋が遠くに行ったと部屋に居る者達へと伝え、部屋の中では不満の言い合いが始まった。


ここにいる者は皆、あの男に対して良い印象は持っていない。

もちろん俺もやで?


「ぶっちゃけさ、俺は須本様の自作自演を疑ってんだよね。」

「あーね、確かにあり得なくないぞ。」


同僚達が語っている内容は、かなり可能性が高い説だ。

元々あの男は須本様にランキング1位という権力を振り翳しながら婚約を迫っており、須本様からはウザがられていた。


『私は好きな人がいるんです。

貴方の事は全然好きじゃないですし、寧ろ目の前から消えて欲しいとすら思っています。』

『わかってる、俺の事だろ?』

『は?』


なんて会話になっていない会話は日常茶飯事。

須本様の好きな人を特定する動きがあったが、好きな人の事を話す時だけは心の底からの笑顔であり、その笑顔を見たいが為に探る事は一種のタブーとなった。


「こんな事は言っちゃいけないんだろうが、自作自演だろうが本当に誘拐だろうが、このまま逃げ切ってほしいと思ってる。」

「本当に誘拐の方は問題だが、自作自演なら俺も同意する。あの時は可哀想だったしな…」


須本様はあの綺麗な姿から人気が高く、政治家や能力者協会のお偉いさんなどの権力者から可愛がられている。


だが、それを面白くない者達も居る。


権力者同士の争い。

日本ではランキング1位の高橋を援助する者達と聖女である須本様を援助する者達。


聖女の陣営がとある事件により力が弱まり、その隙をついた高橋に半ば強引に婚約を結ばされたのだ。


すまない止められなかった、と謝る人達を見る眼は暗い物だった。

今思い出しても背筋が凍る。


多分だけど、そのとき俺達に失望したんだろう。


我々の殆どは須本様に無理をさせたのを理解している。

抑圧し、弱みを作らせないために活動を制限、理想の聖女としてのイメージを作り上げた。


「殺されないだけありがたいんだ…」


考えている事はみんな同じだったんだろう、誰かが呟くように言った一言は小さかったのにも関わらず部屋に響いた。


「ヤバイぞ!」


呟かれた一言が全員の胸に突き刺さり静寂が支配していた会議室だったが、勢いよく扉が開き1人の男が入ってきた。

あの男は確か能力者協会の外交担当だったな。


「外国の能力者が8人来る。」

「「「!!!」」」

「しかも全員が世界単位のトップランカーだ。」


そもそも強力な能力者は水面下で奪い合われる存在でもある、表沙汰になっていないだけで国同士の争いは沢山起きている。


「まさか、表ルートなのか…?」

「その通りだ。

あと10分もすればマスコミも騒ぎ出す、もう止められない。」


何故このタイミングなのかは全員がわかっている。

行方不明となっている須本様を我々より先に見つけ、国へと連れ帰るつもりなのだろう。


それも問題だが、さらに大きな問題がある。


世界単位のトップランカーが8人、日本に居るトップランカーは高橋と須本様のみ。

現状居場所がわかっているのは機嫌の悪い高橋だけ、タイミング的に8人は協力関係にある可能性が高く勝ち目は薄い。


1番最悪のパターンは各国はタイミングだけを合わせて、能力者達は協力関係ではないパターン。

そうだったら日本は間違いなく荒れる。


「…上位の能力者と弱くても探知系の能力者を集め、須本様を全力で捜索する。」

「それは!」

「嫌な者は私の権限で別部署に移動させる、共に地獄に落ちる覚悟のある奴だけ残ってくれ。」


この特別調査グループは基本的に聖女よりの者が多い、責任者の言っている事は1人の若者を国の為に泣かせる覚悟だ。


家庭を持つ数人が謝罪しながら会議室から出ていく、中でも娘を持つ者は泣いていた。


「さて、これより調査方針を変更する!」


会議室の空気が引き締まる。


「我々はこれより須本様の過去の交友関係を全て調査し、能力者達に協力してもらい人海戦術での探索を行う!

なんとしても須本様を海外のランカーが来るまでに見つけ出すぞ!」

「「「了解!」」」


慌ただしく動き出す。

皆が全力で調査を始めるが、心のどこかで見つからないでほしいと願う者が大半であった…



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この後もう1話更新します。

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