第3話 なんとなく寂しそう

俺と幼馴染である須本さんの共同生活が始まった。


なんてセルフナレーションをしてるけど、そうなった理由と当事者である俺からすればたまったもんじゃない。


「あ〜ん。」

「いや、解いてくれれば自分で食べるぞ?」

「あ〜ん。」


今は須本さんが作った美味しそうなオムライスを、あ〜んで食べることを強要されている。

何回か断っていくにつれて眼から光がなくなっていくのが怖すぎる。


お前チート持ってるんだから自分で腕ぐらい解放しろよ、って聞こえた気がするから説明しよう。


これを外せば須本さんは傷付くらしい。


完全な勘で確証があるわけじゃないんだけど、この体は神様が調節した物て今までも何度か感じとった事があるのだが、今まで外れたことが無い。


つまりどのような形であれ須本さんが傷ついてしまう、この紐を俺が外すわけにはいかないのだ。


「美味しい?」

「あぁ、うまいぞ。」


本当に美味い、俺が今まで食べてきた中で1番。

高級店の味なんてわからないが、須本さんのオムライスはその域に達しているかもしれない。


「練習してて本当によかった。

はい、あ〜ん。」


状況だけを説明するなら、好意を隠さずに伝えていくれる美少女幼馴染に人を愛する天使のように微笑まれながら手作りのご飯を食べさせてくれるという、世の男達からすれば夢のような状況。


俺が開き直って楽しめればいいだけの話しだが…


「え、えへへ…」


どことなく須本さんが寂しそうに見えてしまって、そんな気持ちになれない。


「1つ、聞いてもいいか?」

「なぁに?」

「どうして俺を…

いや、このオムライス鶏肉じゃなくてハムを使ってるのは俺が昔好きだって言ったからか?」

「そうだよ!」


本当に聞きたかったことは違う、本当はどうして俺なんかに好意を持ってるのかと聞きたかった。

怖かったんだ、この世界に生きているのに俺がただの登場人物としか見てなかった人達が俺を好くはずは無いのだから。


きっと真実を知ったら須本さんも俺に失望する。


「覚えてる?

まだ小さい頃に私が作ったオムライスのこと。」


覚えてる。

卵がスクランブルエッグのようになって、お世辞にも綺麗とは言えず不格好だったオムライスのことは本当に良く覚えてる。


「あの時は上手に出来なくて、泣きながら渡しに行ったよね。

見た目だけじゃなくて塩と砂糖を間違えてもいて酷い味で…それでも水を多く飲みながら全部食べてくれた。」


食べた時の印象が大きかったのが理由だけど、アレが初めて同年代の異性が作ってくれたご飯だったのが1番の理由だろう。


「それで感想を求められた俺は、ハム入りのオムライスが好きだって答えたんだよな。」

「そう!今思えばどうして感想聞いたのか全くわからないけど、そのおかげで恭助の好物を知れたから最終的にはプラスだったね。」


あの時は素が出てくるほど焦った。


「あの時は毎日が楽しかった。」


まただ…


今まで笑顔で楽しそうに過去の思い出話をしていたのに、悲しそうな笑顔に変わった。


「美味しかったぞ、ごちそうさま。」


完食すると、笑顔で食べてくれてありがとう、と言って皿を片付け始めた。

スプーンだけ洗わずに袋に入れてるのが見えたが、何も言わず、考えないことにした。


鼻歌を歌いながら上機嫌な様子。


「そうだ、お皿洗い終わってしばらく経ったら2人で少しお昼寝しよう。」

「え…?」

「昔みたいに横並びで!」

「待て待て!お互いの年齢的に流石にヤバイと思うんだが…」


昔と今は違うんだと、声を大にして言いたい。

子供の頃なら何も思わなかった添い寝でも、体が大きくなるに連れて込められた意味も大きくなる。


それ以上の問題もある。


「最近はお世話係が部屋を片付けちゃうからの大きなぬいぐるみは部屋になくて、抱きけるような物もなくて眠れなくてさ…」


眠る時に何かに抱きつかないと安心して眠れない、そう抱きつき癖だ。


小さい頃にした添い寝でも、目が覚めたらガッチリと拘束されてた。

なかなか力が強くて素の力じゃ抜け出せなくかったけど、安心しきっている寝顔を見て罪悪感が湧き出て起こせず結局3時間はそのままだった。


「そんなことされるのか?」

「されるよ、アイツらは私に興味がないんだ。

聖女として相応しい行動を、聖女として相応しい物を、聖女として聖女として聖女として、最後は自分の出世の為の道具、ほんと嫌になる。」

「!」


殺気にも似た何かが部屋に溢れ出る。

力の強い能力者は自らの感情が周りに影響するとテレビで見た事がある、この部屋に溢れている物に当てられれば何かしら影響が出るな。


神様の加護を持つ俺ですら少しイライラが込み上げてくるぐらいだ。

常人ではどんな影響が出るかわからない。


「落ち着いて、ゆみちゃん。」

「わかった!」


俺が声をかけると部屋の雰囲気が一変、重苦しい負のオーラに溢れていた部屋がまるで花畑にいるかのような快適な部屋へと早変わり。


「ふふふ、それじゃあ寝よっか!」


椅子から紐を解いていく。


「最後に、えい!」


手首には縄がついていたが椅子からは離れられ少し体を伸ばしていると、須本さんの合図ともに右手首と左手首が引き寄せられて手錠のようになった。


いや、どういう原理?!

須本さんも俺みたいに糸を操れるのか?!


「まだまだ私達の生活は始まったばっかり、もっとゆっくりしようね。」


布団を引いて2人で横になる。


「おやすみ、大好きだよ。」

「…おやすみ。」

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