第4話 辞めてくれぇ

「ぐぅ…」zzz

「……」


あれから40分ぐらい。

須本さんは抱きついて直ぐに眠ってしまったが、まぁ俺は眠れないよな。


煩悩を全て支配下に置いていたはずの俺は超絶美女である須本さんに抱き締められて今世一番のピンチを迎えていた。

柔らかい体と女性特有の甘い香り、本当にヤバイ。


眠りに落ちたあと、さりげなく抜け出そうと思っていたのだが、能力者として覚醒しているせいで力が強く須本さんを起こさないように抜け出すのは不可能だ。


「ん〜、えへへ…」

「マジかよ…」


ついに脚まで絡み始めた。

このままでは冤罪からガチの犯罪者になってしまいかねない。


「柔らkーー」


ま、待て!別の事を考えろ!

天井のシミを数え…待てこれも違う!


俺の名誉を守るため、長い長い戦いが始まった。


ーーーーー


「んー!良く寝たー!」

「さいですか…」


俺は自らの戦いに勝った。


いやぁ強敵でした。

凄い力で抱きしめられつつ、たまに体を揺らす時とか本当に負けるかと思いましたね。


「これから何をしようか〜。

のんびりするか、のんびりしようね。」

「のんびりだけじゃん。」


疲労のせいで冷静な思考と口調の演技ができず、思った事をそのまま口に出してしまう。

少しふらふらしている俺を支えながら、横並びに座っている。


「2人きりで過ごせるの幸せだなぁ。」


確かに美女に好かれる生活は大多数の男にとっては幸せだけど、俺の場合はいつ誘拐犯にされるかわからないから不安の方が強いな。


「んーと、ニュースニュース…」


これは遠回しな脅しなのだろうかと不安に思っていたら、普通にテレビを付けただけだった。


『必死の捜索活動にも関わらず、未だに手掛かりすら掴めていない状況です。』


付けた瞬間から須本さん誘拐事件についての緊急ニュースが放送されていた。

右上の時刻は9時12分、俺が誘拐されてからどれだけ長い時間が経ったかわからないけど、ずっと同じ内容のニュースが放送されていたんだろう。


「んー、そろそろ情報あげないとダメかな…?」


一体何をするつもりなんだ?!

そんな不穏な事を言ってスマホをいじり始めた須本さんに戦々恐々としていると、テレビに映るアナウンサー達が動揺し始めた。


『本当に映すつもりですか?!』

『圧が掛かる前にすぐに映せ!』


アナウンサーと裏方の人との言い合いが流れ、画面が切り替わる。

なにかの動画のようだ。


『た、ただいま入ってきた情報です!』


映像の裏側ではアナウンサーが混乱しながらも必死に話していた。


『この映像は我々のテレビ局宛に今さっき送られてきた映像です。』


『もうやめて…』


真っ暗な映像から掠れた須本さんの声が聞こえる。

うっすらと電気がつき、いかにも襲われて暴力を受けてしまいました、といった様子のぐったりした須本さんが現れた。


『なんで、なんでーーが…』

『なんでだろうな?』

『お願いーー、元に戻ってよ…』


相手と須本さんが話している内容で編集されているところは俺の名前だろう。


そこまで放送されたあと続きがありそうな状態で映像が止まる。


「もう少し先が面白くなるのに…」

「いや、あれ以上に面白くなられたら俺のメンタルが終わっちゃうから。」

「ちぇー。」


拗ねた。


『我々は編集を行なっておりません、おそらく映像で編集されていた須本さんの言葉の部分には人物の名前が入るかと思われます。』


狙っていたとしか思えない映像の専門家も現れて流れた部分の映像を解説していく。


『元に戻って、との言葉から犯人は須本さんと旧知の仲である可能性が高いでしょう。』


最悪だ。

今の一瞬の映像で俺という犯人に近づくヒントが出てしまった、まぁ冤罪なんだけど…


「他にも映像は作ってるのか?」

「作ってるよ。

拷問バージョン、奴隷バージョン、オークションバージョン、って色々とね。」


もう辞めてくれぇ…

今言われた映像のどれか一つでも流れれば、海外にいるという人探し特化の能力者が出てくるかもしれない。


そうなれば流石の須本さんでも誤魔化しきれないだろう。


「みてみる?

私メイド服とか頑張って作ったんだ〜。」

「メイド…?いや、いいや。」


一瞬心惹かれてしまったが、とても嫌な予感がして見るのは辞める。

須本さんが少し残念そうな表情になっていた。


「なるほどね、恭助は映像じゃなくて現実で着て欲しいんだよね!」


……


「いやいや、そういう事でもないんだけど…」

「でも、否定までに間空いてたってことは期待してくれてるでしょ?」


正直に言おう、須本さんのメイド服姿はすっごく気になるし、少し想像もした。

だけど、仮にメイド服を着られたら確実にジ・エンドだ。

100%責任を取ってルートに入っちゃう。


「バニーとかナース服とかもあるよ、全部手作り。」

「!」


クッ、想像してしまった。

なんという破壊力…


「ふふふ、やっぱり恭助は面白い。」

「ゆみちゃんは小悪魔っぽくなったね…」

「悪魔コスの衣装もあるよ!持ってくる?!」


やめぇい!





『現在、日本能力者管理協会から声明が発表されました。読み上げます、『我々は日本の聖女でもある須本様を絶対に助け出します。また今回の誘拐事件は須本様の優しい心を利用した卑劣な犯行であり絶対に許してはいけない。』との事です。』


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