第5話 不穏
「にゃーん♡」
ごめんなさい、こんな時にどんな反応すればいいかわからない…
俺が一方的に抱きつかれながらのんびり過ごしていると、何がきっかけかは分からないが須本さんが急に猫耳カチューシャをつけて、あざとく鳴きはじめた。
くっそ可愛い…
「にゃにゃにゃ?
にゃ〜ん。」
「急にどうしたんです?」
「ゆみにゃん、ニャ。」
あ、はい。
ゆみにゃん、すね…
「ゆみにゃんは撫でてほしいにゃ〜、にゃふふ…」
猫っぽくスリスリしてきた。
手錠をされた手を何度か動かして猫耳の横の辺りを両手で撫でる。
めっちゃサラサラ!
「にゃふぅ…」
心頭滅却!
無の境地、雑念を排して集中するのだ!
この体は誰だ作った?そう神様だ!
やったことないけど、出来ないことなど絶対にない!
「はふぅ…エヘヘ。」
「……」
無の境地、無の境地…
「大好きにゃん…」
俺も!
はっ!
危なかった、あまりにも大きすぎる雑念が襲ってきて思わず声が出るところだった。
「にゃ?」
「どうしました?」
俺に撫でられながらも体を寄せてきていた須本さんが急に壁を見つめ始めた。
これまた猫みたいだ。
「バレたかも。」
バレた…?
「ごめん、少しやってくるにゃ。」
多分ここがバレたんだろうけど、猫耳カチューシャ付けたまま対応するのか?
てか、俺も一応索敵してた方がいいかもしれんな。
「私と恭助の時間を邪魔するなんて何処の奴?
そんなに私を利用したいの?私は自由に生きちゃいけないの?」
まただ、また須本さんからオーラが出て部屋の空気が重くなってきた。
人が知覚出来ないほどの極細糸で索敵してるし、落ち着くまでそっとしていよう。
それと索敵で気づいたが、此処はおそらく地下だ。
「あはは…
ねぇ恭助、私って聖女なの?」
無表情で泣きながら俺に聞いてくる、まさか俺の方に来るとは思わなかった。
「ゆみちゃんは聖女って呼ばれていたとしても、ゆみちゃんだ。
伝わってくれるかわからないけど、聖女だろうが聖女じゃなかろうが俺にとっては須本祐美加だ。」
「私って、祐美加?」
「そうだよ。
俺、
「……」
俺の言葉が届いてくれたからわからない、だけど須本さんは覚悟を決めた表情でゆっくりと歩き出した。
「行ってきます!」
「いってらっしゃい。」
ガチャ!ガチャ!ガチャ!
…その扉はどれだけの鍵が取り付けられてるんだろうか。
15回ほど鍵を閉める音が聞こえた。
「ん?糸が切られた?」
扉に存在する僅かな隙間から外へと出した探知目的の糸が切れた。
最後の鍵を閉める音と同時に切れたから須本さんの仕業だろう。
「此処での生活もあと僅か、か…」
誘拐されてから多分2日ぐらい。
早速この生活に終わりが見えてきて安心するような不安を感じるような、不思議な感覚が襲ってきた。
「好意を寄せられるのが心地良いと感じて、もう少しこのまま過ごしたい気持ちがある…」
こんな俺が本当に須本さんの近くに居て良いのだろうか。
ーーーーー
「こんばんは。」
私と恭助の時間を邪魔した能力者さん。
『はじめまして、日本の聖女。
我々はーー!』
「ごめんね、私は貴方達如きの話を聞く暇なんて無いんだ。」
侵入してきた4人は仮面をつけてボイスチェンジャーを使用している。
だけど多くの人の身体を治してきた私からすればなんとなく正体がわかる、少なくとも日本人では無いことだけは確かだ。
あの自己保身のゴミ共がわざわざ外国人を使って私を捕まえようとするとは思えない、となると潜伏してた諜報員が私を誘拐しようとしてるんだろうな。
…恭助君と結婚させてくれるとかなら考えてもいいかも?
『交渉は不可能、気絶させよう。』
「あ、待って待って。」
『聞く必要はない速攻で片付けろ。』
私の言葉は無視されて攻撃を仕掛けてきた。
もう!なんでこんなに融通が効かないの?
先に攻撃したのは悪かったけど、恭助と一緒に受け入れてくれるかどうかを聞きたかったのに!
ザクッ!
命を取るつもりはないのだろう、私の体に刺さる刃物は腕や脚だけだ。
そのまま観察していると4人のうち2人の能力は身体能力強化だと判明、残りの2人の能力を予想しつつ攻撃を受け続ける。
脚への負担が一定を超え、私は床へと膝から崩れ落ちる。
『攻撃やめ!
さて、我々に着いてきてくれますか?』
コイツらは下っ端も下っ端だ。
トップクラスの回復系能力者である私をこの程度の傷で放置するのは馬鹿のすること、コイツらの国がこの事態を把握しているのなら間違いなくトップランカーを連れてくる。
つまりコイツらは自らの手柄を上げるため、独断で見つけた私を捕獲しようとしているのだ。
「消すしかないか…」
『なんと言った?』
「んー?死ねって言ったの。」
刃物が刺さったままの体の傷を治す。
カラン カラン カラン
動きを阻害していた刃物が地面に落ち、ゆっくりと立ち上がる。
『化け物か…?』
「貴方の例えは正しいかもしれないよ、でも一応私は女なんだよ?」
『回復系の持ち主とはいえ痛みは感じる、いや寧ろ体を知り尽くしている能力者は痛みへの反応が強いはず…』
怯えている4人のうち1人がそんな事を言う、可笑しくて笑っちゃった。
「アハハハ!
痛みなんて最後に感じたのいつだろう?というか有象無象から与えられた感覚なんて何も無いよ?
全部全部嘘なんだから!」
体を壊す動きで4人組へ攻撃を仕掛ける。
自分も怪我をする攻撃、体を治せて痛みも感じない私だからできる攻撃方法だ。
『この国は……』バタッ
あっという間だった。
能力もしょうもない能力強化、ショボイ感覚共有、ライターかと見間違うレベルの炎。
とんでもない雑魚集団だった。
「早く恭助のところに戻ろっと!」
戦いのあと残っていたのは砂だけだった。
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