第7話 テレビと店長

「…ん?」


自然に目が覚める。

抱きしめていた筈の須本さんが、何故か仰向けで寝ていた俺の上にうつ伏せで寝ていた。


ちょうど頬同士が擦れ合う寝方だ。


「んぅ…」


寝る前に泣かせてしまった罪悪感からか、この寝方に違和感を覚える事はなく自然な流れで頭を撫でてしまう。


「エヘヘ…」


少し微笑んで嬉しそうにしている。


「恭助くん…」

「ん?」


急にハッキリと喋り出したのに目は瞑っている。


「恭助くん、好き…」

「……」


俺の勘が告げている、これは間違いなく起きているということを!


「好き、好き、だぁいすき。」


寝言のフリをしているのは間違いない。

嬉しいような恥ずかしいような気持ちで鏡を見るまでもなく俺は顔が赤くなっているのがわかっているのに、須本さんだけ寝言のフリで逃げるのは少し許せない。


イタズラしてやろう。


「自分も大好きですよ。」

「ひょっ…?!」


ガタッと反応して変な声を出した。

顔が少し赤くなって小刻みに震えているのが、なんか面白い。


「早く起きないとキスしちゃいますよ?」

「…!」///


抱えて半周し、逆の立場になる。

側から見たら押し倒しているように見える体勢だ。


「ァァァ…!」


バレていないとでも思っているのか、薄目で見ているのがわかったが、そんな事は気にせず須本さんの顔を真っ直ぐ見つめたまま近づけていく。


「ん…」


目を完全に閉じたのを確認したら、


「えい。」

「アウゥ…痛い。」


優しくデコピン。


「なんで寝たふりなんてしてたんです?」

「…なんか、そういう雰囲気なのかなって…エヘヘ。」

「何言ってるんだよ、まったく…」

「私ご飯作ってくるね〜。」


何事も無かったかのようにキッチンへと走っていく。

それを確認した俺は何も無い壁の方向を向き、両手と額をくっ付ける。


(危ねぇぇ!やっちまう所だった!)


寝起きの雰囲気に飲まれたせいで、今まで耐えていたのに危うく耐えきれなくなる所だったのだ。

それを激しく後悔している。


ぶっちゃけると、押し倒す体勢になった時には既に一部は冷静になってたんだが、雰囲気はそのままで急に辞めたら逆に襲われかねないとその冷静な部分が言っていた。


咄嗟に何処かで見た対応をする事でなんとか難を逃れることができたのだった。


もっとラブコメ系を読んでおけば上手く回避できた事態だったかもしれないな…


「あっ。」


てか縛られていた紐が無くなってる。

昨日の記憶は朧気なんだけど、なんか俺が能力使って切った気がする。


まぁ、須本さんが何も言わないって事は問題ないんだろう。


最初は透明な箱に入れられていたテレビのリモコンも外に出しっぱなしだ。


『日本全国で警戒態勢が敷かれています。』


事態はどんどん大きくなっていく…


テレビのチャンネルを適当に変えていくと、須本さん曰く変な奴らしい日本ランキング1位の男が会見をした時の映像が流れていた。


『須本様を誘拐した犯人についてどう思われますか?』

『絶対に許せません、私の大切なフィアンセを誘拐するなど…

考えただけで…』


う〜ん、なんか臭うなぁ。

意図してカッコよく見せている気がして、とても胸が痛くなる!


これは…共感性羞恥?!?!


俺も昔に研究したなぁ。

どうすれば物語の主人公みたいにカッコよくなれるか、最強になった強者に相応しい行動とかめっちゃ考えてたなぁ…


イテテテ…


ガシャン!


「…!」

「あーあ、テレビが使えなくなっちゃった…

テレビ見てたのに急に使えなくなっちゃって、ごめんね。」

「別にいいさ。」


見間違えじゃなければ、テレビに腕が突き刺さってたよな?!

血も出てたし、下手したら縫合物の傷だった筈なのに一瞬で治っていた。


「ご飯食べよ!」

「あぁ、作ってくれてありがとう。

ん?」


須本さんの作ってくれたご飯は、白米、焼き鮭、味噌汁、サラダ、卵焼き、と日本人が想像する普通の朝ごはんに見える。

ただテーブルの上に1つだけ、朝ごはんに合わないものがある。


「2人で吸うハート型ストロー、憧れてたんだよね〜。」


喫茶店などで極々稀に見る、カップル専用メニューのカフェオレがあったのだ。


和食には合わないだろ。

いや、作ってもらったし文句は言わないけどちょっとアレだけ雰囲気が違うじゃん。


「なんか見覚えが…」


あのストローをどっかで見た事がある気がするんだよなぁ…

気のせいか?


「そうだ!

これを恭助に見せろって言われたんだった、はい。」


そう言って手渡しされたのはタブレット。

映像の再生ボタンを押すと、現れたのは見知った厳つい顔、店長だった。


『よぉ〜、映ってっかー?』


手にクラッカーなんて持って何やってんだアンタ。


『まさかお前が祐美加ちゃんと駆け落ちするなんて思わなかったぜ。』


???


『私と恭助はラブラブなんですよ!』

『らしいな、全くお前も俺に悟られない様に諦めきった顔で過ごすなんて演技派だな。

童貞って言って悪かった、お前は真の男だ。』


何言ってんだアンタ。


『俺から複数のプレゼントを渡しておく、頑張れよ。』


最後にクラッカーを鳴らして映像は止まった。


「そして、このストローが店長さんがくれたプレゼントの1つです!」


何やってんだアンタァァァ!!


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