第15廻「はじまり~輪廻と夜火」
「おいしいね。
「うん、おいしいね~」
その時、二度ドアがノックされ、女性の声が聴こえた。
「――輪廻様、鈴音様。
メイドの声が聴こえ、輪廻は応対して、声を掛けた。
「いいよ、お父さんのお友達でしょ?」
ドアが開かれ、メイドと黒髪で黒い瞳、容姿の整った詰襟の学生服を着た青年が入って来た。
「失礼いたします。輪廻様、鈴音様。僕は妖怪鵺の息子の鵺野夜火と申します」
鵺の息子、夜火と名乗った青年は輪廻と鈴音に向かって、一礼をした。
一瞬、夜火の瞳が赤く光った気がしたが、輪廻は片手で目をこすり気のせいかなと思う。
「えっと、夜火お兄ちゃんだね?僕は、
「……えっと」
しかし、鈴音はなかなか、挨拶をしない。夜火を横目で見ながら少し怯えているようにも見える。
「どうしたのさ?鈴音ちゃん。お父さんのお友達だよ!だいじょぶだって」
輪廻が鈴音を覗き込み、微笑み掛ける。
「でも、輪廻ちゃん……あの人」
小刻みに震える鈴音の視界には、夜火の背後に恐ろしい妖怪の姿が見えていた。
そんな鈴音を見て、夜火はくすっと穏やかな微笑みを浮かべるとこう言った。
「輪廻様、鈴音様。僕はこの宮の中を見て見たいのです。お手数ですが、案内して頂けますか?」
「うんっ、いいよ~」
輪廻は、鈴音のそんな心配をよそに、微塵も疑うことなく鈴音とメイドと共に炎魔宮の中を案内することになった。
♠
広大な
しかし、鈴音は幼いながらも考えを巡らせていた。
輪廻ちゃんはなんで、このお兄さんを信じてしまっているのだろう?
いつもの輪廻ちゃんなら、逸早く気づくはずなのに……
でも、ここで何か言っちゃったら、どうなるの?
そう思うと、鈴音は震えて声が出せなかった。
その時、輪廻が夜火に話しかけた。
「ねえ、夜火お兄さん。お兄さんは、なんで、ここに来たの?鈴音ちゃんに何をお願いしたいの?」
それは一見、子供の素朴な質問に思えた。しかし、穏やかな表情から夜火は一瞬、怪訝な表情をしてチッと舌打ちする。
――チィッ、
鈴音の能力で、彼女の頭の中には夜火の暗い気と心の声が流れ聴こえて来ていた。
――しかし、ここでしくじれば、母さんが病で死んでしまう。何とか、聖女の力を!――
夜火が再び、輪廻に術を掛けようとした、その時。
鈴音が輪廻を庇った。
「待って!夜火さん。今、夜火さんの心の声が聴こえたわ。輪廻ちゃんにこれ以上、術を掛けないで。あなたは、あなたのママを助けたいんでしょ?」
「――ふふ、その通りですよ、聖女鈴音。まだ、幼女であるにも関わらず、その能力、その賢さ!僕は、重い病の母さんの為にあなたが欲しい」
いつの間にか、メイドは夜火によって眠らされており、輪廻と鈴音のみになっていた。
夜火は小さな鈴音を片腕でひょいと抱える。
術から覚めた輪廻は、はっと気がつき、鈴音の元へ駆け寄ろうとした。
「夜火さん、鈴音ちゃんを連れてっちゃだめ!」
「おっと、そうはさせない!」
夜火は輪廻の首の後ろを手刀で叩くと輪廻は前のめりに倒れ掛かる。
「おと……さん」
輪廻は、涙を浮かべて床に倒れた。
閻魔大王の息子の輪廻を人質に取れば、閻魔はうかつに手を出せないだろう。夜火は、ぐったりと、うなだれる輪廻を抱えにやりと笑う。
「クク、閻魔が子供に甘くて助かった。万が一、あの厄介な閻魔大王が追手を差し向けても、父さんが何とかしてくれるだろう。あとは、母さんにこの娘の血を届けるだけだ」
夜火の髪が術の波動を受けて、さわさわとなびく。夜火が、瞬間移動の術を発動させると彼は脇に抱えた輪廻と鈴音と共に炎魔宮から、一瞬にして消え去ってしまった。
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