※第17廻「清らかなる者との別れ」《冥府過去編終了》

 ぬえは、輪廻りんね鈴音すずねを両脇に抱え、現世へと戻る門を通り抜けようとした。

 しかし、激しいいかづちが彼の行く手を阻んだ。夜火は思わず、舌打ちをする。


「チッ、もう気づかれたか。仕方ない」


 夜火は、輪廻と鈴音を地面に横たわらせると、妖力で邪魔ないかづちを吹っ飛ばそうと構えた。

 夜火が苦戦していると、空間を移動して閻魔えんま大王だいおうが突如、現れた。


ぬえの息子よ! 輪廻と鈴音を連れていかす訳にはゆかない!!」


「くっ、もう来やがった!」


 夜火は輪廻と鈴音を再び抱えようとするが、閻魔が輪廻と鈴音を救おうとして来る。


 後方から、父親の鵺が現れ、急降下し、閻魔を鋭い蹴りで蹴とばすと何と、鈴音を奪った。


 鵺は不気味な宝玉を使って鈴音の身体から、血液を一瞬にして大量に抜き取ってしまった。


「ハハハ! 感謝します、聖女よ! これで私の妻が救われます」



 鵺は、無慈悲に笑うと夜火の元へ一瞬にして移動する。

 鈴音は、その場に残された。


「――ゆくぞ、夜火。長居は無用だ」


「分かったよ」


 鵺と夜火はにやりと笑うと、鵺は現世への門に張られたいかづちのシールドを破った。


「鵺えぇえええッッ!! 許さぬ」


 閻魔王は眉間にしわを寄せ、こめかみに青筋を走らせ憤怒の表情で叫ぶ。

 閻魔王は、一瞬にして鵺に接近し、鵺の身体の半分を高度のエネルギー破で破壊した。



「ギャアアッッ!!」



 鵺の身体の切断面から、鮮血が飛び散り、バランスを崩した鵺の身体が地面に叩きつけられる。


「父さん!!」


 血液を入れた宝玉が足元にころがる、夜火はそれを拾い父親を担いで逃げようとした。


 目を覚ました輪廻は、鈴音が倒れていることに驚き、駆け寄る。


「鈴音ちゃん……!!」



 輪廻が鈴音の身体を支えて抱きとめる。


「鈴音ちゃん、しっかりして!」


「輪……廻ちゃ」


 青白い顔色をした鈴音は、息も絶え絶えに、輪廻に何かを訴えようとして彼の頬に触れたが。そのまま、輪廻の腕の中で息を引き取った。



 目を大きく見開き、驚愕する輪廻の瞳から、涙が溢れる。


「――う、嘘だッ! 鈴音ちゃん? 目を開けてよ、ねえ」



 冷たくなってゆく、愛しい鈴音の小さな身体。大切な者を守れなかった弱い自分の無力さと激しい怒り、深い悲しみが輪廻の心を支配する。


「あああ―――!!」


 輪廻の内に秘めた力が暴走し、地獄が半壊する程の被害が出た。

 しかし、閻魔がとっさにシールドを張り、地獄を守った為に地獄に住む人々は誰も死なずに済んだが。鵺は跡形もなく消し飛び、夜火も満身創痍まんしんそういで地獄を去った。



 鈴音を守れず、見殺しにしてしまった。輪廻は、おのれを責め続け、周りの慰めも決して聞き入れなかった。



 輪廻は、心に多大な傷を負い精神的に大きなショックを受け、以前の明るい性格は鳴りを潜めて、身体の成長も同年代の子供と違い成長の速度が遅くなってしまった。


 そして、輪廻はその日から自身に厳しい修行を課して日々を送った。




 ❖




 窓から、柔らかな光が差し込んでいる。りなは、輪廻の相談所の仮眠室で目を覚ました。

 輪廻が自分の傍らで眠っている。りなは、輪廻の柔らかくさらさらの髪を右手で撫でた。


 ふと、目を覚ます輪廻。彼は、顔を上げてりなに話しかける。


「……おはよう、りな。調子は大丈夫か?」


 彼は、柔らかな表情でりなを見つめた。りなは、頬を染めて微笑む。


「うん、おはよう。輪廻さん」


 鈴音の魂をその身に宿しているりなは、輪廻と共に爽やかな朝を迎えた。






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