※第3廻「無慈悲」

「実は…近所の女の子が」

りなは、隣の家の女の子が、虐待されているのではないかと話し出した。

輪廻は、りなの記憶を読んで見る。




すると、いつもりなに挨拶をしてくれる。保育園児の女の子が、いつも服が汚れており、夏であるにも関わらず、長袖の服を着ていると言う違和感。

体もガリガリに瘦せていて、食事もさせて貰えないのではないか、と言う事が解った。



「うん…これは、怪しい。しかし、そのお子さんの親御様に会って、お話しを聞くと言うことは難しそうですね。本当にそのような事実があった場合。危険にさらされるのは、その子です。」

輪廻は手をあごに当てながら、少しの間考えていたが。りなの方を見ると、彼女の横に来て、座った。


「少しばかり、良いですか?急を要するので…今から、りなさんを通して。その女の子をさらに深く視て見ましょう。ちょっと、失礼」

輪廻は、りなに顔を近づけると、彼女の額に自分の額をくっつけた。


「きゃっ?ななな、なんですか!氷雨さんっ!!」

りなは、顔をゆでだこのように真っ赤に染める。

「少し、静かにして貰えますか?映像が、乱れますから、目をつぶって」

輪廻はりなにぴしゃりと、気もち強めに伝える。

「はいっ」

りなは、頬を染めて心臓が鼓動を打っていたが。輪廻を信頼して、目を閉じた。




◇◆◇


輪廻の意識は、りなを通して遠くの女の子の意識の中へと入った。

すると、女の子の目にタバコを吸っている茶髪の母親らしき、女性が見えた。

「ママあ…のど渇いたよぉ、お腹減ったよぅ。ご飯」

女の子が、か細い声で母親に願う。

すると、母親はつかつかと、歩いて来て。女の子の頭をいきなり、叩いた。



「痛いよ。ママあ」

火が付いたように、大粒の涙を流して泣き出す、女の子。


「大声で泣くな! クソガキ。近所に聴こえるだろっっ!父さんが帰って来た時に一度だけ、水とパンの耳を食わしただろうが!あの人に言われてるんだよ。お前に飯を食わしたら、私が、酷い目に遭うんだからな!!!」


父親は、母親の再婚相手らしく。働きもせずにギャンブルと酒と女に狂っていた。

三日に一度、帰ってきては金をせびり、女の子に暴力を振るっていた。

そのせいで、女の子の服の下は、あざだらけだったのだ。





――もう良い……。理解した。――



輪廻は、そこで視ることを止めてりなから、額を放した。

りなが、目を開けて輪廻を見るとはっとした。彼の両目から、涙が流れていたのだ。

「どうしたんですか?氷雨さん。大丈夫ですか」

りなが心配して、輪廻の背中をさする。


「うっ…!」

すると、突如彼はわなわなと震え、胸を押さえてガクリとうなだれた。

少し、息も切らしている。

「氷雨さん…大丈夫なんですか?猫嶋さん。」

りなは、椿に心配そうに問い掛けた。



椿が水を持って来て、輪廻を支えながら、不安そうに彼に水を飲ませる。

「遠隔で、強いよこしまな場面を“視た”ので精神力を奪われてしまったのです。少し休めば、治りますわ。」

「そうですか…」

りなは、罪悪感にさいなまれながら、輪廻に謝った。


「ごめんなさい。氷雨さん…私のせいで」

「…貴女のせいでは、ありません。これは、僕の仕事ですからね。それと、この件は僕達に預からせて頂けませんか?」

輪廻が冷や汗を流しながら、りなに微笑む。

「大丈夫ですか?本当に…」


りなは、辛そうな輪廻を見てハンカチで彼の汗を優しく拭く。

「大丈夫だって!りなちゃん。俺達もいるから、なっ!」

大和がガッツポーズをして、歯を見せて笑う。


椿は、まだ輪廻が心配らしく。切なげな表情をしている。

深夜…。りなは、輪廻が気がかりで、居ても立っても居られなくなり、彼らが出かけるとその後を尾行した。

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