第8話(絵本)おにぎりひとつ
「おにぎりひとつくださいな」
そう言って小さな女の子がお金をにぎりしめてやってきた。ここは〈おにぎり屋〉しゃけにおかかにシーチキン、梅干しはもちろんのことからあげなんて変わり種も置いている。町のちょっとした人気店。今日は小さな女の子。顔見知りの常連のお客様。
「はいはい。今日は何にしますか?」
店主のカオリさんは、にこやかな笑顔で対応する。「今日はおかかにする」
そう言ってお金とおにぎりを交換した女の子。
「お母さんによろしくね」
カオリさんはそう言って女の子におかかのおにぎりを一つ渡した。女の子は元気よく、うんと返事してお母さんの元に行きます。女の子の名前はサトちゃん。お母さんが入院していて、そのお母さんのおつかいでおにぎりを買いに来ています。サトちゃんのお母さんはここのおにぎり屋の大ファン。入院中もおにぎりが食べたくて。サトちゃんもうすぐお姉さんになるから大はりきりでお母さんのおつかいをしています。サトちゃん家はもうすぐ新しい家族を迎える為に大忙し。ちょっと念の為に早めに入院しているお母さん。退屈気味なようです。
「お母さん。買ってきたよ」
サトちゃんが元気よく言っておにぎりを渡します。
「ありがとう、サト。今日は何かなあ?」
そう言いながらワクワクした様子でお母さんはパクリと一口。
「おかかだわ」
「せいかーい!」
おいしい?おいしい?とサトちゃんはピョンピョンはねながら聞きます。
「おいしい。今日もおいしかったごちそう様」
お母さんはそう言ってサトちゃんの頭をなでなで。
次の日、いつものようにサトちゃんが持ってきたおにぎりを食べていたお母さんが急にうなり始めました。
「陣痛だわ」
灸に始まった陣痛にサトちゃんは目をまんまるくして驚いてしまいました。
「お母さん大丈夫?」
サトちゃんの声掛けにお母さんは苦しそうに言います。
「お父さんを呼んで」
サトちゃんはこの前教えて貰ったとおりにお父さんに電話しました。お父さんは電話の向こうで、
「分かった、すぐに行くから待ってて」
そう言って電話を切りました。
陣痛がはじまったお母さんはいつの間にか別の部屋に行きました。サトちゃんは一人でお父さんを待ちました。そうこうしているうちにお父さんも到着しました。
「一人で待っててえらかったね。もう大丈夫だからね」
そう言うお父さんは、サトちゃんの頭をポンポンと優しく撫でました。しばらくしたら、ある部屋から大きな大きな声が聞こえてきました。
「男の子ですよ」
部屋から出てきた看護師さんが赤ちゃんを抱いて教えてくれました。お父さんは赤ちゃんを抱っこして、うんうんと涙目になっていました。そしてお母さんに向かって
「ありがとう。がんばってくれてありがとう」
と言いました。
お母さんも
「どういたしまして」
と返しました。
その後もサトちゃんはおにぎりをたまにおつかいとして買いに来ます。今度は言います。
「おにぎりみっつくださいな」
って。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます