第14話(童話)目にみえない宝石

コポンと水の中に何かが落ちる音がした。

僕は振り返って近くの湖まで走って行った。

湖の中央にブクブクと泡が立っているのが分かった。

「大丈夫ですか?」

僕はそう叫んで、近くにあったボートを漕いでいく。

ザバッと音がすると、そこから女の子が顔を出した。

「ハッハッハッ。」

そう短く息を吐きながら必死に上を向いている。

「待っていてください!」

女の子の方に全速力で向かい、ボートに乗せて岸までまた漕いだ。

岸辺についても女の子の息は浅かった。

「大丈夫ですか?どうしよう、どうすればいいのかな?」

僕は女の子の周りでアタフタするしかなかった。すると、次第に呼吸を整えた彼女が、

「だ・・・大丈夫です。ありがとうございます・・・助けてくれて。」

そう仰向けの状態で言った。

「本当に?え?医者とかいる?」

そんな慌てふためく僕の姿を見て、彼女はフッと笑い、

「もう少ししたら歩けると思うから。そこまで水飲んでないし。大丈夫だよ。貴方の方こそ大丈夫?」

と逆に心配されてしまった。

その後、濡れた服を乾かすのとかで家に案内して、お茶を飲みながら話をする。

「ハヤト、何から何まで本当にありがとう。助かった。」

ユズハは手を顔の前でパンと合せて言った。

「や、僕こそオロオロしていただけで。」

「そんなことない。あのままだと私溺れていたもの。」

とユズハは大きく安堵の息をした。

「ところであそこで何していたの?」

「トレジャーハンティングよ。でっかい宝石が埋まっているって噂なの。」

ニンマリと笑って彼女は得意げに言った。

「あそこに宝石なんてあったっけ?」

僕は首を傾げた。長く近くに住んでいるけれど、そんな話初めて聞いたから。

「んー眉唾もんだからね。なかなか見つからなくて水草に足とられて。」

「危ないし、もう止めたら?」

そんな危険なところに何の準備もしないで入っていたなんて!彼女は探すための道具も何も持っていなかった。

「んーでもその宝石持って帰らないと王様に怒られちゃうんだよねー。」

「えっ?!」

「珍しいもの好きな人でさー。なんでもこの湖の中に燃やしても燃えない宝石があるとか聞きつけて。」

「そんなの見たことも聞いたこともないよ?」

ユズハは王様に騙されているんじゃないかと思った。

「でも命じられたし、任務遂行出来ないと何されるか・・・。他に誰かいない?」

ユズハの命も危ないのか、と思い近所の人や町まで二人で出かけたが、手がかりは掴めなかった。大きさも形も曖昧なもの。しかも宝石なんて代物は誰も聞いたことも見たこともなかった。

「正直に見つからなかったって言えないの?」

全く情報は得られなかったから、僕は痺れを切らした。

「それが通じるなら鼻からすぐ帰ったよ。」

ユズハも困って答える。

そんな時、地面が揺れて、近くで大きな炎が燃え上がった。

二人して、うわわっ!と叫びながら手を握り合った。その時、何かが湖の方目がけて飛んでいったのを見た。

「ハヤト、湖に行こう!」

ユズハは僕の手を取って全速力で走り出したから、僕は必至に走った。

ユズハは湖の中に一目散に飛び込んでいった。

そして手の中に何かを掴んで戻ってきた。

「ハヤト、見つかったよ!」

僕はドキドキして、ユズハが掴んでいるものを見ようと近づいた。

その時、大きな風が僕を吹き飛ばした。


「・・・ヤト!ハヤト!おきてオニゴッコするよ。早く。」

目を細くあけると、幼馴染のユズハが僕の肩を揺り動かしていた。

「またほんよみながらねてたでしょ?」

ユズハが顔を近づけて言った。

「はやくしてね。」

体から手を放してもらい、僕は本を片づけて彼女の後ろを歩いた。夢の中のあの宝石はどんなだったのだろうかと想像しながら。

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