第9話(絵本)泣き虫ゴミ箱
あるところに泣いているゴミ箱が居ました。
いつも人気がなくなると、シクシクと泣き出すのです。
今日もシクシクと泣いていました。
そこを通りがかったカラスが聞きます。
「おいおい、ごみ箱さん。なんで泣いているんだい?」
ゴミ箱はシクシク泣きながらも答えます。
「みんなが僕のことを的にして遊ぶんだ。遊ぶくせに片付けもしない。僕の周りにはいつもゴミが散らかっているんだ。ゴミ箱なのに、ゴミを入れてもらえない。そのことが悲しいんだ」
カラスは言います。
「そんなことで泣くんじゃねえよ。ほら、おいらが手伝ってやるからさ」
カーと一鳴きして、カラスは応援を呼んで、ゴミ箱の周りに散らかっているゴミを器用に嘴でくわえてゴミ箱に入れていきました。
「ありがとう。ありがとうカラスさんたち。僕の周りがきれいになったよ」
もうシクシクとゴミ箱は泣きません。
「しかし、なんでゴミ箱を的にして遊ぶんだろうね。それが無くならない限り、また同じことの繰り返しだな」
カラスがそう言うと、
「そうなんだよ。なんでも的あと入れゲームとして自分たちが飲み終わった缶をボールのようにして入れていくんだ。入らない時は僕に当たって落ちていくんだ。痛いんだよ」
ゴミ箱も悲しげな声で言います。
「またゲームを始めたら、おいら達がフン攻撃でも仕掛けようか?」
「すると今度は僕の周りがフンまみれになっちゃうよ」
「そうか」
「急降下して脅かすのはどうだ?」
「自治体の人に通報されて、君たちが悪者扱いになっちゃうよ」
「そうか」
なかなかいいアイデアが思い浮かびません。
その時フワリと何かが落ちてきました。
「それなあに?」
ゴミ箱が尋ねます。
「ああ、僕たちの羽だよ。抜けるんだ」
それを話しながらカラスはあることを思いつきました。
「そうだ。これを使って仕掛けを作れないかな」
ごにょごにょとゴミ箱に話し始めます。
「うまくいくかな」
ゴミ箱が不安そうな声を出します。
「やってみないとわからないよ」
カラスは自信満々に上手くいくはずだと確信を持ちながらそう答えました。
1週間後
ゴミ箱の周りにある集団がやってきました。
「今日もゴミを入れれるか勝負しようぜ」
そう言ったのと誰かがあることに気が付くのが同時でした。
「おい、あれ見てみろよ。なんか変だぜ」
その声でその場にいる全員がゴミ箱をよく見ようと近づきました。
ゴミ箱の上には、カラスの羽がびっしりと敷き詰められていました。
中央にポツンと穴があるのを除いて。
「なんだよこれ」
「これじゃあ投げ入れられないな」
「これカラスの羽か?」
「誰かのいたずらかなあ」
「普通に入れるしかないな」
そう言って集団は、普通に優しく1缶ずつ空き缶をゴミ箱に入れました。
その様子を空の上から見ていたカラスは、集団がゴミ箱から離れたのを見計らってゴミ箱に近づいて言いました。
「上手くいったな」
「うん。これでもう痛いことはなくなりそうだよ。ありがとうカラスさん」
「いいってことよ。じゃあな」
その後ステンレス製の蓋が出来るまで、カラスの羽の蓋はそこにあり続けました。
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