第2話(童話)水玉キラリ☆

「雨あがった?」

「あがったよ、お母さん」

そう言って僕は外に出た。

家の前には大きな大きな水たまりが出来ていた。

「ちょっと待っててね」

そんなお母さんの声が家の中から聞こえたから、

僕はちゃんとお母さんを家の外で待っていた。

そんな時気になっていた水たまりに顔を近づけた。

顔を近づけたら、水たまりの中に僕の顔が見えた。

ニコーって笑ったら、水たまりの中の僕もニコーと笑った。

ツンと口をとがらせたら、水たまりの中の僕もツンと口をとがらせた。

面白くて色んな顔をしていたら、水たまりの中から手が伸びてきた。

ポチャン

そうして僕は水たまりの中の世界に足をいれていた。


水たまりの世界は、全てが逆さまだった。

左右逆。

僕の右ぽっけに入っていたどんぐりだって、水たまりの世界の中の僕は逆のぽっけに入っていた。

「どんぐりだ」

「どんぐりだよ」

「なんで持っているの」

「君が持っているものは僕も持っているんだよ」

だって僕と君は同じだから。

水たまりの世界の僕の方が何でも知っているように見えた。

「遊ぼう」

「いいよ」

そう言って僕は水たまりの世界の僕と遊んだ。

水たまりの世界の中には、公園も遊具もあった。

水たまりの世界の中の物は全部水玉模様だった。

ブランコだってすべり台だって、全部水玉。

「なんだか目が丸々しそう」

そう言いながら僕はひとしきり僕と遊んだ。

泥んこになって、ふとぐーとお腹が鳴ってから僕は気になったことを聞いてみた。

「お母さんは?」

「お母さんは居ないよ」

水たまりの世界の僕は、たんたんと答えた。

「なんで?」

「なんでってお母さんが水たまりの中を見ないかぎり居ないよ」

そう言われて僕は急に悲しくさびしくなった。

お母さんが居ない。

そんなの嫌だ。

「お父さんは?」

「お父さんも居ないよ」

「見ないから?」

「そう、見ないから」

だんだん僕は悲しくなってきた。

お父さんもお母さんも居ない世界なんて。

「帰りたい」

そうこぼすと、

「帰れないよ」

と水たまりの世界の僕は言った。

「帰りたい!」

もう一度強く言うと

しょうがないなあーって感じで水たまりの世界の僕はため息をついた。

その時だった。

「だいじょうぶ?!」

肩がゆさゆさ揺れた。

僕は急に自分の体がゆれたことに対してビックリして、

「うわあああ!」

と声をあげて上を見た。

するとそこにはお母さんの顔があった。

「びっくりしたー。水たまりの傍で横になっているから。ねてたの?」

そう言われて僕は元の世界に戻ってこれたんだと分かって安心した。

「ちょっとねてた」

そうお母さんに答えたら、

「そう、大事にならなくて良かった。行きましょう」

そう言って僕はお母さんと手をつないで歩きだした。

水たまりの世界の僕がウインクしていたことに気がつかずに。

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