第7話(絵本)仲直りヒコーキ

ケンカした。

僕はケンカした。

一番なかよしのカンタと。


ことの始まりはただの恥ずかしさからだった。


「ソウタ知らねーのかよ」

それは今話題のおもちゃのことだった。

正直知らなかった。

でも知らないって言うのは恥ずかしかった。

だから、

「知っているよ!カンタこそ知らねーんじゃないのかよ!」

思わず言ってしまった。

言ったあとにしまったと思った。

思ったのは遅かった。

カンタはすでに怒っていて、

「もういい!」

って言って足早に帰っていった。

カンタの後姿を見ながら、

「なんだよ……ちえー」

って僕は拗ねた。


その日の晩御飯はおいしくなかった。

なんだか黒い塊がモクモクと身体中に広がっていくみたいに

感じられた。

その黒い塊が食べ物も覆い隠していくみたいに感じた。

「ごちそうさま」

ほとんど食べずにそう言うとお母さんが

「どうしたの?何かあったの?全然食べてないじゃない?」

と心配そうに聞いてきた。

そんなお母さんに何も知られたくなくて、

「別に。今日はもういい」

そう言ってテーブルから退散した。

しきりにお母さんは心配していた。

でも僕はお母さんにも言えなかった。

だって、ケンカの理由がくだらないことって分かっていたから。



その日黒い塊に全身包まれた気分で布団の中に入った。

明日学校に行きたくないなあ。

そんな気持ちがムクムクとわき上がりながら。


夜夢を見た。

僕は夢の中でビリビリに破れた紙を持っていた。

「なんだこれ?」

そう声に出して紙を見つめた。

そしたらカンタに会った。

カンタも手にビリビリに破れた紙を持っていた。

「カンタ」

「ソウタ」

カンタも僕の名前を呼んだ。

二人してお互いのことを見つめ合った。

その後にお互いが持っている紙を見つめた。

「これ」

カンタが口を開いた。

「なんか持っていたんだ」

僕も言う。

「合わせてみねえ?」

カンタがそう言うから僕もそうしようと紙を合わせた。

カンタが持っていた紙の破れた部分と僕が持っていた破れていた紙は

ぴったり一致した。

「一枚の紙だったんだね」

「ぴったりじゃん」

「これで紙ヒコーキ作らねえ?」

「作ろう」

紙と紙を合わせると不思議なことにまるで一枚の紙だったかのように

破れていた部分がノリでくっついたみたいになった。

僕たちは紙ヒコーキを作った。

するとどこからともなくいくつもの紙ヒコーキが僕たちの頭上を飛んで行った。

飛んでいる紙ヒコーキをみると僕たちのと同じように色とりどりで

破れた紙を合わせて折っているのが分かった。

「僕たちのと同じだ」

「どこから飛ばしたんだろう?」

2人でそう言い合って、紙ヒコーキが飛んできた方を見る。

「行ってみるか」

「うん」

紙ヒコーキが飛んでいくのと逆方向に僕たちは進んだら、丘が見えた。

その丘には大勢の人たちが居た。

「あそこだ」

僕たちは丘を登った。

登ってから近くに居た人に事情を聞くと、

「君たちも紙ヒコーキを折ったの?だったら仲直りとして飛ばしたらいいよ」

「この紙ヒコーキは仲直りの記念なんだよ」

「破れた紙を合わせて一枚の紙になったら紙ヒコーキを折る」

「紙ヒコーキを折ったらここから飛ばす」

「さあ君たちも」

そう言われて僕たちは自分たちがケンカしていたことを思い出した。

どちらからともなく僕たちは謝った。

「ごめんね。嘘ついて」

「ごめんな、無理にはやし立てて」

そう言ってから紙ヒコーキを飛ばした。

一枚の紙になった紙ヒコーキがヒュンと大空を舞った。

「飛んでけ――」

そう二人で叫んでいた。

「飛んだな」

「どこまで行くかな?」

「遠くまでいくといいな」

「そうだね」

そう言ったうちに僕は夢から目が覚めた。

夢から覚めた僕は、黒い塊に全身覆われていたのが嘘みたいに晴れ晴れしていた。



「おはよう!」

カンタに朝会って僕から声をかけた。

「昨日はごめん」

カンタは何も言わない。

「あのさ、紙ヒコーキ作って飛ばさない?」

夢の中で見たみたいに上手に飛ばせれるか分からないけれど。

そこでやっとカンタが口を開いた。

「俺もごめん。……飛ばそうぜ」





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る