第11話(童話)カガミの枕
カガミはお気に入りの猫の枕でないと寝られません。家族で旅行に行く時も学校の行事のお泊りも必ず周りに笑われても持っていきます。
猫の枕は赤ちゃんの時に叔父からのプレゼントで貰ったものです。正確には両親が叔父に報告した際、あまりの喜びに先走り過ぎた叔父がその場で買って贈ったものです。産まれてもいないカガミに。
叔父は甥っ子のカガミが目に入れても痛くないほど可愛がります。そんな叔父がくれた枕をカガミは大層大切に大切に扱ってきました。
カガミが小学生に上がった時に事件は起きました。
大切にどんな時もそばに置いていた猫の枕を誰かに破かれたのです。
いままでもカガミ本人が破いてしまったことはあったのですが、その都度優しい母親が縫って直してくれました。でも今回は今までの破れとは比べ物にならないくらいにひどい大きな傷でした。胴体部分のお腹の場所、ちょうどカガミの頭がすっぽりいつも収まっている場所に大きくナナメに切り傷が入っていたのです。
それを発見してからカガミは大いに泣きました。中の綿も飛び出していて、母親からは直らないと言われたのもありますし、何よりも大好きな叔父からの大切にしていた枕を誰か知らない人に傷つけられたのが悔しかったのです。
3日3晩泣きに泣いて食事も喉が通りませんでした。両親もそして大好きな叔父もすごく困り、また心配しました。
泣きに泣いて涙も枯れて放心状態になったカガミをそっと叔父は抱き上げてデパートに連れていきました。カガミの手には傷つけられた猫の枕を握ったまま。枕売り場のコーナーで代わりの新しい枕を買おうと叔父はカガミに向かって言いました。そこには新しい手触りも良い形も様々な枕が置いてありました。それでもカガミは手に握っている枕でないと気に入らず、口を真一文字にして頭を左右にブンブンと振って拒否をしました。そんな姿を見て両親も叔父も困り果てました。父親は家に帰るなりカガミに向かって聞き訳がないと怒り、母親はカガミの頭を撫でながら、もう一度新しいものを買いましょうねとなだめてみました。それでもカガミは口を貝のようにギュッと閉じて抵抗しました。
その時叔父はパソコンを使って、同じような枕がないかと探していました。しかし、何年も前のもの。商品は日々移り変わり、生地もなくなり、同じものは見つかりません。あきらめかけた叔父の目に一つの見出しが輝いて見えました。
【どんなものでも修理します。仕立て屋】
その売り文句は本当なのか、叔父は早速その店にメールを送りました。切られた時に写真を撮っていたのでそれも添付して。すると次の日には返事が返ってきました。
「お受けいたします」
と。なんとも素っ気ない返信ですが、今や家族にとっては天の救いのものでした。
その週末、カガミは叔父と一緒に仕立て屋に出かけました。そこには優しそうな顔をしたお姉さんがいました。小さなカガミの手から破れた猫の枕を丁寧に受け取り、必ず直してみせますと力強く言いました。カガミはお姉さんならば元の猫の枕に戻してくれるような気がしました。
10日後。叔父の元に修理完了のメールが送られました。早速週末、カガミは叔父と一緒にもう一度仕立て屋に行きました。猫の枕を迎えに。
でも、お姉さんから受け取ったのは猫の枕ではありませんでした。姿はすっかり変り果て同じ部分は生地と中身の綿のみです。カガミは大変衝撃を受けました。叔父はそれを見て、注文と違うと珍しく怒りました。お姉さんはそんな二人に微笑んで、カガミの背の高さまで屈み言いました。
「同じように直してもきっとまた傷つくよ。ならばいっそのこと生地と中身はそのままで形を変えてもう一度使えるようにしました。あとはこれはその余りで作ったお守りです。これを持っていれば枕がなくても安心するんじゃないかな。」
そう言ってお姉さんはカガミの手に猫の顔のキーホルダーを渡しました。カガミはそれを握りお姉さんを見て、
「ありがとう」
と初めてお姉さんに言いました。それを見て叔父も怒ったことを謝り、店を出ました。
その後何年も枕は活躍し今ではもうボロボロになって捨てられましたが、猫のキーホルダーは今もカガミの元で活躍しています。
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