第5話(童話)貸靴屋
カランと子気味良い音が鳴って、人がやってきたことを知らせました。
「いらっしゃい」
店主は言います。その声にビクリと肩を震わせたのは、身なりが粗末な少女でした。
「どのような靴をお探して?」
店主が問います。
「……ここは靴屋さんなの?」
恐る恐る少女が尋ねると、
「いいえ、ここは貸靴屋ですよ。お嬢さん。」店主が優しく答えます。
「貸靴屋?」
聞き慣れない為、少女は言われたことを繰り返します。
「スニーカーが欲しい青年にはスニーカーを。デート用のヒールが欲しい女性にはヒールを。その方の要望に合った靴をお貸しするのが貸靴屋です。ところで、貴方のご所望の靴は何でしょう?」
店主がそう言い、少女の足元を見つめます。少女は何も履いていませんでした。
店主の優しい問いかけに、少女は言います。
「わ……私は、海に行きたいの。真っ青な海を見に行きたいの」
それを聞いて店主は微笑みます。
「そうでしたら、こちらの靴は如何ですか」
そう言って店主の持ってきた靴を見て、少女は微笑みます。
「これにします」
「ありがとうございます」
「でもお金が無いの」
少女が悲しそうな顔でそう言うと、店主は意味ありげに微笑んで言います。
「お題は海にある貝殻をこの篭一杯に取ってきてくださいな。それで結構ですよ」
そう言って篭を少女に渡しました。
「貝殻ね。分かったわ」
少女は溢れんばかりの笑顔でそう答えて、店を後にしました。
その後少女は海に辿り着きました。初めて見る砂浜にドキドキし、バサアと大きな音でうねる波しぶきに驚きました。
「こんなに大きいなんて」
少女はドキドキした胸を抱いたまま、海に近づきます。店主には初めに言われていたことがあり、その通りに進みます。
「気持ち良い」
少女は靴を履いたまま、海に浸かりました。少女が店主から教えられたのは、ビーチサンダルでした。そのまま海に入れるから、浸かっておいでとも。太陽がサンサンと照り付ける夏日に海に入ることはとても気持ち良い絶好の日でしょう。少女は夢中になって波打ち際で思う存分走りました。ひとしきり走った後、店主との約束の貝殻を集め始めました。大きいのから小さいの。合わさっているのから綺麗なもの。ありとあらゆる貝殻を篭一杯に集めました。
数日後、またカランと音がなります。
「いらっしゃい」
店主がそう言うと、
「集めてきました」
少女がそう言って篭を店主に差し出しました。
「気持ちよかったかい?」
そう店主が聞くと、
「はい。とっても気持ち良かったです」
少女は満面の笑みでそう答えました。
「だったら最後にもう一仕事付き合ってくれるかな」
店主はそう言って少女を店の奥へと誘いました。そこは作業台になっていました。下には藁で編んだ靴が途中になっていました。店主は少女を座らせて、藁の編み方を教えます。少女は言われたとおりに編んでいきます。草履が出来た時、店主は篭を持ってきて、言いました。
「ここに好きなだけ貝殻を飾りなさい。可愛く綺麗になるようにね」
少女は自分が履きたくなるような草履を目指して貝殻をあしらいました。出来上がった貝殻の草履は、キラキラと綺麗で可憐でした。
「ありがとう」
店主はそう言って出来た貝殻の草履を少女に渡しました。
「これはお駄賃だよ。さあ、もう石で足を傷つけちゃダメだよ」
店主はそう言って少女に草履を履かせました。少女は涙を流しながら何度もお礼を言ってお店を後にしました。
ここは貸靴屋です。必要な人に必要な靴をお渡しする場所です。貴方の必要としている靴はなんですか?
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