第126話:伊邪那美命の後悔
刀身に浮かび上がった
八つの頭がそれぞれの
≪
言葉が終わるや、
息ができない。猛毒を持った生物に
織斗は意識を失いそうになりながらも、必死に
≪優季奈ちゃん、優季奈ちゃん≫
真っ先に想い浮かんだのは、誰よりも大切な優季奈の顔だ。
≪貴様の想いはその程度か。それでは到底、主の試練には耐えられぬ。ここで終わりにしてしまうのか≫
抑揚のない口調ながら、熱がひしひしと伝わってくる。
織斗はとりわけ
あらぶる神とも呼ばれ、その粗暴さも際立つ。それでも
(
二人の神に筒抜けでも構わない。織斗は心の底から想いを
「俺は必ず優季奈ちゃんのもとへ帰るんだ」
織斗の叫びは、身体を侵食していた痛みを瞬時に振り払っていた。
冷たい床に両手をついたまま、肩が大きく上下している。聞こえてくるのは織斗の荒い息
≪よくぞ
「風向織斗、見事でした」
そこには様々な意味が
察しているに違いない。察していないなら、
「我が息子よ、
「母上殿、間違いなく、確実に。この者の魂に加護の力は定着しております」
「よろしい。それでは始めます。風向織斗、そなたにやってほしいことをこれから聞かせます」
「
織斗がおもむろに顔を上げ、御簾の奥に視線を合わせた瞬間だった。
≪まさか、母上殿、
織斗の眼前には四面目が立ちはだかっている。そこに浮かぶのは四神最強とも
四神を見た者は、
その言葉どおり、織斗は玄武の四つの瞳にあてられ、そのまま前のめりに倒れていった。
これ以上ないというほどの澄んだ冷気と霊気が殿内を満たしていく。織斗は微動だにしない。
やがて織斗の身体にも冷気と霊気が
「我が息子よ、風向織斗の魂はそなたに託します。
織斗の心臓部分から静かに魂が浮かび上がってくる。
「母上殿、しかと承りました。風向織斗の魂は我が預かっておきましょう」
あまりに弱すぎるが
「母上殿、お尋ねしてもよろしいでしょうか」
何を聞きたいかなど、
「風向織斗の身体を用いて、ある者の魂を降ろします。我が息子よ、私は後悔しているのです」
「ある男がいました。男の想い人は既に幽世の住人となっていました。私にとっては、
「そなたなら、櫻樹によって産み落とされた命がどのような運命を
「もちろんですとも、母上殿。して、二人は幽世に下ってきたのでしょうか。この風向織斗のように」
「女は
「許せぬ。死に恐れをなして逃げ出したか。何という情けない男であろうか」
「私も最初はそのように思っていました。真実は違うのです。私がそれを知ったのは、男が幽世の住人になってからでした」
たとえ現世で添い遂げられずとも、幽世では
男は、女から聞かされた話に最初こそおののいたものの、この先でまた
いや、逢瀬ではなく、今度は堂々と逢えるかもしれない。それを考えると男の胸は躍った。
問題がないわけではない。
幽世と呼ばれる死者の世界に二人して行かねばならない。その方法も奇想天外だった。
男は今を生きている。もしかしたら、二度と現世に戻れないかもしれない。それを考えると、両親や仲間たちに別れの
そこで男は女に一両日の
幽世に下るには条件がある。
女はひたすら男の帰りを待ち続けた。
「いくら待っても男は帰ってきませんでした。男は一両日という約束を守り、女のもとへと急いでいたのです。ですが、不幸が男を襲った。男は
「男が戻ってきて、二人して幽世に下る決意を固めているなら、私は男に
これが
「女は桜、男は
月下に桜花濡れて天使降る 水無月 氷泉 @undinesylph
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。月下に桜花濡れて天使降るの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます