第12話 熱い思い…(吉川観鈴)
あの日、
「観鈴先生って、恋してるんじゃない?」
敏感な年頃の生徒達に、会うたびにそう揶揄われた。
そんなに、私って顔に出やすいのかしら!?
確かに、ふとした瞬間にあの時の彼の横顔を思い出してしまうのだけれど…。
しっかりしなくっちゃと思いながらもどうしても思い出してしまう。たったあれだけ…、短い時間だったのに…。どうして、私はこんなにもあの人のことが気になるんだろう?
だが、それも今日、分かるはずだ。
私の心の奥底で、「今日、今日しかない」と大きな声がする…。
こんなに雨が強い日だけれど、そして、雷鳴も激しいけど私は妙邦寺へと急いだ。
「あら〜、こんな日も描くの!?偉いわね〜。でも、誰もいないから描き放題だね。頑張って」
受付のお姉さんに、そう言われ、私は確信する。
そう、今日だ。今日に違いない…。
水をタップリと拭くんだ苔の上をさらに水が流れて行く…。
その苔をできるだけ傷つけないように、私は静かに山の中腹まで登って行く。
前に彼と一緒に雨宿りをした洞窟に入ると私は赤い傘を畳みじっと空を眺める。
その時…、
「ビカッ−」、「ズ、ズドドーン——」
目が開けられない位の光が私の視覚を奪い去ると同時に、今度は凄まじい地響きのような雷鳴の音が私の聴覚を奪い去る。
意識が遠くなっていく…。
だが、あの時、感じた温もりが、確かに私の左側にある…。
私は、すぐ左側にいる彼の方を見つめる。
「また、会えた…」
私は、無我夢中で彼の胸に飛び込んだ…。
- - - - - - - - - -
ふと、彼の両手が手持ち無沙汰になっているのに気が付いた。
私を抱きしめようか、いや駄目だ…と迷ってるのかしら!?なんて、自分も恋愛の経験がないくせにそう思ってしまう。そして、彼の誠実さにさらに惹かれていくのだ。
「ごめんなさい。私、急に飛びついてしまって…」
「いや、大丈夫…。だ、よ」
私は、彼の胸からゆっくりと離れると、「会いたかった」ともう一度呟いた。
あれ、何でだろう!?嬉しいはずなのに、涙が…。
「
彼は、そういうと薄いウィンドブレーカーからタオル地のハンカチを出すと私の濡れた髪を丁寧に拭きだした。
「ありがとう。
私は自分の気持ちを上手く話せずやきもきしている。
だが、彼は私の言いたかったことをしっかり理解してくれているようで、「うん」と大きく呟いた。
「吉川さん…。ちょっと聞いてもいいかな?」
「はい。私も聞きたい事が沢山あるの…」
そういうと彼は、今度はウィンドブレーカーの反対側のポケットから小さな紙を取り出した。
「もしかしたら、会える時間が短い可能性があるから、質問をまとめてきたんだ」
そんなことを平然という彼に少しだけ驚く。
短い時間って、今日はまだ閉館まで時間も沢山有るのに…。
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