第11話 雨の日の出来事 2(宮里咲楽)

 随分眠ったような気がする…。

 時計をみると午後三時を指していた。


 僕は、なんともいえないぬるんだ空気を入れ換えようとベットから起き上がると窓に手をやった。


「ゴロゴロゴロ…」


 遠くから薄気味悪い低音が響いてきた。

 ただ、自分は風邪をひいてしまったようだし、熱もあったので到底妙邦寺には行けない…、そんなことを考えていたら、「ビガッー」と辺りが一瞬明るくなるくらいの、今まで見たことがないような光が眼に入ってきた。


「行かないと…。彼女に会えるのは今日しかない…」


 僕は再びその感情に支配され、まるで夢遊病に罹ったかのように出かける準備を始めた。そして、音を立てないようにドアを閉めると、階段をゆっくりゆっくりと降りて、妙邦寺へと急ぐ。

 

 栞奈さんには気づかれなかっただろうか?

 

 僕の体を気遣って看病までしてくれたのに、それを裏切るような形で外出していることはとても申し訳なく思う。だが、あの、吉川観鈴よしかわみすずという女性に会えると思うと僕の胸は熱く燃えさかるのだった。



「あら、こんな雨の日に珍しいわね。でも、今は誰もいないから良い写真が撮れると思うわよ。ごゆっくり」


 受付のおばさんに言われ、僕は誰もいない境内へと進んで行く。

 強い雨に打たれ、水がほとばしる苔の階段を左手にみながら僕は、ゆっくりと散策路の小さな階段を登っていく。

 

 そして…


 彼女と初めて会った時の様に、階段を登る度に薄い霧が立ちこめ、雷鳴はさらに激しくなっていった。


 僕は、山の中腹までくると、以前、彼女と雨宿りをした洞窟に入って静かに瞳を閉じた。


「ビカッ−」、「ズ、ズドドーン——」


 目が開けられない位の光が僕の視覚を奪い去ると同時に今度は凄まじい地響きのような雷鳴の音が聴覚を奪い去る。


 意識が遠くなっていく…。

 だが、あの時、感じた温もりが、確かに僕の右側にある…。

 僕は、すぐ右側にいる彼女の方を見つめる。


「また、会えた…」


 彼女はそう言うと僕の胸に飛び込んで来た。


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