第17話 和菓子店にて… その二(宮里咲楽)
「ちょっとすいません!!!」
少し声が大きすぎたかもしれない。
おばあさんだけでなく、店内にいた全員が僕の方を見る。
「あ、ごめんなさい。ちょっとこの方に聞きたい事があって」
僕は、すいませんともう一度謝罪をした後、その女性に向き合った。
「あの、さっき、観鈴って仰いましたよね?」
僕の言葉にその年老いた女性は、「えっ?」と小さく声を上げた。
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「いや、本当に驚きましたよ。だって、もう観鈴のことを話す人なんて、ここ数年誰一人いなかったしね」
僕が声をかけたそのおばあさんは、観鈴さんのお母さんだった。
僕とおばあさんは、和菓子屋の『
和服をきたスタッフが、おばあさんには抹茶とわらび餅のセット、僕には抹茶ラテと粒あんのおはぎを運んできた。
「あの子、ここのおはぎが本当に好きでね。いつもなにかと理由を付けてはここに買いに来てたんですよ」
おばあさんは、懐かしそうな表情をして僕の方を見つめる。
「ところで貴方、なんで観鈴を知ってるんだい?もしかして、観鈴の教え子とか?」
確かに、年齢を考えたらそういう発想になるだろう。
まさか、ぼくと彼女が時空を超えて惹かれ合っているなんてしったら腰を抜かすだろうか…。
「いえ、彼女、いや観鈴さんとはちょっとした知り合いでして…」
おばあさんは、「ん?」といいながらも微笑んだ。
「そうですか…。ところで、貴方の名前は?」
「あっ、ご挨拶が遅くなり申し訳ありません。僕は、宮里咲楽といいます」
その瞬間、さっきまで温和な表情をしていたおばあさんが驚愕な目を僕に向けてこういった。
「観鈴の日記に書いてあったのは貴方…!?そういえば、三科展で賞を取った絵に、貴方が描かれているわ!!!」
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重い足を引きずるようにして帰宅した僕は、ベットにどさっと倒れ込んだ。
観鈴さんのお母さんからは、観鈴さんのことを色々と聞くことが出来た。彼女の小、中での出来事、高校になってから絵を真剣に書き出したこと、美術の大学に行って念願の教師になったこと、そして、毎週スケッチブックを抱えては絵を描きに出かけていたこと…。
僕は、その一つ一つに頷きながら、彼女は愛されて育ったんだなと感じていた。
抹茶を飲み干したおばあさんは、色褪せた紺色の巾着から小さなメモ帳を出して、僕に改めて向かい合った。
「実は、もうすぐ、観鈴が消えた日になるのよ。そう、10月10日、鎌倉神社のお祭りの日。その日を境に観鈴は消えてしまった…」
今日は、9月30日、あと10日…。
一体、彼女は何処に消えてしまったのだろう?
もし、未来に跳んだのであれば、今、僕の横にいてもおかしくない…。
本当に僕は彼女を探し出すことができるだろうか!?
年老いた母親の姿を彼女が見たらどう思うだろうか?
なぜ、彼女は消えてしまったのだろうか!?
もしかしたらその理由は僕にあるのではないだろうか?
余りにもわからないことばかりで僕の思考は止まったままだ。
そうしている間にゆっくりと消えていくおばあさんの後ろ姿を僕は、ただ、黙って見つめるしかなかった。
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