第16話 和菓子店にて…(宮里咲楽)
僕は、彼女の発した、いや発していただろうと勝手に推測した『郵便局』を探して街を歩いていた。
鎌倉西郵便局…、建物はとても新しく、夜間受付などもやっており、鎌倉の中でも基幹郵便局となっているみたいなのだが…。果たして、彼女がいる時代にこの郵便局は存在したのだろうか?
僕が育った近くだったら小さな出来事でも知っているのに、さすがに隣の地区、しかもこれまであまり馴染みが無かった郵便局のことなんか分かるはずが無い。
自動ドアが開く。
僕は、局内に入って行きキョロキョロと当たりを見渡す。
ちょっと不審者っぽいかなと反省して、自然な動作を心がけつつスタッフを探す。
すると、丁度、窓口の外に設置されていたカタログ入れに保険のチラシを補充していた中年の男性を見つけて声をかけた。
「あの、すいません。ちょっといいでしょうか?」
「はい。いらっしゃいませ!」
その男性はとても温厚な感じで好感が持てる感じだ。良かった…。
「ここはいつ頃できたんでしょうか?」
「ん?ここですか?えっと、4年前だったかな。昭和の三十年位に建てられて古くなっていたんだけど建て直してね。今では、鎌倉の中では一番綺麗で大きな郵便局になったんですよ」
「そうなんですね。この付近もだいぶん変わったんでしょうね?」
「そうですね〜。私が子ども頃はここら当たりは原っぱだったんだけど。どんどん家が建っちゃって。アパートとかもあれよあれよと増えて賑やかになっていきましたね〜。あっ、ただ、そこのドアを出て右に三分くらい行った所にある和菓子屋の『
僕は、「そうなんですね〜。ありがとうございました」と丁寧にお礼を述べる。
アパートというキーワードに僕はドキドキする。もしかして、彼女が住むアパートがまだあるのではないだろうか?
試しに、その和菓子屋に行ってみることにした。郵便局のあの男性に人を訪ねてもわからないだろうし、そもそも知っていたとしても守秘義務がある彼らが僕に教えてくれるはずはないだろう…。
古く年季の入った大きな看板が平屋のど真ん中に堂々と掲げられている。店内に近づいていくと、立て付けが悪いのかガラガラと音を立てながら出口から常連のようなおばあさんがでてきた。70歳位だろうか?
「また来るわね。そうそう、来週は、娘の誕生日だからあの子が好きだった粒あんのおはぎを買いにこなきゃね」
彼女は、軽く店主に会釈をしながらそう言うとゆっくりと歩き出した。そして、僕とすれ違う時、「本当に観鈴はどこに行ったんだろう…」と小さく呟いたのだ。
僕は、咄嗟にその女性に向かって、「すいません!!」と叫んでいた。
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