第18話 図書館(竹下栞奈)
「栞奈、どうしたの、顔が真っ青だけど…」
市立図書館の長テーブルに座っている私の向かいに座っている親友の英華が心配そうな顔を向ける。
「ううん。大丈夫。昨日、寝付きが悪かったからちょっと目眩がしただけ」
「そう?ならいいけど。最近、なんか考え事してる時が多いからさ」
「え、っと。うん。もう少ししたら英華には全部聞いて貰おうと思ってる」
私がそういうと英華は「そっか。まっ、いいかっ。でも、ちゃんと私には何でも話すんだよ。絶対ね!」と言ってウィンクをした。
自分の気持ちを正直に話さない私に対して英華も思う所はあると思う。だけど、いつもこうしてさりげなく私を気にかけてくれて、さらには勇気づけてくれる…。そんな親友を持てて私は本当に幸せものだ。
テーブルの上に広げた雑誌に再度目を向けると私は一枚ずつページをめくっていく。『三科展優秀賞作品特集』と銘打ったその美術系の雑誌には、三科賞を受賞した写真、絵画、彫刻などが掲載されていた。
「
写真のページには、野生の猿の瞳に赤い傘を差した女の子が写っている作品があり、私はじっとその瞳を見つめる。
今、彼の瞳には誰が映っているのだろうか?
私であればいいなと思う。
だけど、そうではないのだろう…。
あんなに体調が悪そうだったのに、なぜ出かけようとしたのだろうか?「今日、今日を逃すと…」ってどういうことなのだろうか?熱にうなされた彼が小さく一言呟いた「みすず」って、きっと女性の名前なんだろうな…。
その女性はどんな人なんだろうか?きっと優しい彼とお似合いな素敵な人なんだろう…。
そう思うと私の瞳には自然と涙が溢れてくる。まだ、告白もしてないのに諦めないとだめなんだろうか…。
昨夜は、そんなことを考えていたら一向に寝ることが出来ず、今こうして頭に薄い靄が掛かったような感じで座っているのだ。
だが、次のページをめくった瞬間、私の体の血が全て沸騰したかのように騒ぎ出した。
「嘘っ…!!!」
思わず大声を発し立ち上がった私は、隣のイスに置いていた自分のバックの中身を盛大に床に落としてしまった。「もう、どうしたのよー」と言いながら英華は拾うのを手伝ってくれている。だが、私は一向に動くことが出来なかった。
「なぜ?なぜ、ここに咲楽さんがいるの?」
絵画部門で三科賞を取った色鉛筆で描かれた作品。お地蔵さんがいる洞窟の中で雨宿りをしている男女が互いに見つめ合い微笑み合っている。なんて優しくて素敵な作品なんだろう。
だが、この男性は咲楽さん!?いや、咲楽さんに間違い無い。何故?どうして?意味がわからない…。
だって、この作品が賞を取ったのは今から20年も前なのだから…。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます