第14話 君の痕跡を探して…(宮里咲楽)
「
僕が必死に叫んでいるのに、その声はどうやら彼女には届いていないようだ。
彼女も僕が突然消えてしまった事に驚き、何か大声で叫んでいるようだが、その声も僕には聞こえない。
再び激しく光ると見るもの全てが『白の世界』となった。そして、少しずつおぼろげな情景が見えてきた。それから随分遅れて音や匂いがし始める。
あー、どうやら僕はまた今の世界に戻って来たようだ…。
あれだけ降っていた雨も今は止み、少し日が射している。
恐らく、僕の住む時代と彼女がいる過去が繋がった後は、こうして天気が変化するようだ。
僕はもう一度、辺り一面を見渡す。当たり前だが彼女はもういない。なのに、まだいるのではないだろうか?少しでも可能性があるのではないだろうか?と考えてしまい、つい彼女を探してしまう…。
彼女は、僕が突然消えて悲しんでくれているだろうか?たった二度会っただけなのに何故こんなにも彼女のことを考えてしまうのだろうか?
僕と彼女は一体これからどうなるのだろうか?
考えても考えても答えは出て来ない。僕は、重い腰を上げると機材が入ったカバンを持って受付へと向かった。
「あら、今日は早いわね」
「えー、ちょっと気分が乗らなくて」
「そうなんだ〜。そうそう、昔、全く同じ言葉を言った女性がいわたよ。ふふっ」
「そ、そうですか…。まあ、気分が高揚しないと写真もつまらない出来映えになるのでしょうがないかなって思っています」
「そうだよね。まあ、その子もそう言ってたっけ…。ほら、この前、鎌倉駅で会った時に話がでた…」
僕は、ふと彼女の事を口にする。
「その人、
彼女の名前を聞いた途端おばさんの声が小さくなる。
「あら…、どうだったかしら。私も年ね…。最近特に忘れやすくてね〜」
そういうとおばさんは、受付の中に入っていき、それから僕には何も話そうとしなかった。
なんだか釈然としないまま僕は妙邦寺を後にする。
何故だろう?鎌倉駅前で会った時も、つい今し方もおばさんは彼女のことを話してくれたのに…。今日に限って、名前を訊いた途端、何か自然の原理では証明できないようなことが起きたように、受付のおばさんは別人の様になってしまったのだろう!?
もしかして、これ以上の詮索はするなという警告なのだろうか?
だが、そんなことはわかっているじゃないか…。僕らは出会ってはいけない世界の中で、奇跡のような偶然で出会ってしまった。だからこそ、これからは強い意志を持って困難に立ち向かうんだ。
砂利を踏む音だけが静かに響く…。
音…、か…。
そういえば、ふと僕が消える前に彼女が叫んだ姿を思い出した。
あの口の動きは…、確か…、「郵便…局」って言ってなかったか?
慌てて僕は、スマホで郵便局 近辺と入力する。
もっと沢山あると思っていたが、マップに出たのは3つの郵便局だった。
「鎌倉西、鎌倉中央、鎌倉海岸通りの3つか…」
郵便局で画家になった人がいないかと聞いてみたら何かが分かるのだろうか…。いや、そもそも個人情報をいとも簡単に教えてくれる訳がない。だけど、彼女の事を辿って行く為にはこういう細い手がかりを大事にしていくしかないんだ。
僕は、自分にカツを入れると、まずは、ここから一番近い鎌倉西郵便局に向かって歩き出した…。
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