第6話 鎌倉中央南高校(宮里咲楽)
役所の契約社員として勤める僕の仕事は、学校や病院など市民が集まる場所における便利屋的な仕事内容だ。
例えば、学校行事があれば、その写真係として参加するし、レクリエーションで小さな丘に登る時は、引率の警備員的な形で参加をしたりした。
そして今日、僕は、再来月に行われる文化レクリエーションについての関係者ミーティングに出席する為に鎌倉中央南高校の職員室に来ていた。
僕は、会議開始時間の15分前に着席すると長机の上に置かれた資料をぱらぱらと捲る。
「それでは、始めたいと思います。議長を務めさせていただきます本校の教頭をしております髙橋です。本日は、よろしくお願い致します」
会議が始まった。
僕は、彼女のことを思う気持ちを抑え、意識を集中していく。
「それでは、今日はこの辺でお開きとしましょう。次回のミーティングは翌月の8日となります。みなさん、お疲れ様でした」
緊張から解放され、ざわざわとした空気間がとても心地よい。
僕は、会議に出席していた横尾亜矢子に近づいて行く。彼女は鎌倉中央南高校の国語の教師をしていると自己紹介していた。
「あの、すいません。横尾先生。ちょっと伺いたいのですが…」
「あ、えっと…」
「宮里です。お忙しい中、申し訳ありません」
「いえいえ。宮里さんは、市役所の方でしたっけ」
「はい。そうです。いつも色々とお世話になっております」
「いえいえ。で、どうされましたか?」
年齢は50歳前後だろうか?背が小さくてちょっとふっくらしているとてもチャーミングな先生だ。左手の薬指に銀のリングが光っている。
コミュニケーション能力はとても高そうな先生だが、急に見知らぬ男が話しかけてきたことを警戒しているような表情を一瞬だけ見せた。
「
竹下と聞いた途端、彼女から警戒感が一気に消えて行く…。
「あー、竹下さん!?元気かしら!?彼女はうちの高校でもとっても優秀でね。でも、すごく尖っている部分もあって…。でも、私は凄く好きだったな〜」
「先生が仰っていること、なんとなくわかりますね〜」
「でしょ!?ふふふ」
「実は、僕が住んでいるアパートは、彼女の両親が営んでまして、アパートの管理のバイトをしている彼女とはよく話をするんです」
「そうなんですか〜」
「まあ、狭い町ですからね」
彼女はチラッと左手に付けた腕時計を見る。
そんなに時間は残っていなさそうだ。僕は単刀直入に話を切り出した。
「先生、以前というか20年位前の話なんですが、ここで教師をしていた吉川
「えっ………」
それまでとても温和な表情で話をしていた彼女は、驚愕の表情になり、僕をただ無言で見つめていた。
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