第3話
「アルフレッド様を責めないでくださいっ。魔物の討伐を終えてやっとのことで屋敷まで戻ったというのに、すぐに別の魔物に町が襲われていると聞いて……」
なるほど。魔物が良く出るとは聞いていたけれど。そんなに頻繁に出るんだ。
って、それはそうとして……。
「公爵であるアルフレッド様が自ら魔物討伐に出ていらっしゃるの?」
領主が動くなんて聞いたことがない。
私は騎士たちが見つけてくれたって言っていたから、騎士とか戦闘職の者はいるんだよね?
うー、まずいぞ。分からないことだらけだ。
前世の私が知らないだけじゃない。侯爵令嬢として育った私も知らないことが多すぎる。貴族としての教育が始まるころには屋根裏部屋生活だったし。
文字の読み書きができるから本を読んで知識を補うか?
「はい。アルフレッド様は、領内一の強さですから。強力な火魔法を扱い、魔物をあっという間に倒してくださいます」
「へー」
火魔法はどんなものなんだろう。侯爵家では攻撃魔法を目にすることはなかったからなぁ。
前世でいろいろと見たアニメやゲームの映像を思い浮かべる。
やっぱり初級はファイヤーボールとかだろうか?それとも剣に炎をまとわせてスパーンと一刀両断する系だろうか?
見てみたいなぁ。結婚して夫婦になったんなら、見せてとお願いしたら見せてもらえるかな?
「あの、それでアルフレッド様は、領内を忙しく飛び回っていらっしゃって……せっかく奥様をお迎えしたというのに……」
ん?
侍女が申し訳なさそうな顔をする。
「もしかして、次はいつ屋敷に帰って来るか分からないってことかしら?」
図星のようだ。侍女がもごもごと口を動かしている。
「あの、早ければ3日もすれば……ですが今はちょっと魔物が活性化する時期で……」
そっか。
「会えないのね……」
せっかく火魔法を見せてもらおうかと思ったけれど。まぁ、楽しみは取っておいてもいいか。どんな顔してるのかな。
王弟ってことは陛下に似てる?陛下は絵姿しか見たことないけど、妹と親しい第一王子も陛下も、見事な金髪に、青い瞳だ。
かなりの美男子だ。
アルフレッド様も美形なのかな?20歳の美男子かぁ……。私、どっちか言うと脳筋系が好きなんだよなぁ。
熊みたいな見た目なのに、めちゃくちゃ優しいみたいなギャップとか最高よね。この国ってさ、戦いの中心は魔法なものだから、脳筋系のムキムキ男子が少ないんだよ!残念すぎる!
「何か食べられそうですか?食事をお運びいたします。いくら回復魔法で怪我は治ったといえ、3日間寝ていらっしゃったのですから。軽い物をお持ちいたしますね」
そうだよね。3日も絶食してたら、重湯からか。
米はこの世界で見たことないし。ミルクがゆからかな?
侍女が食事を取りに部屋に出て行った。
ふわふわな布団に沈みこみ、見慣れない天井を見つめる。
……死にそうな大怪我していたと思うんだけど、回復魔法でここまで良くなったんだ。
たった、3日寝込んでいただけで……。体力はないけど、怪我はほぼ完治。
聖属性魔法って本当にすごい。
魔物を倒せる火属性魔法もすごいし。
攻撃できるほどの魔力がなくたって、水魔法が使えたら生きていくのに必要な安全な水がいつでも手に入るのもすごい。
そう考えたら、確かに光魔法って、役立たずって言われても仕方がないといえば仕方がないのかなぁ……?
「でも、暗いの怖いし。暗い所にいるだけで気持ちが沈むし……っていうか、実際信号弾?照明弾?それで私は助かったんだから、まったく役に立たないわけじないよね……」
ふと、光魔法で出した丸い光を見つめる。
「シーリングライトと違って、天井に張り付いているわけではなく天井近くに浮いているし、全方向に光を放っているから天井もしっかり明るいのね……というか、明るすぎて影が濃いなぁ」
部屋の4隅にも小さな光の玉を出す。ライトボールとでもいうのかな?小さめの玉。
あの光の玉はいつまで光っているんだろう?魔力で魔法が使えると思うんだけど、どれくらいの魔力が必要?
大きな光の玉と小さな光の玉、消費魔力は一緒なのかな?消費魔力で継続時間も違うとか?
それとも……。
「消えろ」
4隅の一つに念じてみた。
消えた。消すときに魔力は消費するのかな?
全然分からない。困った。
本を読みたいな。いやその前に侍女に魔法のことを聞いてみようか。
常識的に皆が知っている話だったとしたら、不審がられちゃうかな。
侯爵令嬢なのに、なぜ知らないのか!と……。
それは、まずい。偽物じゃないかと疑われて追い出されても行く場所もない。魔物が出る森なんかに捨てられたら今度こそ死んじゃう。
やっぱり本だ。本を読んで勉強しなくちゃ。
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