第2話


 目が覚めた。

「知らない天井だ……」

 あんなにしょぼしょぼしてもう何も見えなくなっていたのに、しっかり知らない天井が見えた。

 部屋が薄暗いので、まぁぼんやりな感じはある。

「【光】」

 得意の……というかそれしか使えない魔法を発動すると、部屋が明るくなる。

 石造りの壁。地下牢が一瞬思い浮かんだけれど、私が今寝ているベッドも、ドレッサーや机やソファも立派な物で、牢屋というわけではなさそうだ。

 息苦しさもないし、どうやら本当に助かった……助けられたみたいだ。

 まずはほっと息を吐きだす。

「ああ、目が覚めましたか奥様」

 部屋に、30代半ばに見える侍女が入って来た。服装から侍女と判断したけれど、誰?

「まぁ、明るい。早速照らしていただけるなんてなんと奥様はお優しいのでしょう」

 優しい?別に大したことしてないのに。

「これほどまでに明るい光、魔力が多いと聞いてはおりましたが、体にご負担ではございませんか。奥様……無理をなさらないでくださいまし」

 いや、体に負担とか全然だけど?無理なんてしてないけど?

 というか、奥様?

「あの、私……」

 いったいどうなってんの?

 まさか、16歳の侯爵令嬢であった私は死んで、さらに転生してるとか?いやでも、光魔法は私の魔法だよね?

「今まで見たこともない光が森から立ち上がっていると、騎士たちが確認に行ったところ奥様が倒れておいででした」

 騎士?

「すぐに回復魔法で治療いたしましたが、3日間目を覚まされなかったのでとても心配しておりました」

 まって、情報が足りないのに大すぎるという状態で、分からないし混乱する。

「あの、ここは何処ですか?」

 まずは、ここは何処?私は誰?から解決していこう。

 侍女はグラスに水を入れた。

「水魔法!」

 初めて見た!いや、見たことはあるよ。前世の記憶が戻ってから初めて。なんていうのか、生まれた時からそれが当たり前だと思って気にもとめなかった。けど、前世の記憶が戻ってから見る魔法って、すごく不思議だ。

 何?空気中の水素と酸素を魔力で化合させてるの?え?なんで?

「ああ。そうです。私は小さな水魔法しか使えないので攻撃魔法も使えませんが、飲み水だけは不便なく出すことはできますので。いつでもおっしゃってください」

 グラスを受け取ってごくりと喉を潤す。

 3日も目を覚まさなかったということは、3日ぶりの水。染みわたるぅ。

「ここは、アシュラーン公爵邸です」

 アシュラーン公爵邸って、私の嫁ぎ先だ。無事に着くことができたんだ。

 いや、全然無事じゃなかったけどね!死にそうになったけどね!

「えーっと、奥様というのは?」

 侍女が申し訳なさそうに首を横に振った。

「まだ目を覚まさないというのに、アルフレッド様は時間がないと……神父様を呼んで、その……」

 なんだって?

 まさかと思うけど……。

「結婚式が、終わっているのね?」

 寝てる間に結婚式終わってたとかって、どういうことだ!

 私のサインはどうした!

 誓いの言葉はどうした!

 指輪の交換はどうした!

 誓いのキス……あ、ああ、まさか、私のファーストキスは意識のない間に終わっていたって?

 ……なんてことだ!

 この世界の結婚のことが分からないから、実際は何をどうしたのか知らないけど、全然実感ないけど……。

 目が覚めたら既婚者でした……って!

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