第14話 ギルド長サイド

 ★ギルド長視点になります★



俺の生い立ちを一言でいえば「厄介者」だ。

 側室から生まれた王子。皇太子である兄や王妃から邪魔者として幾度か命も狙われた。

 ろくに教育も受けさせられず馬小屋よりはましだという離宮で育てられた。

 13歳で父である王が崩御。兄が王位を継ぐと王籍を抜かれ流刑地と呼ばれる辺境の公爵位を与えられた。

 聞きしに勝るひどい土地で、人々は日々魔物の襲撃におびえていた。

 公爵家直属の騎士たちが必死に魔物を退治するものの、戦力不足。

 ギルドに協力を求めたものの、13歳の俄か公爵の言うことなどだれが聞くだろう。

 法外な依頼料を要求された。

「人の命より、金か!ふざけんじゃねーぞ!」

 あまりにも頭にきて、ギルド長を怒鳴りつけると、ギルド長から襟首をつかまれた。

「うるっせーな!お前ら貴族のほうがよっぽど俺らの命を紙屑のように扱うじゃないか!俺らの命はな、はした金で雇われるような安い命じゃねぇんだよ!」

 法外な依頼料を吹っ掛けられたと思ったことが恥ずかしくなった。

 確かにそうだ。魔物討伐は危険な仕事だ。

「すまない……確かに、お前たちの命も俺の命と等しく尊いものだ。だが、身を守るすべのない他の者たちの命も同じように尊い」

 床に座り、頭を下げた。

「頼む、貧しい領地でお金も十分に払えないのに勝手な願いだと思っているが、協力してほしい」

 体中に大小さまざまな傷跡を持つ30代のクマのように大きなギルド長が俺の襟首をつかみ立ち上がらせた。

「領民を冒険者が守ったとして、俺たち冒険者は誰が守ってくれるんだ?」

 ギルド長が鋭い目で俺をにらんだ。

「俺は、ギルド長として冒険者たちを守る覚悟はある」

 その言葉に嘘はないのだろう。顔にも腕にも見える傷跡が、鍛え上げられた太い腕が物語っている。

「お前は頭を下げるだけで終わりか?お前には、どんな覚悟があるっていうんだ?」

 俺の甘さを見透かすような目に、震えが止まらなかった。

 領民が魔物に襲われているから助けたいと。正義感を振りかざし、公爵なのだから人を動かして何とかしようと思っただけの甘ちゃんだ。

 人に犠牲を強いる前に、俺自身がどんな犠牲をも受け入れる覚悟をするべきなのに。

「すまない。3か月後にまた来る」

 それから騎士団長に頭を下げ、魔物討伐に同行させてもらった。

 馬のように大きな黒い獣を目の前にしたときには恐怖で足がすくんだ。

 動けないでいる俺を抱えて逃げようとした騎士団長が傷ついた。

 目に飛び込んできた真っ赤な血に、俺は何をしているのか、悔しくて悔しくて叫んでいた。

「うおおおおおっ」

 覚悟したつもりで魔物討伐に同行したというのに。

 俺は結局何の覚悟もなくて。

 俺が同行したことで、騎士を危険にさらして。ここでも俺は「厄介者」でしかないのか。

 俺は……。

「【火炎】」

 火球魔法を飛ばすしか能がなかった俺は、その時初めて別の火魔法を使った。腕に火魔法をまとわせ黒い獣を殴り続けた。

 牙で傷つけられ、鋭い爪で切りつけられ、後ろ足でけり倒されても。

 痛みなどすっかり忘れ、何度も何度も殴りつけた。

「うわああああ!」

 弱くて、弱くて、いくら殴りつけても黒い獣は倒れない。

 ただ、火魔法はきいているようで注意が俺に向いた。そのすきに、騎士たちが黒い獣を倒してくれた。

 俺は意識を失い、気が付けば回復魔法で傷は治され公爵家のベッドの上にいた。

 目を開くと、涙が落ちる。

「俺は……弱い……」

 目を覚ました俺のもとに騎士団長が来て頭を下げた。

「アルフレッド様を危険にさらして申し訳ありません」

「いや、謝るのは俺のほうだ……」

 騎士団長は首を横に振った。

「頼む、俺を鍛えてほしい」

 騎士団長に3か月みっちり鍛えてもらいギルドに向かった。

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