第13話

「あの子光属性みたいだぞ」

「冒険者としてやってくのは厳しいだろう

 後ろで囁かれる人の声……。

 なんと!光属性魔法は冒険者ギルドでも歓迎されないとは。

 って、当たり前か。もし歓迎されるなら「お前は冒険者になれ!」とか言うよね。

 でも、別に私は冒険者として大成する野望もないんだよね。

 離婚したあとに生活できるだけの収入が得られればそれでいいんだ。冒険者では稼げないなら別の方法を考えるだけだ。

 貴族令嬢としてのマナー教育などは10歳までの基本しか学んでないけれど、読み書きができる。前世知識で計算はこの世界の誰よりも得意なはず。となれば家庭教師の道もある。

 ただ、家庭教師を必要とする人々は貴族だったり貴族との繋がりがある大商人だったりするから。リリアリスを知ってる人に見つかってめんどくさいことになりたくないから、最終手段だと思ってる。

 他には計算が得意だからどこぞの商会で雇ってもらえないかな。ギルドの依頼をこなす間に伝手ができるといいなぁ。

 とはいえ……。

「えーっと、もしかして光属性魔法しか使えないと、仕事はないですか?」

 受付のお姉さんが、紙が入った箱を取り出してカウンターの上に置いた。

「光属性魔法使いへの依頼書はこちらになります」

 ほっと息を吐く。

 なんだ、依頼あるじゃん。

『店内照明 月光2つ 4時間 銅貨1枚』

『店内証明 月光4つ 2時間 銅貨1枚』

『店内証明 日光1つ 1時間 銅貨1枚』

 銅貨1枚?

 安くないか?銅貨1枚ってパン1個くらいの価値しかなかったんじゃ……。

 でも待てよ?

 月明りっていうのは暗いってことでいい?日光が明るいって意味だよね?

 明るい光魔法1時間分で銅貨1枚なら妥当なのかな?

 ぶっちゃけ、電気のスイッチ入れるくらいの労力しかないのにパン1個もらえるってことだよ?

「ねぇ、カイ、店の場所はわかる?移動にどれくらいかかるかな?」

 依頼書をカイに見せる。

「んー、この辺りは西側に集中してる店だよな。こっちは東」

 西側の店の依頼書をカイがより分け東側と分けた。20枚ほどが西側の店らしい。

「全部回って半刻ってことか」

 何?30分で……作業時間……挨拶だとか依頼達成サインもらったりとかも含めても1時間で20か所回れるの?

 じゃあ、銅貨20枚。2000円くらいになるじゃん。

 そりゃ1つ当たりの依頼金額が安いわけだ。

 カイが眉根を寄せた。

「無理しても魔力たりねぇだろ?依頼が達成できなかったらペナルティあるって言ってたじゃん」

「んー、足りないっていうか、この4時間とか2時間とか、時間は守らないとだめなのかな?」

 そんなに思ったような時間に設定して魔法使えないよ。もう少し実験しないと。

 ……っていうか、時間になったら消して回らないとだめなのかな?だとするとコスパは半分くらいになる?4時間後に消しに来ますねとかやってたら、全部で5時間くらい拘束されるのか。それで2000円ならあまりいいとは言えないなぁ。

「そうですね、無理に依頼を受けて達成できないと……2時間の依頼で時間が足りなければ依頼達成となりませんので……。特にそうですね、日光の依頼は、薬の調合や宝石の加工など細かい作業をする店の依頼となります。途中で暗くなったせいで作業が中断、もしくは失敗するようなことがあれば弁償しなければならないこともありまして……」

 なるほど。確かに急に電気が消えて手元が狂ったりしたら大変だ。

 脳内では心臓手術をしているお医者様の映像が浮かんだ。怖っ。絶対あかん。

「あの、では依頼時間よりも長いこと明かりが付いている場合は問題ないですか?1時間の依頼で2時間とか」

 受付のお姉さんがうんとうなづいた。

「ええ、それはもちろんかまいません。それどころか喜ばれます」

「本当?」

 だったら、1時間で2000円だ。

「じゃ、この依頼を全部まとめて」

「あっ」

 後ろで小さな声が上がった。

 ん?

 受付のお姉さんが困った顔をしている。ギルド長が腕を組んで首を横に振っている。

 声のした方向に視線を向ける。

 私の後ろに並んでいた中学生くらいの子供が二人。

 身なりはとても貧しそうだ。

 まるでロボットのようにギギギとぎこちなく首をカウンターに戻す。

「この依頼を全部まとめて……お返しします」

 依頼書をまとめて、箱の中に戻す。

「きょうは、登録だけで!」

 というと、私の背後で小さくホッと息を吐きだす声が聞こえてきた。

 ギルド長が嬉しそうな顔をして私を見た。

 ああ、あの顔。やっぱりそうだったか。

「じゃ、帰ります!行こう、カイ」

「え?いいの?一つも依頼受けなくて。魔力が不安でも1つくらいなら大丈夫じゃないかな?」

 カイは気が付かなかったんだろうか。

 私の後ろにいた子たちはきっと光属性魔法の依頼を受けようとしていた子たちだ。

 私が依頼を大量に受けてしまったら、あの子たちの仕事がなくなってしまうんだ。

 たった銅貨1枚の仕事でも、あの子たちにとっては命をつなぐ仕事に違いない。

 光属性魔法なんて役に立たないといわれるこの世界で、数少ない光魔法を使った仕事なんだろう。

 今の私は働かなくたって食べていけるんだから。仕事を奪うわけにはいかない。


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