第8話
『この結婚は、王命で断ることができなかったものだ』
ですね。私の方もそうですよ……たぶん。親が勝手に決めたんだけど。
『君には申し訳ない』
ん?
私に申し訳ない?
『3年耐えてほしい』
3年?
耐える?
あ……。
3年白い結婚であれば貴族と言えども離婚ができるってそんなルールがあったっけ。そうする気なの?
アルフレッド様は20歳。3年後離婚してからも十分世継ぎを世残せる年齢だよね。
16歳の私は……。3年後離婚されたら、家には戻れないだろう。いや、戻りたくないよね。あんなところ。
となると、平民になって生活するわけだけど。就職できるのかな?
アルフレッド様が働き口をあっせんしてくれるといいけど。
……いや、それには、私が働けるということを証明しないと駄目か。侯爵令嬢で公爵夫人だった私が働けるなんて誰も思わないよね。
「あ、あの、奥様……その……それは何か、間違いで……魔物と戦う中、奥様が目を覚ましたと急使を送り持って帰った手紙にまさかそのようなことが……」
マーサが震えている。
「え……この手紙……」
魔物がいるような危険な場所で慌てて書いたの?
筆記具も十分にない場所。急ぎしたためた手紙。もしかしたらこの染みも魔物の体液だとか草木の汁だとか……?
ひぃー!それを、私は嫌がらせだとか一瞬でも考えてしまったなんて!
申し訳なくて今すぐ土下座して謝りたい!心の中でまだ見ぬアルフレッド様にスライディング土下座!
「あのね、マーサ、アルフレッド様は、3年の白い結婚ののち私と離婚するそうですっ!」
ってことはだ。3年が1日でも早く過ぎ去るようにと、意識が戻らない私と結婚式を強引に執り行った可能性が出てきた。単に忙しいだけではなかったのかもしれない。
使用人にも慕われてたみたいだし……。いい人だ(確定)!
手紙から顔を上げて侍女を見ると、侍女がまだ驚きから立ち直っていない顔をする。
「私、愛されていないし、愛されることもないけれど……アルフレッド様に気遣ってもらえて嬉しいです!」
正直な気持ちだ。
手紙には3年間好きにしていい、予算は侯爵令嬢だった時ほどは出せなくて申し訳ないなど気遣う言葉が続いている。
っていうか、名ばかり侯爵令嬢だったから予算はゼロだよ。働いた分の給料分でマイナスだよ!
マーサが驚いた顔をしているというのに、さらに目をまん丸にした。
「あの、奥様はそれでよろしいのですか?」
白い結婚ののち離婚されるなんて、まぁ、普通なら屈辱的な話なんだけど。
「女の幸せは結婚だけじゃないのよ?」
前世だって、40歳独身喪女オタク、幸せだったよ。
誰に遠慮することもなく推し活できて。なぜか、自分の名前も推しキャラの名前も思い出せはしないんだけど。推しているときのあの幸福感はしっかり覚えている。
マーサはまだ納得できない様子というか、私に同情的な目を向けている。
あれ?光属性の私がアルフレッド様と結婚することに否定的なんじゃなかったのかな?
私とアルフレッド様が白い結婚ののち離婚するなんて喜ぶことじゃないの?なんで同情的な目をするのかな?
……もしかして、使用人の中にも、私を歓迎してくれている人がいるの?……マーサは私を歓迎してくれていた?
「マーサ、だから私のことは奥様じゃなくて、リリアリスと呼んで」
まだ湿っぽい顔をしているマーサに明るく話かける。
「お腹がすいたわ」
「はい。すでに準備は整っております。着替えて食堂へ」
マーサが、クローゼットを開いた。
「あ……」
空っぽのクローゼットを前に、マーサが固まる。
「そうでした、奥様……リリアリス様の婚礼道具を載せた馬車の行方も分からずお荷物が届いていません……」
いやぁ、それは初めからないんだよ?侯爵家からは身一つで追い出され……いや、嫁がされたのだよ?
いくら探しても、待っても届かないんだよ?
「代わりになるドレスの手配をしてはいますが……公爵領ではリリアリス様が御召しになれるようなドレスを扱う店がなく、まだ数日は……」
「マーサ、ドレスの手配、キャンセルができるならキャンセルして。ドレスにお金を使うなんてもったいないわ。どうせ社交もしないのだし」
今までだってドレスなんて着てなかった。今マーサが着ているよりもずっとボロボロの使用人のお仕着せ。よく怪我をするから汚すから勿体ないと言われ……。
正しくは、よく怪我をさせられ、よく汚されていたんだけども、両親の耳には届かなかったよね。まぁ、どうだっていい。
「で、ですが……」
それにどうせ、3年後に離婚したあとは庶民としての暮らしが待っているんだし。侯爵家には戻る気はない。修道院に入れられるのがおちだろうし。いや、修道院に入れられた方がマシっていう生活を強いられる可能性もある。それくらいなら逃亡一択。
前世知識があれば庶民としての一人暮らしは馴れれば何とかなるはず。
3年という準備期間があるんだもの。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます