第9話
マーサが泣きそうな顔をしている。
「マーサは知らない?ドレスってね、コルセットは苦しいし、スカートは邪魔になるし、汚さないように気を使うし、あちこちに付いたリボンやフリルは引っかかったりするし、縫い付けられたいろいろな物がぼこぼこして着心地は悪いし、暑くても寒くてもちょっと脱いだりはおったりしにくいし」
手を前に出して、指を折りながらドレスの不便さを上げていく。まぁ、想像の部分もあるけど。
「それにね、ちょっと昼寝したいなぁと思っても、自分でドレスを脱いで着替えこともできないのよ?人を呼んで着替えさせてもらっている間に眠気なんて吹っ飛んじゃうわ」
マーサがそこでやっと笑顔になった。
「だから、ドレスを着ないで済むなら着たくないのよ!もっと楽な服装で暮らしたいの」
「畏まりました。リリアリス様。でしたら、ドレスはキャンセルできるものはして、もう少し楽な服を街の仕立て屋に準備させましょう」
街!
「マーサ、私、自分で買いに行きたいわ!侯爵家にいるときも自由に買い物をしたことがなかったから、街を見て回りたいの!」
この世界の庶民の暮らしをチェックするいいチャンス!ふふふ。あわよくば就職先も探せるかも!
「分かりました。でしたら、私の息子のカイに案内させましょう。街は安全ではありますが、何かあるといけません。カイなら護衛としても役立ちますので」
やった!
「とはいえ、街に出るための服がいりますね……。先代の方々が残された服があるでしょうからサイズが合うものを探してまいります」
というマーサにひっついて廊下に出た。
「私が選ぶわ。使えそうな服があるのならはわざわざ買う必要もないだろうから。どんな服があるか見ておきたいの」
「わ、分かりました。リリアリス様は、部屋にいてください。衣装ケースを運ばせますからっ!」
マーサに部屋に戻された。
「そのような格好のまま屋敷の中を歩かせるわけには参りませんっ!」
そう?
ネグリジェにガウンっていう組み合わせ。露出もそれほど多くないし、何が問題なのか?貴族令嬢的な常識がよくわからない。
ちょっと考えてみる。自室が1LKの自宅みたいな感覚ならば、廊下イコール家の外……。ネグリジェとガウン姿で宅配便が届いたらどうするか。
うん。出られないね。恥ずかしいね。って、ネグリジェなんて着たことないからマジ恥ずかしいわ。ジャージなら平気で宅配便受け取るけど!
「あの、本当にその服を着られるのですか?」
運ばれた衣装ケースの中には、古くて着なくなった使い道のない歴代流刑者たちの……いやいや、公爵邸でお過ごしになった方々の服が収められていた。
「いやぁ、動きやすくて最高!」
その中にアルフレッド様の幼少期に着ていたというシャツとズボンにサイズ的にぴったりな物がありましてね。
長い髪もポニーテールにしたら、動きやすさマックス!
「まるで……冒険者の女性のようですわね」
ん?
「今、マーサ、何て?」
「いえ、あの……男の人のようにズボンを履いて髪の毛をひと結びにするのは冒険者の女性くらいで……服装の話で決してリリアリア様が冒険者みたいだと言っているわけではなくて……」
「冒険者がいるのね?」
なんてことでしょう!冒険者がいる世界だっただなんて!ワクワク!ワクワク!
「ということは冒険者が登録する組織……ギルドとかもあるのかしら?冒険者の仕事は依頼をこなすの?それともダンジョンでドロップ品や素材を集めるの?」
魔法があるだけじゃない世界だ!ワクワクが止まらない。
って、光魔法じゃダンジョンは無理か?くぅ!こんなことなら剣術とか身につけたのに!いや、今からでも……。
「え?あの、ギルドはありますが、ダンジョンとは?」
ダンジョンはなかったかぁ!ステータスもオープンしなかったし、ゲーム的な世界とはいかなかったわ!
そういえば魔物はダンジョンじゃないのに普通に出てるもんねぇ。しかも、ドロップ品に価値があるなら魔物がたくさん出る土地を流刑地扱いにしたりしないだろうし。
「王都で流行っている、物語に……出てきたの……そ、それで、冒険者に憧れていて」
「そうでしたのですね。王都では冒険者の物語が……」
なんとか誤魔化せた!
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