第11話
「服屋はあの辺だよ。母さんから一番左端の店に行けって言われてる」
ああ、異世界の街だ。
とはいえ、思っていた感じとはちょっと違う。石造りの頑丈そうな建物が密集している。2階建ての1階が店で2階が住まいという感じではあるんだけど。
どの店も窓は小さく鉄格子がはまっているし、ドアはびっちり占められている。ドアにある「営業中」という札が無ければとても営業している店だとは思えない。
「ここだ」
カイに案内された店も同じような作りだった。店の中に入ると、薄暗い。
「いらっしゃい」
色とりどりの服が並んでいる……はずなのに、薄暗くて色がよくわからない。
離婚した後、着てた服くらいは持ち出せるよね?
ってことは丈夫で長持ちして庶民的な服がいい。あと汚れが目立たなくて、体のサイズが変わっても着続けられる。となると……。って、見にくいなぁ。
「すいません、あの店の中が暗いのは意味があるんですか?」
「ああ、光魔法で明るくする店もあるけどね、うちは服屋だから」
?
服屋なら明るくして、服の色が良く見えるようにした方がいいのでは?
それとも、暗い場所が多いから、暗いときにどんな色に見えるかが重要なのかな?
公爵家の屋敷ですら薄暗いもんねぇ。
とりあえず1着。屋敷の中で着るためのワンピースを買う。あとは徐々にそろえていけばいいよね。なんだかんだズボンとシャツはたくさんあったし。
「次は何処を案内する?」
カイの言葉に、ニヤニヤしながら答えた。
「冒険者ギルド!」
異世界といえば、外せないよね。ふふふ。服なんて本当はどうだっていいんだよね~。街に出る口実さ!
「文句を言いに来たのか?」
いや、なぜこうなった?
ギルドに入ると、カイの顔を見たカウンターの中の青年が、隣にいる私の顔を見て目を吊り上げた。
それからカウンターを出て私の手を掴むと、そのままカウンターの奥へと連れて行かれた。
随分汚れた服を着ている。
さっきまで戦場にいたかのような装いだ。胸当てや肘あて、膝あてなどの鎧も身に着け、分厚いマントをつけている。
なんで、私はいきなりにらまれてるんですかね?
考えられることといえば、この男性は、カイの恋人。カイが自分じゃない男……の格好をした私を連れてきたからライバル認定してにらまれている……とか?っていう楽しい妄想をしてみる。
カイは子犬系かわいいイケメン。目の前の男子は俺様系イケメン。くっ。セットで推せる。
「カイの知り合いですか?というか、あなたは誰ですか?」
「は?」
青年……黒髪黒目だけど顔つきは西洋系。背は私よりも頭1つ分は高い。
あら?よく見れば、鎧の奥の胸板がしっかりしてるような気が……。腕も筋肉しっかりついてない?
この世界では珍しく鍛えた筋肉を持つ青年!ちょっといいんじゃない?もう少し筋肉見せてもらえないかな。
もしかして……私好みのよい筋肉をしている可能性が……!
「いや、俺が誰か知らない?」
驚いた顔で、青年はカイを見た。
いや、なんでカイに確認するの?やっぱり、カイの恋人?私がカイに恋人がいることを知らなかったのか確認しようとした?
くっ。やめて!妄想はかどりすぎるから。ありがとうございます。
「いや、知らないならいい」
すぐにカイに手を振る。この青年はカイから説明受けてないかの確認だけすると表情を緩めた。
「で、俺に文句を言うためじゃないなら、そんな恰好までして何しにここに来たんだ?」
「あなたが、誰と私を間違えているか知りませんし、何の文句をつけられるようなことをしでかしたかも知りませんけど、私は別にあなたに用事があるわけじゃないです。それからえーっと、カイは私の道案内を頼まれてしているだけです」
「は?あ……俺に用事がないって……じゃあ、どうしてここに来たんだ?冒険者みたいな恰好までして」
いやいや、だからさ。
「ここは冒険者ギルドでしょ?冒険者の服装をして来るのに理由が必要?何を言ってるのか全然わからないんですけど?」
私の言葉に、青年が大声で笑い出した。
「あはははっ、いや、マジか。当てつけでも何でもなく、お前は進んでズボンを履いてるってわけか。そりゃいい。気に入った」
青年が私の頭をポンポンと叩く。
ぐおー!萌え行動とるんじゃないっ!私は壁ドン派でも顎クイッ派でもなく、頭ポンポン派なんだ!ドキドキするじゃないか!
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