第6話
「夕焼けにしろ朝焼けにしろ、あまり非常識な時間じゃないよね……」
夜中に誰かをたたき起こして水を飲ませてもらうというのでなければ水くらいもらえるだろう。
ほっと息を吐きだして部屋のドアを開く。
当たり前だけど廊下も石造りだ。窓もないため、薄暗い。
廊下のところどころに設置された蝋燭……ではなく、蝋燭立てのような場所に光魔法の明かりでぼんやり照らされている。
暗っ。
もしかして光魔法ってあれくらいが普通?
侯爵家では部屋は大きな窓から明かりが差し込んでいたし、廊下にも窓があった。日が落ちる前に屋敷中に光魔法を設置するのが私の仕事の一つだった。昼間のように明るくしちゃったのは前世記憶が無意識に働いていたのかな?
いや、前世でも暗い場合もあったか。雰囲気のあるレストランだとかホテルだとか間接照明で薄暗くて読書に向かない場所。
ああいう薄暗いライトは嫌いだったんだよね。本が読めない明かりとか、明かりの意味ないじゃんとまで思ってた。
でもね、おしゃれの方向性を打ち出すのであればそれを否定もしない。その場にあったライトというのは確かにあるわけだからさ。私のいる場所じゃないなと感じてただけで。
明るい部屋から出たので目が慣れないのと、初めての場所で何がどうなっているのか分からないのもあり、そろそろとゆっくりと廊下を進む。
進んでいくと、人の話し声が聞こえてきた。
ほっ。
「目を覚ましたそうですよ。奥様」
「そうなんだぁ。じゃあ、これからお世話とかしなくちゃいけないわけでしょ?」
「正直めんどくさっ。光属性のハズレ令嬢でしょ?」
びくりと体が固まる。
慌てて物音を立てないように身を隠した。
「旦那様もおかわいそうに……」
「本当に。魔物を国のために討伐しているというのに……」
「厄介者を押し付けられたんですよね……。旦那様には幸せになる権利すらないの?」
「泣くな……。旦那様はこうしてる間にも命を懸けて戦ってくださっているのだ」
私の悪口かと思ったら……。
いや、私を悪く言っていることには変わりないけれど、私個人に対する悪口というよりは、旦那様をアルフレッド様を思うあまりの愚痴というだけだ。
そっか。
旦那様は、使用人に慕われるいい人なんだ。
そして、使用人も、旦那様のことを思ういい人達なんだ。
私がハズレ令嬢で押し付けられたということは事実だから、否定してもしょうがない。
認めてもらうなら、無害で役立つと思ってもらえればいい。
何か領地やアルフレッド様のためにできることがないかな?
ふんっとこぶしを握り締める。まずは屋敷中を明るくしてみる?……いや、雰囲気作りだとしたらぶち壊しちゃうから確認してからにしよう。
「奥様の妹のユメリア様は聖属性魔法の使い手なのでしょう?」
「どうして、無能な姉じゃなくて妹が嫁いでくれなかったのでしょう……」
痛い。
胸がぎゅっと縮み上がる。
無能な光属性。役立たずな光魔法。がっかりした両親の顔。
背を向けて走り出す。
コンコンコンッと誰かが咳こんでいる声が聞こえた。
人影は見えないからそのまま部屋に飛び込んだ。
「こんなところまで来て、なお妹と比較されるとは……。あれはさすがに心臓に来る……」
バクバクと悲しみが胸に渦巻く。そう、簡単に割り切れるわけないけど……。
だけど、悲しみは推しに癒してもらえば薄らいでいくのを私は知っている。
推し、推しを見つけなければ……!もふもふでもいい!癒されたい!
「あ」
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