第5話

 良く寝たな。

 目が覚めると、知らない天井ではなく、昨日見た天井が目に入った。

 知ったばかりの天井だ。

「おお、まだ光ってる」

 何時間くらい寝ていたのか分からないけれど、天井付近の光の玉はまだ光っていた。

「もしかして、オフって言わないと消えない?」

 首をかしげると、四隅に設置した小さいほうの光の玉は、消えていた。

「うーん?魔力の量とか?」

 いや、これは勉強が必要だわ。いや、実験かなぁ?両方か。そう、両方だね。

 そうと決まれば実験そのいち。

「ステータスオープンっ!」

 声高らかに言葉を口にする。

 ……。

 出なかった。カーっと顔が赤くなる。これ、まじ失敗すると恥ずかしいわ。中二病全開じゃん。

 仕切り直し。えーっと、魔力を込める量というのは感覚でなんとなくわかる……かな?

 ラノベとかで読んだ「体をめぐる魔力を感じるんだ」みたいなやつ……というよりは、握力っていうの?

 ぐっと握るときに、軽く握るのと強く握るのと違う感覚に近い。

 空の紙コップを持ち上げるときと重たいペットボトルを持ち上げるときに無意識に力加減をするあの感覚っていうか。

 空の紙コップを持ち上げるときのように、小さな魔力を。

 想像力で、光の玉の大きさを調整。

 ピンポン玉サイズの光の玉が一つできる。

 次に、もう少し魔力を増やしたピンポン玉サイズの光の玉を作る。

「大きさだけじゃなくて、明るさも調整できるよね?」

 次に、魔力は増やさずにもっと明るくなれと想像しながら光の玉を作った。

 宙に浮いたまま……なのも、不思議だ。移動できるのかな?

 手を伸ばして触ろうとしたら、スカッと手が通り抜けてしまった。

「え?見えてるけど幻影?いや、違うか。光はもともと触れない。玉の形をしているから電球のように触れるんじゃないかって思ってしまったんだ……。失敗失敗。この世界にはそもそも電球なんてないのに」

 つぶやいた声が擦れている。

「喉乾いたなぁ……」

 今は何時なんだろう?

 水差しはないかと見回したけれどない。

 水が飲みたいときは水魔法で出してもらうシステムなんだろうか?新鮮で安全であることは確かだよね。

 そろりとベットから降りて立ち上がってみた。

「うん、大丈夫。どこも痛くない」

 体力が落ちていると言っても、少し動き回るくらいならできそうだ。

 立ち上がると、寝間着姿だ。クローゼットを開くと空っぽ。

 嫁入り道具として何も持たされていない。着てきた服は血まみれだったから処分されたのだろう。

 椅子の上にガウンがあったので、それを羽織る。足元は室内履きでも屋敷内なら問題ないだろう。

 窓を開く。

 石の壁に、木の窓だ。蝶番で内側に開くと、鉄格子がはまっている。

 空の色は茜色に染まっていた。

 いや、まてまて、方角が分からないけれど、これは夕焼けなのか、朝焼けなのか、どっち?

 窓の外から下を見ると、3階ほどの高さに部屋があるのがわかる。建物には足場になるようなものもなくてストーンだ。

「泥棒避けってよりも、逃亡禁止用の鉄格子?」

 それなりに広い屋敷の庭がある。いや、庭というのは怪しい。だだっ広い広場のような場所。庭だと思ったのは、広場の向こうに敷地を囲う壁……高い塀が見えたからだ。その向こうに、街が見える。街の建物は石づくりの2階建て。密集して建てられている。王都の10分の1もない広さの町を塀が囲んでいて、その向こうに畑。さらにその向こうに森。畑にはぽつぽつと火の見櫓のようなものが立っている。

「作物が育ちにくい土地といっていたけれど……畑は割としっかり青々と育ってるように見えるよね……雪に閉ざされる期間が多いのかな?」

 嫁いできたというのに、その領地のことを全く知らないのも恥ずかしい話だ。早急に本を読むかして頭に叩き込まないと。

 ……これはいっそ、しばらくまだ体力が戻らないので。読書するくらいしかできないとでも言って籠っちゃおうかな?

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